「え?ライカで写真って撮れるんですか!?」なんて、驚かれる方もいるかもしれませんね。
でもよく見てみてください。
確かにレンズも付いてますし、シャッターとおぼしきボタンもついています。
そうです、ライカは実は「カメラ」なのです。
ライカって何か、コレクションアイテムか、投資の対象と思われていたかもしれませんが、実は写真も撮れるのです。しかもどんなカメラよりももっと。
ライカはただ単にカメラであるだけではなく、カメラの中のカメラ、「キングオブカメラ」なのです。
ロバート・キャパやアンリ・カルティエ=ブレッソン、木村伊兵衛や土門拳など、一度は名前を聞いたことがあるような巨匠も、実はライカでいくつもの傑作をものにしています。
歴史に名を残す、名だたる名匠たちに選ばれるカメラ、それがライカなのです。
今回はそんなライカを実際に写真撮影(スナップ撮影)に使う際の、具体的な使い方の解説です。
ライカは実は、仕舞っておくだけではもったいない、実に使えるカメラです。
(なお、今回のお話はデジタルではなく、フルマニュアルのフィルムライカです)
目次
ライカとは
ライカはフルマニュアルな上にレンジファインダーという、今のカメラからはかけ離れたカメラであって、使うには少々コツがいります。
しかし慣れると、どんなカメラよりも使いやすいカメラです。
それは一度ライカに慣れると、それ以外のカメラを使おうという気がなくなってしまうほどです。(筆者談)
それはなぜかと言うと、単純に非常に撮りやすいからです。
操作性、コンパクト性、フィーリングといった部分も含めて。
その「撮りやすさ」は、「簡単便利」ということではなく、「手に馴染む」という感覚です。
デジカメのように、コンピュータが最適に支援してくれるといった、「ソフト」の部分ではなく、物理的な「モノ」を「扱う」というハードの部分ですね。
そしてライカは、そのコンパクト性、静粛性、操作性から、スナップ写真で特に実力を発揮します。
というか、ほとんどスナップ写真のためのカメラです。
名だたる巨匠たちがライカで撮った写真も、ありのままの場面をありのまま撮る、いわゆる「スナップ写真」が多数を占めています。
ライカの特徴
ライカはまず、「レンジファインダーカメラ」です。
参考:【一眼レフユーザーの皆さんへ】知ったら使ってみたくなる!?レンジファインダーの真の魅力
その上「フルマニュアルカメラ」です。
つまり、カメラが自動でやってくれることは、何ひとつないのです。
自動カメラに慣れた身には、ここがまずハードルが高い点です。
フレーミングを決めてシャッターを切る以外にも、露出もピントも自分で合わせなければいけません。
つまりライカは、全く「便利なカメラ」ではないのです。
ライカを使う場合、「便利に撮る」という発想はマッチしないカメラです。
では、どういう発想にマッチするのか?
