広角レンズの「パース」と望遠レンズの「圧縮効果」は、実は同じことを言っている、という話

広角レンズの「パース」と望遠レンズの「圧縮効果」は、実は同じことを言っている、という話

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ロバート・キャパ

みなさんこんにちは。唐突ながらロバート・キャパです。(笑)

さて前回のポストで、レンズの焦点距離と歪み(描写)の関係について少し触れましたが、今回はその点を少し突っ込んで見てみましょう。

参考:ポートレートに最適なレンズが「中望遠」に落ち着いてしまう理由

写真の写りを変えるために、「レンズの焦点距離を変える」というのはよく聞きますが、写真の写りを変えるために、「被写体との間の距離を変える」という話はあまり聞きません。

実際は、写真の写りを変えるのは、レンズの焦点距離ではなく「撮影距離」、つまりカメラマンと被写体の距離です。

それが一体どういうことなのかを、これから詳しく見ていきましょう。

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目次

「焦点距離」と「撮影距離」と「レンズの描写」の関係

まず、同じ撮影位置から同じ景色を撮る場合、レンズが広角だろうが望遠だろうがその写りは一緒です

違いは「切り取る範囲」だけです。

焦点距離と画角

上の図のように、同じ位置から同じ景色をレンズ交換しながら(あるいはズームしながら)撮る場合、違いは切り取る範囲だけであり、写り方そのものは一緒です。

広角レンズは目の前の景色を広い範囲で切り取り、望遠レンズは狭い範囲で切り取る。ただそれだけの違いです。

逆に言うと、28mmで撮った写真を、中央135mmで撮った写真と同じサイズにトリミングして、実際に135mmのレンズで撮った写真と比較すると、それは全く同じ写り方をしています。(もちろんレンズ個々の収差や性能、トリミングによる画像の劣化は抜きにした理屈上の話です)

意外とこの単純な事実はあまり語られませんが、レンズのことを理解するには結構重要なポイントだったりします。

そして、焦点距離の違うレンズで、写真をフレーム内にて同じ大きさに撮ろうと思ったら、今度は撮影位置を変えなければいけません

つまり、135mmのレンズで28mmのレンズと同じ範囲を撮ろうと思ったら、うんと後ろに下がらなくてはいけませんし、逆に28mmのレンズで135mmと同じ範囲を撮ろうと思ったら、うんと前に出なければいけません。

実はそれが、描写の違いを生むのです

一般的には、レンズ交換によって描写の違いを得ると思われていますが、それは違います。(ボケとかそういうのは別ですよ)

描写の違いを生むのは撮影者と被写体の距離であって、レンズの焦点距離ではないのです

広角1本でOK?

そしたらレンズって、広角1本あれば、あとはトリミングによって、50mmで撮ったようにも、135mmで撮ったようにも切り取れるから、それでいいじゃない、となりますね。理屈の上では確かにその通りです。

しかし実際はトリミングは画像の劣化を招きますし、また、長焦点レンズで撮った時とはボケ具合も違います。

理屈の上ではOKではありますが、実際にはあまり使えない、といったところです。

「広角らしさ」「望遠らしさ」の正体

さて、写真の「描写の違い」ですが、これは、各レンズの収差の補正具合であったり、撮影時の絞り値であったり、いろいろありますが、最も大きなものは「遠近感の違い」です。

前回のポストでも少しお話しましたが、改めて詳しくお話しましょう。

レンズは、撮影距離が近ければ近いほど、遠近感が強調されます

前回と同じくワンちゃんの写真です。

鼻デカ犬

この写真でレンズから鼻までの距離が5cmで、レンズから尻尾までの距離が50cmだと仮定します。

そうすると、レンズから鼻までの距離と、レンズから尻尾までの距離の差は10倍です。10倍の距離感です

確かに見た目上も、鼻の10倍くらい遠くに尻尾がある感じです。遠近感が強調されています。

そして次にこちらの写真。

望遠レンズで撮った犬

photo:Tobias Weidner

この写真の撮影距離を仮に10mとしましょう。

すると、レンズから鼻からまでの距離が10m5cmで、レンズから尻尾までの距離が10m50cmです。

大して差はありません

見た目上も、鼻の位置と尻尾の位置に、あまり差を感じませんし、「むしろ尻尾のほうが前!?」くらいの勢いです。遠近感が希薄になっています。

これがつまり、撮影距離による描写の違いです

そして、前者の写真は広角っぽく見え、後者の写真は望遠っぽく見えることと思いますが、描写の違いは「広角だから」「望遠だから」ではなく、実際は「撮影距離が近いから」「撮影距離が遠いから」が正解です。

