「ライカ」ってのは、一部マニアのためのよくわからない高級カメラというイメージをお持ちの方も多いでしょう。
参考:ライカM-Aによって、ついにレンジファインダーカメラはゴールに到達した
参考:ライカM-D(Type 262)が究極のデジカメである理由
しかし、スナップ撮影において、ライカは実に「使える」カメラなのです。
特に「M6」という機種は、機能充実、価格もこなれていて、ライカ初心者でも手を出しやすいカメラです。
筆者は別にライカマニアというわけではありませんし、レンズも純正は高すぎるので、コシナという互換メーカーのレンズを使っているくらいですが、スナップ撮影においてM6は現時点ベストだと考えています。
カメラの使い方は人それぞれなので、その他にもM3最強説や、GR(リコー)最強説、ヘキサーRF(コニカ)最強説などさまざまな説があります。
そんな中でM6は特に、汎用性の高さという点において優れていると思います。
今回はその理由を、「好み」や「フィーリング」といった主観的な要素を排し、客観的に解明していきたいと思います。
あ、ちなみに今回の話は「フィルムカメラにおいて」です。念のため。
目次
スナップカメラの要件
まず、スナップカメラに求められる要件はなんでしょうか。
- コンパクト
- 静か
- 目立たない
- 画質がいい(なるべくなら)
- 多様な条件に対応(画角・F値など)
- 素早く撮れる(速写性)
といったところです。
そういう意味で言うと、昨今の光学ズーム搭載のコンパクトデジカメはなかなかいい線いっていますが、今回はフィルムカメラの話です。
コンデジの話はまたの機会にゆずるとして、話を続けましょう。
まず、これらの要件を満たすフィルムカメラを絞り込んでみます。
コンパクト性
まずコンパクト性という意味で見ると、中判や大判カメラは外されます。
そして、35mm判カメラでも、一眼レフカメラは外されます。コンパクトではないからです。
そうなると残るはコンパクトカメラかレンジファインダーカメラとなります。
参考:【一眼レフユーザーの皆さんへ】知ったら使ってみたくなる!?レンジファインダーの真の魅力
コンパクト性に優れたカメラ
まとめると、コンパクト性に優れたカメラは、
- コンパクトカメラ
- レンジファインダーカメラ
となります。
静粛性
次に、「静かなカメラ」という観点からみてみましょう。
特に街中でのスナップの場合は大きな音を出すカメラは、周りの注目を集めてしまい、いただけません。
また、被写体にも撮っていることを意識させないくらい静かだと、より自然な瞬間を撮ることができます。
カメラの音がでる要因は、主に3つです。
- シャッター音
- フィルム巻き上げ音
- ミラー作動音(一眼レフのみ)
ひとつずつチェックします。
シャッター音
一般的に35mmカメラのシャッターの種類は3つです。
- フォーカルプレーン:縦走りメタル(カシャ)
- フォーカルプレーン:横走り布幕(コト)
- レンズシャッター(チッ)
カッコ内は、それぞれの音を言葉で表したものですが、一般的には上から順に音が大きいと言っていいでしょう。
フィルム巻き上げ音
フィルムの巻上げは2種類に分かれます。
- モーター
- 手動
そして、音で問題になるのは、主にモーターの作動音です。
ミラー作動音
ミラー作動音は、一眼レフのミラーが跳ね上がるときの(バタッ)という音です。
一眼レフは撮影レンズの後ろにミラーを配置し、その画像をファインダーに送り込んでいます。
なので、撮影する時はレンズの後ろのミラーを跳ね上げて、そのさらに後ろにあるフィルム面にレンズの画像を送り込まなくてはいけません。
参考:初心者に贈る「一眼レフ=いい写真が撮れる」わけではない話
そのミラーが跳ね上がってまた戻ってくるときに、音が出る、というわけです。
静粛性に優れたカメラ
静粛性という観点でいうと、これまたやはりミラーの作動のないコンパクトカメラかレンジファインダーカメラかになります。
そしてコンパクトカメラは大体においてレンズシャッターではありますが、同時にほとんどがモータードライブです。
つまり、シャッター音は静かなのですが、フィルムの巻き上げ音がうるさいのです。
そんなわけで、静粛性という点で最終的に残るのは、
- 「手巻き」かつ「横走り布幕」のレンジファインダーカメラ
となります。
目立たない
そもそもカメラ自体がコンパクトであれば目立ちませんが、ここではボディの色について検討します。
ボディの色は、「黒」が一番目立ちません。
なぜなら「黒」が一番反射率が低い色だからです。光を最も反射しないのが黒です。
人がモノを識別するのは、モノから反射してくる光によってですから、あまり光を反射しないということは、それがそこにあることが分かりにくいということです。