ライカはスポーツ
例えるなら、ライカで写真を撮る、ということは、一種の「スポーツ」です。
頭と身体と目と集中力を総動員した、「撮影」という名のスポーツです。
テニスやゴルフをして楽しむのと同じです。
そして、ライカはそれらにおけるラケットやクラブのような存在です。
スポーツのための道具です。
「ライカ」というラケットを駆使して、「写真」というボールを打つのが「撮影」という名のスポーツです。
そして、スポーツにおいては、ラケットやクラブが勝手にボールを打ってもなんにも面白くありませんね。
同様に「撮影」というスポーツにおいては、カメラが勝手に露出やピントを合わせても、なんにも面白くないのです。
スポーツとしての写真
スナップ写真というスポーツにおいては、目の前の現場から「場面」という球が次々と繰り出されてきます。
それに対して、露出とピントと構図をあわせ、そしてベストタイミングによって、その球を的確にとらえるのです。パシッ。
凡打もありますが、たまにはヒット、ホームランもあるでしょう。
打率3割もいけば、立派な名選手(名カメラマン)です。
ライカで写真を撮る、とはそんな感じです。
スポーツとしての写真とビジネスとしての写真
ライカというカメラは、スポーツにおけるラケットやクラブと同じです。
ですから、いかに使用者の手に馴染むか、いかに身体にフィットして、意のままに操れるか、という「扱いやすさ」を重視して作られています。
それは「簡単」「便利」「効率」という発想とは根本的に違います。
「簡単」「便利」「効率」を追求して作られる最新デジタル一眼レフカメラでの撮影は、「スポーツ」に対して、「ビジネス」に例えられます。
いかにキレイな絵を、いかに効率よく、いかに量産できるか。そんな発想です。
ライカの「道具」に対して、そんな便利・効率重視のカメラは言うなれば「写真製造機」です。
効率よくキレイな絵を量産してくれる「機械」です。
「道具」と「機械」の違い
機械を評価する基準は「性能」です。
「性能のいいカメラだね」は、デジタル一眼レフにとっては、褒め言葉です。
そして、道具を評価する基準は、「扱いやすさ」です。
ですから、ライカに対する評価は「撮りやすいカメラだね」です。
決して「性能のいいカメラだね」ではありません。
- 「道具」と「機械」
- 「スポーツ」と「ビジネス」
ライカでの撮影にあたっては、そのあたりの感覚の違いを認識しておかないと、その面白さがまるっきり理解できないかもしれません。
ライカと「プロサービス」
ちなみにライカ(M型)にはプロサービス(プロユーザーのためのサポートサービス)がありません。
それはライカ(M型)はプロが仕事で使うようなカメラではないことを表しています。
ニコンやキヤノンでは当たり前のこの「プロサービス」ですが、ライカの場合はサポート部門を置くほど、プロが仕事のカメラとしては使っていないのです。
プロが仕事でカメラを使うこと、それは文字通り「ビジネス」です。
プロにとってカメラとは、町工場における旋盤であり、オフィスにおけるパソコンであり、マクドナルドにおけるドリンクサーバーです。
それは業務用機器であり、費用対効果であり、減価償却です。
スポーツのための道具とは存在感の次元が全く異なります。
その場合のカメラは、当然「ビジネス」にマッチしたカメラ、つまり、最新デジタル一眼レフのようなカメラです。
この「プロサービス部門を置いていない」というところも、ライカの特徴の一端を表しています。
ライカでの撮影とは
さて、スポーツはある程度できるようにならないとその面白さがわからないように、スポーツとしての撮影も、ある程度撮れるようにならないと、本当の面白さがわかりません。
押せば写る簡単な撮影に慣れきっていると、まずはその慣れるまでが大変です。
しかし、ゴルフを始めるにしても、テニスを始めるにしても、やっぱり最初は基礎からの練習です。
ライカを始めるにしても、同じように基礎からの練習です。
というわけで、ここまでの内容をまとめると、以下の2点です。
- ライカで撮影する、ということは、スポーツを楽しむのと同じような感覚。
- スポーツは楽しめるまでにある程度慣れが必要なのと同じで、ライカでの撮影にもある程度慣れが必要。