望遠レンズで、広角で撮るような感覚で被写体に近づくと、画角が狭いので、フレーム内に被写体が収まらない。だから必然的に引いた写真になり、必然的に被写体との間に距離が生まれる。

(また、そもそも望遠レンズは引いて撮ることを想定して作られているので、ピントの合う最短距離が遠めに設定されています。近寄りすぎるとそもそもピントが合いません)

逆に広角レンズで引いた写真だと、被写体が遠すぎて、「点」にしか写りません。だから必然的に寄った写真になり、寄ると距離感が強調され、結果的に「広角っぽい」写真になる。

同じ距離から撮った写真であれば、広角・望遠の各レンズは「写る範囲」が違うだけで、その描写に違いが無いのは最初に見たとおりです。

ですから、最終的に描写の違いを生むのは「広角レンズだから」「望遠レンズだから」ではなく、「撮影距離が近いから」「撮影距離が遠いから」なのです

広角レンズの「パース」と望遠レンズの「圧縮効果」

そう考えると、広角レンズの「パース」、そして望遠レンズの「圧縮効果」。これは同じことを言っている、ということになります。

「被写体を見る距離」という同じ出来事の両極なわけです。

あるひとつのものを「近く」から見たときに見える見え方を「パース」と言い、「遠く」から見たときに見える見え方を「圧縮効果」と呼んでいるわけです

そして、これらの効果は、普段私たちが肉眼でものを見ている見え方と違うからこそ「パース」だの「圧縮効果」だのと、あえて名前が付けられて、「レンズならではの描写」となるわけですね。

たしかに広角や望遠で撮った写真には、肉眼で見た感じとはまた違うような印象があります。

しかし本当にそうでしょうか?

実は肉眼でも見えている「パース」と「圧縮効果」

肉眼でも簡単な実験で、この「パース」や「圧縮効果」を試してみることができます。

同じ太さの鉛筆を2本、前後に30cmくらいの間隔をあけて立てます。

そして片目をつぶり、自分の視点を手前の鉛筆から10cmくらいのところに置いて前後の鉛筆を見るとパースが、手前の鉛筆から1mくらいのところに置いて前後の鉛筆を見ると圧縮効果が、それぞれ見て取れます。

で、ありますから、このレンズならではの特徴とされる「パース」や「圧縮効果」は、実は肉眼でもそのように見えているのです。

ただ、普段はいちいち気にしていないだけです。

また、人間とカメラには、両眼で見るか、片目で見るか、という違いもあるでしょう。(レンズは1コ、つまり片目)

ちなみに広角レンズでは、画面の端が引っ張られるように歪む特徴があり、(これは3次元の「立体空間」をセンサー面という2次元の「平面」に変換する際に避けられない現象)これがまた現実とは違った印象をあたえる原因にもなっています。

いやむしろ、世間的にはこの「広角ならではの歪み」も含めてパースと言っているフシがありますね

また、圧縮効果については、距離的に遠い場所、つまり肉眼の広い視野のごく小さい部分であり、それはつまり普段ほとんど注目していない場所で展開される出来事でありますから、それを望遠レンズで拡大して改めて見せられると「おお!」ってなるわけです。

(「パース」「圧縮効果」についてはこちらをご参照ください↓)