そういう意味で、同じライカであっても、シルバーボディよりはブラックボディのほうが目立ちません。
アンリ・カルティエ=ブレッソンは、シルバーしかないM3のボディに、わざわざ黒テープを貼って使っていたそうですが、それはつまり目立たなくするための工夫です。
参考:ライカM-Aによって、ついにレンジファインダーカメラはゴールに到達した
目立たないカメラ
- コンパクトでなおかつ色が黒
画質がいい
画質については、レンズが非常に重要です。
特にデジタルのように後から補正の利かないフィルムカメラでは、レンズの重要性はますます大きいと言えるでしょう。
そうなると選択肢としては、画質のいいレンズを選べるレンズ交換式のカメラか、はじめから画質のいいレンズのくっついている、いわゆる「高級コンパクトカメラ」になります。
画質がいいカメラ
レンズ交換式なら
- 一眼レフ
- レンジファインダー
レンズ固定式なら
- 高級コンパクトカメラ
多様な条件に対応
スナップ撮影では、ありとあらゆるものを撮りますので、選択できる画角は多いにこしたことはありません。
そうなると、レンズ交換式カメラか、固定式の場合だと「ズームレンズ」ということになります。
ここにおいて、「高級コンパクトカメラ」はレンズの性能はいいけど、画角がひとつしかない、という点で省かれることになります。
また、コンパクトカメラについているズームレンズは、画質はともかくとして、F値が暗いです。
スナップ撮影では、室内であったり、夕刻であったり、暗い場面も多々ありますので、明るいレンズが選べることも重要な要素です。
参考:【単焦点のスナップ撮影】レンズ選びの基準とベストレンズの選出
参考:【一眼レフのレンズ選び】単焦点レンズのメリットと使い方
そうなると、残るはやはり、レンズ交換ができるカメラということになります。
多様な条件に対応できるカメラ
レンズ交換ができる、
- 一眼レフ
- レンジファインダー
になります。
素早く撮れる
スナップ撮影では、パッと構えてパッと撮れる速写性も重要です。
もたもたしていると、いい場面はどんどん流れていきます。
その点ではAE(自動露出)・AF(オートフォーカス)の性能にすぐれた電子式の一眼レフやコンパクトカメラが有利でしょう。
しかし、AFはともかく、AEについては、機械といえども間違えることがよくあります。
バババッと撮った一連のシーンが全部暗いとか、逆に明るすぎるということがよくあるのです。
参考:デジカメ撮影で露出計を使うことには、こんな意味があります
そういう意味では、露出は結局「カメラマンの腕」とも言えるかもしれませんが、AFについては、あるほうがやはり早いでしょう。
速写性に優れたカメラ
- AFカメラ
スナップ撮影に最適なカメラ
さて、スナップ撮影における個別の要素に最適なカメラを、以上6点から検討してきました。
ここで一度まとめましょう。
- コンパクト=「コンパクトカメラ」「レンジファインダーカメラ」
- 静か=「手巻き」かつ「横走り布幕」のレンジファインダーカメラ
- 目立たない=コンパクトでなおかつ色が黒
- 画質がいい=「一眼レフ」「レンジファインダーカメラ」「高級コンパクトカメラ」
- 多様な条件に対応=「一眼レフ」「レンジファインダーカメラ」
- 素早く撮れる=「AF(オートフォーカス)カメラ」
という結果になりました。
そして、全ての項目を最もよく満たすカメラは、、、
「手巻き」かつ「横走り布幕シャッター」の黒いレンジファインダーカメラ
です。
それはほぼイコールM6以降のライカです。
ライカの中でも特にM6なワケ
数あるライカの中でも、なぜM6なのか。次にそれをみてみましょう。
まず、M6以前の機種は、一部マイナーな機種を除いて28mmのファインダーフレームがありません。
これでは、先に見た「多様な条件に対応」という項目に漏れてしまいます。
なおかつ、昔の機種だとブラックボディがありません。
ブラックでなおかつ28mmのフレームを備えている、ということになると、選択肢はM6以降に絞られます。
そして、M6より新しいM7以降の機種は単純に価格が高いです。
M7についてはAE(露出オート)が使えるという点で独特です。
そういう意味では、どうしてもその機能が欲しい人にはM7一択です。
しかし、それ以外のM6以降の機種は、カメラの内容としてはほぼ一緒です。
違いはロゴの位置や形状、外装がペイントかクロームか、露出計の有無といった、微差でしかありません。
はっきり言って、価格が何倍も違うほどの意味は見出せません。
そんなわけで最も「実用的なカメラ」として、M6が浮上します。
1984年から1999年までの、実に16年間もの間生産された実績がそれを物語っています。