ライカでの撮影とデジタル一眼レフでの撮影の違い
間違えないでおきたいのは、ライカだからといっていい写真が撮れるわけでは全くない、ということです。
いい写真が撮りたかったら、最新デジタル一眼レフのほうが間違いなくいい仕事をしてくれるでしょう。
いやむしろ、ライカは何も仕事をしません。
ライカの場合、仕事をするのは、100%カメラマン自身です。なにしろフルマニュアルなので。
テニスをするのは錦織圭であってラケットではありません。
ライカの場合、いい写真を撮るのは、カメラマンであって、カメラではありません。
いい写真だけが目的なら、最新デジタル一眼レフという高性能マシンを使用するほうが、撮れる確率から言っても量から言っても、ずっと上でしょう。
ですからその目的は「いい写真を撮ること」、それ自体ではありません。
そこで問われているのは、「プレーの質」です。
プレーの質が結果的に写真の質に結びつく、そんな撮り方が「ライカの撮り方」です。
だから「マシン操作」ではなく「スポーツ」なのです。
マシンの性能ではなく、プレーヤーの力量なのです。
ですから、自分の身体と頭を駆使することがおっくうであれば、そもそもライカでの撮影は成立しません。
ライカとはスポーツを「プレー」することですから。
そして、英語の「Play」には「遊ぶ」という意味もあります。というかむしろそっちが第一義です。
「遊び」とは自らが主体的に動き、「それ自体」を楽しむことです。
というわけでライカにおいて撮影は、写真という目的のための手段ではなく、撮影という行為「そのもの」を楽しむということです。
さて、ずいぶん長々と説明しましたが、デジタル一眼レフとの発想の違いをよく理解しておかないと、面白さが全くわからない、となるかもしれないので、ちょっと長めに説明しました。
それでは以上を踏まえた上で早速、ライカでスナップ写真を撮る際の具体的な方法について見ていきましょう。
ライカで撮るスナップ写真【実践編】
まずは事前にこちらの記事を読んでおくと、より理解が進むでしょう。
参考:【スナップ写真の撮り方】スナップ写真は「面白い場面」よりも、場面を「面白く」撮る!
参考:【一眼レフユーザーの皆さんへ】知ったら使ってみたくなる!?レンジファインダーの真の魅力
スポーツとしてのスナップ写真における1シークエンスとは
スナップ写真の撮り方でも書きましたが、スナップ写真を撮る順序は基本的に、
- 「状況を見る」→「撮る内容を決める」→「撮る」
です。
スナップ写真の撮り方自体については、上記の記事にゆずるといたしまして、具体的にライカを操作する部分から入ります。
状況を見て撮る内容を決めたら、まずレンズを選択し、立ち位置を決めます。
それから露出を合わせます。
もちろんマニュアルで設定します。
それから次に、ピントを合わせたい位置にピントを合わせます。これまたマニュアルです。
次に、カメラのファインダーでフレーミングを調整します。写真に写る範囲内のものの配置を調整するということですね。
次にタイミングを見計らいます。スナップ写真では状況は常に動いているので、最もいいタイミングを見計らってシャッターを切ります。
そして、スナップ写真は1枚シャッターを切って終わりではありません。
さらにいいタイミング、さらにいいフレーミング、ピントの調整、露出の調整、場合によっては立ち位置を変えたりレンズを変えたり。
そしてそのシーンが終わりを告げるか、「撮れた」と思えるまで、撮り続けます。
これがライカでスナップ写真を撮る、1シークエンスです。
このシークエンスの積み重ねで、スナップ撮影は出来上がっています。
ゴルフで言えば1ホール、テニスで言えば1ゲーム(または1セット)を繰り返してひとつの試合が構成されていますが、そんな感覚ですね。
「スナップ撮影」というスポーツでは、
- レンズ選択・立ち位置の決定
- 露出
- ピント
- フレーミング
- シャッタータイミング
- 1〜5を繰り返し、納得のいく絵が撮れるか、そのシーンが終わったら終了
これが1シークエンスです。
それでは具体的な操作部分である2~4を、個別に見ていきましょう。