参考:広角レンズの特徴と使い方のコツ【基本編】

参考:一眼レフ初心者におくる「望遠レンズ」の正しい使い方

被写体の「近さ・遠さ」とスケール感

次に、パースが発生する撮影距離についても確認しておきましょう。

たとえばこのような町並みを撮るとき、この効果をパースとは呼ぶけど、その撮影距離は近いとは言えないのでは、という疑問も湧きます。

パース

しかし、「町並み」という大きなものを撮る場合、この距離でも「近い」と言えるのです。

要は、被写体のスケール感の違いです。

犬くらいの小さなものですと、そのスケール感は数センチ、数メートルで事足りますが、町並みくらい大きくなると、そのスケール感は数十メートル、数百メートルです。

仮にこの写真を14mmのレンズで10mの距離から撮影したとすると、同じ写真を135mmのレンズで撮ろうと思ったら、100mくらい後ろに下がらなくてはいけません

…十分近いということがお分かりいただけるかと思います。

「パース」と「圧縮効果」の実際

それでは改めて、「パース」と「圧縮効果」がどういうことかについてまとめておきましょう。

パースとは

被写体に近寄れば近寄るほど、被写体の前後の遠近感の開きが大きくなり、近いものはより近く、遠いものはより遠くに感じる。

鼻デカ犬

もう一度こちらの写真で確認してみましょう。鼻まで5cm、尻尾まで50cmだと仮定して、その距離は10倍

被写体に近づくということは、前後の距離に10倍くらいの差をも生む、ということです。

比率だけでいうと、1m先の人と10m先の人を見るのと同じくらいの違いです。

一般的な距離感からしたら、ずいぶん遠くと言えますね。

これがすなわち「パース」です。

圧縮効果とは

被写体から離れれば離れるほど、被写体の前後の距離感は希薄になっていきます。

被写体の前後の厚みが50cmだとして、その被写体が10m先にいる場合、レンズと「被写体の手前」とレンズと「被写体の奥」の距離の比率は10:10.5、倍率にすると1.05倍です。

レンズから被写体の手前までの距離を1とすると、レンズから被写体の奥は1.05。ほとんど差はありませんね

望遠レンズで撮った犬

photo:Tobias Weidner

この「前後の差を無くす効果」が「圧縮効果」です。

「パース」と「圧縮効果」の実際

これらの効果は、カメラマンと被写体の位置関係だけによって決まってきます。

レンズの焦点距離は関係ないのです。

広角レンズと「圧縮効果」

逆に言うと、広角レンズであっても遠くのものを撮れば、ちゃんとその部分に圧縮効果は見て取れます。

画面内でその部分がかなり小さいので、目立たないだけなのです。

広角レンズで撮った写真

この、いかにも広角な写真も、中央下付近のビル群を拡大してみると、、、

広角からトリミングした圧縮効果

圧縮効果が見て取れます。

手前の高架道路と奥のビル群には実際だいぶ距離があると思われますが、写真上ではかなり縮まって見えます。むしろビル群が迫ってくるように見えます。

望遠レンズと「パース」

逆に、望遠レンズであっても寄ればパースはつきます。

しかし、普通の望遠レンズでは、近距離ではそもそもピントが合いませんし、近距離でもピント合わせ可能な望遠マクロの場合でも、前後がボケすぎて、何が何やらわかりません。

また、そもそも望遠レンズは画角が狭すぎて、遠近感を比較する対象を同時に画角に入れにくい、ということもあるでしょう。

広角レンズと「パース」、望遠レンズと「圧縮効果」が結びつくとしたら、広角レンズのときに「パース」の効果が確認しやすく、望遠レンズのときに「圧縮効果」が確認しやすい、というだけの話ですね。

まとめ

今回は、「パース」と「圧縮効果」の実際を、くわしく見てきました。

広角レンズも望遠レンズも、その描写においては基本的に同じです。

違いは画面を切り取る「範囲」だけです。

「パース」や「圧縮効果」といった描写の違いを生むのは、「レンズ」ではなく、撮影者と被写体の距離なのです。

  • 「パース」=撮影者と被写体の距離が近く、その見え方は一般的な感覚よりも遠近感が強調されて見える
  • 「圧縮効果」=撮影者と被写体の距離が遠く、その見え方は一般的な感覚よりも遠近感が希薄に見える

つまり、「パース」も「圧縮効果」も、「撮影距離」という同一線上の出来事の右端と左端に過ぎない、ということです。

撮影距離と写真の出来不出来

ドキュメンタリー写真においては、基本的に望遠で遠くから撮るよりも、広角で寄って撮るほうが是とされています。そのほうがより、現場の情感が伝わるからです。

また、ロバート・キャパ(トップの写真のおじさん)の名言として、「君の写真が傑作にならないのは、あと一歩、被写体に近づいていないからだよ。」というものがあります。土門拳も同じようなことを言っていますね。

「撮影距離」と「写真の出来不出来」の間には、実際、密接な関係があります

撮影者が被写体を見る立ち位置はそのまま、撮影者が被写体を見る「見方」を示しています。

キャパやその他の言っている「寄れ」ということは、本当はもっと寄るべきだと分かっているのに、躊躇して寄れないことへの戒めです。単純に寄ればいいという話ではありません。

正しい写真を撮るためには、正しいポジションに立つことが重要なのです。

それは寄るべき時もあるでしょうし、離れるべき時もあるでしょう。

カメラマンはレンズのうんちくには詳しいけど、撮影距離には無頓着な場合もあります。

最新の高性能レンズよりも、撮影距離の一歩二歩の違いのほうが重要な場合もあります。

なので次回の撮影の際、改めて問うてみてください。

あなたが撮ろうとしているその距離、OKですか?

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