そうです、M6は最も売れたライカなのです。それはすなわち、M6が最も「使える」ライカであることを証明しています。
また、生産台数が多いおかげで、中古市場でもそんなに高価にならずにすんでいます。
M6を選ぶ7つの理由
それでは最終的に、ライカM6を選ぶ理由を7つにまとめてみましょう。
- コンパクト
- 静か=「手巻き」かつ「横走り布幕シャッター」
- 目立たない=ブラックボディ
- 画質がいい=画質がいいレンズが使える
- 多様な条件に対応=レンズ交換によって多様な焦点距離やF値が選べる
そして、そんな条件を満たすライカの中でも、
- 28mmのファインダーフレームが使える
- 価格が安い
そしておまけとして、
- 露出計も付いている!(意外と便利)
というふうに、大体において及第点を出すのが「ライカM6」というわけです。
レンジファインダーのピント合わせについて
さて、M6はじめレンジファインダーカメラには、オートフォーカスが付いていないという点で速写性に劣るという話でしたが、その点は若干のコツによりカバーすることができます。
次にその点をチェックしておきましょう。
被写界深度を利用する
ライカ用等、マニュアルフォーカスのレンズには、「被写界深度目盛り」というものがレンズについています。
上のレンズで言うと、レンズの一番下に「2」を中心として、左右に「4」「5.6」と、絞り値(F値)として書かれています。
(「2.8」はスペースの都合上省かれています。「2」と「4」の間に線だけ引かれていますね)
その上の「m」「feet」と書かれているのは、ピントの合っている位置(距離)です。
「m」「feet」はピントリング上に書かれているので、ピントリングと連動して動きます。
そして「被写界深度目盛り」は、その「絞り値」の指標と「m」「feet」を組み合わせて見ます。
(ちなみに、一番上の「2」「2.8」と書かれているのは、レンズ自体の絞りを設定する絞りリングですね)
現在、無限遠(∞)にピントが合っている状態ですが、絞り値指標の左側の8の上に「3」という数字がきています。そして16の上には「1.5」です。
これはすなわち、ピント位置が無限遠であってもF値が8であれば、3mの位置でもピントが合う(合って見える)、というわけです。F16なら1.5mですね。
(真ん中から左の絞り値が、被写体から「手前」、右が、被写体から「奥」にピントが合う範囲です)
そうやって、絞り値で「ピントが合う範囲」を調整しながら撮るのです。
「ピントが合って見える範囲」を被写界深度と言いますが、要はその被写界深度内に被写体が入っていればOKなわけです。
つまり、事前に被写体を被写界深度内に入れておき、後は撮るだけ、という撮り方ができるのです。
「背景をボカしたい」など、薄いピントを求めるなら別ですが、レンジファインダーでは、この撮り方は非常に有効です。
実際、アンリ・カルティエ=ブレッソンという有名な写真家は、晴れの日はF8、シャッター1/125、ピントは約5mで固定していたといわれます。
つまり、事実上ピント合わせをしていないのです。速いわけです。
参考:【一眼レフユーザーの皆さんへ】知ったら使ってみたくなる!?レンジファインダーの真の魅力
常にというわけにはいきませんが、レンジファインダーではこうやってある程度速写性を確保することができます。
まとめ
さて、ライカM6はスナップ撮影において、とっても「使える」カメラだということを見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
もちろんあくまで「汎用性」の高いカメラということであり、もっと軽さを重視したい場合や、もっと速写性を重視したい場合など、特殊なケースにはそぐわない場合もあるでしょう。
しかしライカM6は、スナップ撮影において、まんべんなくいろんなケースで及第点をとれるカメラという点で、1台持つ場合には最適です。
筆者の場合、あれも撮りたいこれも撮りたい派なので、昔はスナップにも一眼レフのフルセットを持ち歩いていましたが、やはりかなりの重労働に辟易していました。
その点M6は、コンパクトでありながら多様な交換レンズが使える点で、スナップにおいてかなり満足のいくカメラです。
AFが使えれば言うことないですが、「自分の手で撮った」というマニュアル感は、それはそれで面白いものです。
同じように一眼レフの大荷物に辟易しているみなさんには、ぜひ一度この身軽さを試してみていただきたいところです。
補足
あ、ちなみに1点。
ライカは意外と重いです。
見た目から想像するよりは、「えっ!?」ていうくらいズッシリ重いです。
個人的にはある程度の重みは安定感につながるので、むしろ好ましいですが、この点気になる方は、実機を手にとってからの購入をおすすめします。