露出
フィルムライカで露出を合わせるとは、すなわち絞りとシャッタースピードの組み合わせを決めるということです。
(露出自体についてはこちらの記事をどうぞ↓)
デジタルにおいては、ISO感度も1カットずつカメラで設定できますが、フィルムライカでは、そこは装填するフィルムによって決まります。
ISO400のフィルムを入れれば、その一本撮り切るまでずっとISO400です。途中で変更はできません。
ですから、フィルムライカでの露出の設定は、絞りとシャッタースピードのみです。
露出設定のコツ
ここでのコツは、使うフィルムのISO感度を固定してしまうことです。
使うフィルムのISO感度を、さっきは400、今度は1600とコロコロ変えると、露出の設定を間違える元です。
常に感度を一定させておけば、あと考えることは、絞りとシャッタースピードのみです。
そうやって撮影をシンプルにしていくことによって、より撮影そのものに集中することができます。
そしてその固定する感度は、画質の点と、晴れの日から屋内まで幅広くカバーできるという点で、ISO400が最も使いやすいでしょう。
露出の目安
露出の目安は各フィルムのデータシートに書いてある通りです。
晴れの日の屋外、曇り、日陰など、その数値通りに設定すればだいたい問題ないでしょう。
しかしながら、同じ「日陰」や「くもり」といっても、状況によって露出値は結構違います。
ですからデータシートにも、「露出計の使用をお勧めします」と書いてありますが、露出計の使用はやはりお勧めです。
参考:デジカメ撮影で露出計を使うことには、こんな意味があります
そもそも今までカメラ任せにやっていたなら、突然露出と言われても、まるっきり想像もつかないと思います。
まずは露出計を使って、実際の状況と、その場の露出値についての馴染みを作るところが、いわゆる「基礎練習」のひとつです。
そして、露出計を使うことによって、「エッ!ここってこんなに暗いの!?」とか「意外と明るいな」などのストックも出来てきます。
そうやって、何も見なくてもある程度露出が感覚でわかるようになることが、「ある程度撮れる」ということのひとつです。
スポーツとしての撮影では、自分で光を読むというのも、重要な仕事の一つです。
ライカでの撮影はスポーツであるがゆえに、やることなすこと全てがフィジカルです。
それを「めんどくさい」と思っていたら、そもそもライカでの撮影は成立しません。
ライカでの撮影の面白さは、何にも頼らないで、自分の身一つで撮影の全てをまかなうところにあります。
いい写真を、自分の身体でゲットするところが面白いのです。
(ちなみにスナップ撮影で使う露出計は、セコニックの「ツインメイト L-208」が、コンパクトでオススメです)
フィルムにおける露光のコツ
さて、ネガフィルムを露光させるにはコツがあって、(あ、ちなみに使用フィルムはネガフィルムを想定しています。誠に勝手ながら…)標準露光よりも若干多めに露光をかけるのがコツです。
なぜなら、ネガフィルムはオーバー方向(露光過多)に耐性が強いのと、フィルムの実効感度(実際の感度)はパッケージに書かれている感度より低いことが多いからです。
(さらに細かいことを言えば、レンズの光量ロスもありますし↓)
ですから、ネガフィルムでは1段くらい多めに露光をかける気分でちょうどいいのです。
このあたりはデジタルとは逆ですね。
デジタルでは白飛びしたらアウトなので、露出はむしろ切り詰めて露光することが多いですね。
そしてぶっちゃけ、ネガフィルムでの露光は、ザックリでいいのです。
ネガフィルム自体は反転画像で、それ単体では何が何やらわかりません。
ちゃんと見られる画像にするには、そこからさらに反転させて、プリントやらデータやらにする必要があります。
そしてネガからそういったプリントやらデータやらに変換する時点で、ラボで適宜補正されてしまうので、露出の多少のバラツキは分からない程度に吸収されてしまいます。
逆に言うと、ネガフィルムでそんなに細かい露出の差にこだわっても、あんまり意味がないのです。
露出に細かくこだわってるヒマがあったら、状況をよく見る時間に充てたほうが、ずいぶん有意義です。
なにしろ同じくネガフィルムを使う「写ルンです」なんて、そもそも露出の設定なんてしないですからね。
露出のまとめ
ライカにおける露出のまとめ、それは「ザックリでOK」ということです。
そもそもライカではシャッタースピードは1段単位だし、絞りは半段です。
デジタルの、例えばライトルームで露光値を0.1単位でコントロールするのと比べたら、極めてアバウトです。
身体での撮影では、「微に入り細を穿つ」のではなく、「全体性」が大事です。
露出だけ、あるいはピントだけに細かくこだわるのではなく、全体をいっぺんにやる、全体を同時にやる、それが身体で撮る撮り方です。
ですから、ライカでは露出の設定値の幅も、全体をいっぺんにやるのにちょうどいいサイズ感(1段とか半段)です。細かすぎず、大まかすぎず。
そして、実際ネガフィルムの撮影では、それくらいの幅のコントロールで何の問題もないのです。
ピント
次、ピント合わせいきましょう。
ライカでのピント合わせ、つまりレンジファインダーのピント合わせは、それ自体は何も難しくありません。
ファインダー内中央の小さな四角に写る画像のズレを合わせるだけです。
参考:【一眼レフユーザーの皆さんへ】知ったら使ってみたくなる!?レンジファインダーの真の魅力
難しいとしたら、マニュアルフォーカスなので「動く被写体」の場合にピント合わせが追いつかない、ということになるでしょう。
動かない被写体なら何も難しいことはありません。
ライカでのピント合わせについては、「動く被写体のときにどうするのか」、この点に集約されるかと思います。
動く被写体に対する対応
動く被写体に対する対応は、ほぼ以下の3点です。
- 置きピン
- ゾーンフォーカス
- がんばる
置きピン
「置きピン」は、被写体が通るであろう位置にピントを置いておいて、被写体がそこに来た時にシャッターを切るという手法です。
しかしこの手法は、逆に言うと、被写体がその狙った位置に来ないとシャッターが切れない、ということでもあります。
つまり、使えるのは「動きが読める被写体」に限ります。
ゾーンフォーカス
ゾーンフォーカスは、絞りをある程度絞って被写界深度(ピントが合って見える範囲)を広げておき、その範囲内に被写体を入れて撮影する手法です。
たとえば、50mmのレンズで5m先の被写体を撮影する場合、絞りがF2.8だとピントの合って見える範囲は前後の幅約1.7mですが、F8だと約6mになります。
絞りを絞ることによって被写界深度を広げ、被写体が多少前後に動いたとしても、カバーしてしまおうというわけです。
そして、絞りがいくつのときに、どれくらいの範囲ピントが合って見えるのかの指標は、レンズ本体に「被写界深度目盛り」として示されています。

ズミクロンM F2/28mm ASPH.
中央のピントリングに「m」「feet」と書かれていて、一番下に絞り値が書かれていますが、この組み合わせによって、その絞りの時のピントの幅がわかります。
絞り値は中央の「2」を中心に左右に同じように書かれていますが、向かって左が被写体から「手前」にピントが合う範囲、向かって右が、被写体から「奥」にピントが合う範囲です。
いま指標は無限遠(∞)に合っていますが、この時、一番下の「8」という数字の上は「3m」になっています。そして「16」の上は「1.5m」です。
これは、絞りがF8ならカメラから3mの距離でもピントが合って見えるということです。そして、F16ならば1.5mです。
絞り値とピントの合う範囲の対応がそのまま示されています。
これによって、どれくらいの絞りであれば、どれくらいの範囲でピントが合うかがわかります。
過焦点距離について
さて、この「ピントが合って見える範囲」ですが、上記のようにピントを無限遠(∞)に合わせることは、そこからさらに「奥」に合って見える範囲、すなわち絞り値の向かって右の範囲を切り捨てることになるので、ムダです。
無限遠のさらに奥にピントが合っても意味が無いので。w
ですから、やるなら「ピントが合って見える範囲」の後端を無限遠の位置にセットしたほうが、無限遠までピントが合いつつ、手前の合って見える範囲をより広げることが出来るので効率的です。
その、「ピントが合って見える範囲の後端を無限遠の位置にセットしたときのピントを合わせた位置」を過焦点距離と言いますが、これは、無限遠を含めつつピントの合って見える範囲を最大化するという点で有効です。
言葉にするとややこしいですが、やり方は簡単です。
撮影時の絞りが例えば「F8」であれば、ピントリングの無限遠(∞)の位置を向かって右の「8」の位置に持ってくればいいだけです。
そうすると、向かって左の「8」から、向かって右の「8」の幅が、被写界深度(ピントが合って見える範囲)になりますので、上の図だと、だいたい1.7mから∞です。
(ちなみにこの時のピントを合わせた位置、上の図では3.4m付近が「過焦点距離」です)
これがピント位置を「∞」に持ってくると、F8の時の手前側のピントの合う位置は3mとなり、先ほどの1.7mに比べると、だいぶ後ろに下がってしまいます。
このやり方は、画面全面にピントを合わせる「パンフォーカス」を得る時によく使われる手法ですが、そうでない場合でも被写界深度を最大化するには有効な手段です。
スナップ撮影と絞りの選択
さて、以上は絞り値の選択によって被写界深度をコントロールしようという話でしたが、とは言えスナップ撮影では、いつでも好きな絞り値を選択できるわけではありません。
状況によっては暗くて絞ることが出来ない場合もあるでしょうし、早いシャッタースピードが必要で、絞りのほうを開けなければいけない場合もあるでしょう。
そいういう制約がある中で、いかに素早く最適な絞り値を割り出し、最適な位置にピントをセットするか…。
という動きは、やぱりスポーツに近いものがあります。
がんばる
そして最後の「がんばる」は、文字通り被写体の動きを追って、「がんばって」手動でピントを合わせ続けることです。
人間動体予測フォーカスです。
なんとっても、ライカでの撮影は「スポーツ」です。
テニスでもボールをラケットのスイートスポットに当てるために、細かい反応で調整するわけですが、カメラの場合も、ピントリングの細かい調整によってピントのスイートスポットに被写体を「当てる」わけです。
最終的なピントの対応策
最終的に、動体のフォーカスに関しては、上記3つを組み合わせて対応するという形になるでしょう。
絞り値で被写界深度をコントロールしつつ、「がんばり」で被写体を追い、場合によっては置きピンで対応したり。
マニュアルでピントを追う作業は、ライカの実にフィジカルでスポーツらしい部分であり、面白さのひとつです。
「確実に」撮るなら、絶対最新一眼レフのほうが有利ですが、撮れなかった時のくやしさまで含めて楽しむのが、ライカでのスポーツ撮影というものです。
フレーミング
次はフレーミングについてです。
フレーミングと言えば、ライカで写真を撮っていて感じることの一つに、「水平垂直がやけに正確だ」ということがあります。
一眼レフの場合、ピッタリ合わせたつもりでも、微妙に傾いているという経験がよくありますが、ライカだと手持ちでもピッタリ合っていることが多く感じられるのです。
それは、組み上げ精度の高さということもあるでしょうし、ホールドしてシャッターを切る際のブレが少ないということもあるかもしれません。また、個体差かもしれません。
実際、最新のデジタル一眼レフをお持ちなら試してみていただきたいのですが、三脚に据えて撮っても、ファインダーでの水平垂直と、実際に撮影した画像の水平垂直に、ズレがある場合があります。
もちろんレンズの収差(歪み)とかいう話ではなく、単純に水平垂直が一致しないという話です。
このあたりは、意外と表に出ない部分なので、みなさんも実際にご自身の目で確かめてみるとよいでしょう。
私の経験は最新のデジタル一眼レフよりも30年以上前の機械式カメラのほうが精度が高い、というものでした。
最新のカメラは、新機能を盛り込むことに熱心で、そうしたカメラとしてのベーシックな部分はお留守になっているのかもしれません。
などと勘ぐりたくもなりますが、ちょっと話がそれましたね。
さて、ライカでのフレーミングの難しさ、それは、一眼レフに慣れている手だと、どうホールドしていいかわからない、という部分にあるのではないでしょうか。
一眼レフのグリップ部分は「がしっ!」と掴むような作りになっていて、しっかり持っている感がありますが、ライカの場合はなんの引っ掛かりもない、ツルンとした長方形です。
…「持ちにくい」。
これが一眼レフユーザーのまず感じる感想ではないでしょうか。
ですから、「ハンドグリップ」なる、一眼レフのグリップを模したようなオプション品も売られているわけです。
ライカをホールドするコツ
ライカのホールドのコツは、「持つ」とか「掴む」ではなく、「載せる」です。
地球の重力と手の支えを拮抗させて安定させるのです。手の力で「掴む」のではないのです。

ライカMP マニュアルより
そもそも物は、何もしなかったら安定しているはずです。
「何かする」から不安定になるのです。
ですから、ホールドのコツも「何もしない」です。
手の上に載せて、支えるだけです。
上記の写真だと、左手にカメラを載せて、右手で支える、ですね。
タテ位置だと右手に載せて、左手で支えてもいいですね。
ライカの特徴の核心のひとつに「軽み」ということがあります。
それはもちろん単純にカメラの質量が軽いということではなく(質量はむしろ重い)、手足のように自由に扱えるということです。
シンプルな操作系、最適なボリューム感、何の引っ掛かりもないツルンとした形状。
いちいちカメラの操作に「取り組まなくて」いいのです。
カメラの存在感は限りなく薄くなり、カメラを扱っていることはほとんど忘れていきます。
そしてホールディングに関しては、ライカはどこにも引っ掛かりがないからこそ、自由に扱えるのです。
引っ掛かりがないからこそ、コロコロと手の中で「転がす」ように扱えるのです。
この点、ライカが「道具」であるという特徴がよくでています。
デジタル一眼レフは、マシンを「操作する」という感覚ですが、ライカは道具を「扱う」という感覚です。
腕のいい美容師の手の中で、ハサミはほとんど「踊っている」かのように見えますが、ライカの場合も同じです。
そして、そんな扱いを可能ならしめているのが、あの最適なボリューム感と、ツルンと四角い形状と、必要最低限の要素を最適な位置に配置した、あの操作系です。
はじめはライカは扱いにくいと感じるかもしれませんが、それは一眼レフの「操作」と同じ感覚で扱うからだと思います。
使い込むことによって手に馴染ませるのがライカです。
そう、ライカの場合は「慣れる」というよりも「馴染む」です。
ライカのファインダーとフレーミングの関係
ライカのファインダーはほとんど素通しで、肉眼でそのまま見ている感覚に近いです。
ライカでのフレーミングは、フレーミングというよりも、肉眼で見ている場面から、「切り取る範囲を選択する」、という感覚に近いものです。
以前の記事で、撮影において大切な要素として「撮影距離」のことをお話ししましたが、スナップ撮影において大切なのは、「撮影距離」と「カメラアングル」そして「切り取る範囲」です。
参考:広角レンズの「パース」と望遠レンズの「圧縮効果」は、実は同じことを言っている、という話
スナップ写真におけるフレーミングとは、ほとんどこの3つで成り立っていると言っていいでしょう。
そして、ライカのファインダーは、ほとんど素通しの肉眼に近い見え方の中に、写真に写る範囲がブライトフレームとして現れます。
まさに、現実に見ている場面から写真に写る範囲を「切り取る」という行為、そのものです。
スナップ写真の撮り方は、撮る内容を決定したら、立ち位置と切り取る範囲を決めます。
すなわち、「どの位置から何mmで」です。
それを一眼レフで撮る場合、離れた位置から望遠レンズでのぞくと「ギョッ!」とするほど被写体がファインダー内いっぱいに写ります。
また逆に広角レンズの場合は、「エッ!」ていうくらい広い範囲がファインダー内に展開します。
これらは両方とも肉眼で見た感覚とは違うものです。
さらにそこにボケも加味されたりして、ファインダー内では肉眼とは違う「レンズの世界」が展開されます。
一眼レフでは、ファインダーをのぞいた瞬間、現実世界からレンズの世界に入ることを余儀なくされます。
これは、「作り込む絵」なら、ふさわしい特徴と言えるでしょう。
レンズの世界に入り込んで、実際に写真になる絵と一体になりながら撮ることができるからです。
しかし、ありのままの場面を切り取るという「スナップ写真」なら、現実世界と地続きのまま撮影が続行できる、ライカのファインダーのほうがふさわしいと言えます。
ライカでのフレーミングのまとめ
「ライカは目の延長」とアンリ・カルティエ=ブレッソンも言っていますが、ライカでのフレーミングはまさにそれです。
「肉眼に違い素通しのファインダーで、見たままの中から写真にする範囲を選択する」これがライカでのフレーミングです。
一眼レフのように、ファインダー内にはボケの演出もなければ、パースも圧縮効果もありません。
レンズの演出によって絵作りをするのではなく、見たものをそのまま「切り取る」だけです。
最初にも言いましたが、撮影というスポーツにおいて、目の前に展開する「場面」は打ち返すべき「ボール」であり、「芯に当てて」「ヒットを飛ばす」べきものです。
その場合カメラは、野球におけるバットでありますから、身体の延長のように自由に扱えることが重要です。
ライカのファインダーは、一眼レフのように「ギョッ」ともしないし「エッ」とも思わない。ましてやボケの効果に「ウットリ」もしない。
味も素っ気もないただの「素通し」です。リアルと直結です。
なぜなら、それが最も「コントローラブル」だからです。目と直結です。
つまるところ、フレーミングにおいてもやっぱりライカはスポーツなのです。
まとめ
さて長々と説明してまいりましたが、まとめに入りましょう。
- ライカは「スポーツ」
まあこのキャッチフレーズが全てを表していますね。
ライカでスナップ写真を撮ることは、一種のスポーツです。
ビジネスのような「結果のための撮影」ではなく、「撮影そのものを楽しむ」、それがライカです。
それはデジタル一眼レフを使うこととは全く違った発想です。
ライカで撮る「真の意味」
実際、フィルムライカで撮影をすると、デジタル一眼レフに比べて、確実に撮影枚数が減ります。
露出もピントもマニュアルであり、1枚シャッターを切るのに非常に時間がかかるのです。
そして、非常に「考える」というクセがつきます。
考えて考えて考えて、ようやく1枚シャッターを切る。
デジタルのように、とりあえず撮っておこう、という発想にはなりません。
フィルムでは「撮った時点」で終了です。
デジタルでは「撮った時点がスタート」ということもありますが。
参考:初心者にも撮れる!デジタル時代における「スゴい写真」の撮り方+α
連写なんて発想もありません。そもそも巻き上げも手動だし。
「1枚」に向けて、あらゆる精力を結集して、撮る。
そして、それだけの精力を結集したにもかかわらず、ピントがちょっと甘かった、露出を間違えてた、タイミングがちょっと違った、などと、なかなか思うような1枚には到達できないものです。
いい写真を撮ることが目的なら、このようなまどろっこしい撮影はムダ以外の何物でもありません。
そのような場合、完全に最新一眼レフを使うべきでしょう。
しかし、ライカは「勝てばいい」という発想ではないのです。いい写真が撮れればそれでいいという発想ではないのです。
スポーツのように、「勝つ」ことが目的ではありません。
それよりも「過程」です。
勝敗ではなく過程に重きを置いた、華道、茶道、武道のような「道」なのです。
「道」とはつまり、目的地に至る「過程」のことです。バスでも徒歩でも「道」を通って目的地へ行きますね。
そのように「過程」に重きを置いたものが「~道」と呼ばれるものです。
つまりライカは「写真道」です。
その目的とするところは、撮れた写真という「結果」ではなく、むしろその写真を撮る自分という「原因」です。
自分という原因を良くすることによって、結果的に撮れた写真を良くするという方法は、言ってみれば良い道を選ぶことによって必然的に良い目的地に至るようなものです。
そのような「~道」に通じるような「道」、それがライカです。
さっきまでスポーツであったライカは、実は華道、茶道、武道と並び称されるような「道」でありました。ライカは実に深いのです。(沼のように)
そしてもちろん言うまでもなく、その道は「道楽」にも通じています。(笑)