単焦点レンズとズームレンズには、いろいろな違いがあることはみなさんもご存知でしょう。
- 焦点距離を変えることができるorできない。
- 収差の補正具合
- レンズの明るさ
- レンズの大きさ・重さ
- 価格
等など。
参考:【一眼レフのレンズ選び】単焦点レンズのメリットと使い方
しかし、この「単焦点」と「ズーム」の二つには、実はあまり知られていない違いがもうひとつあります。
あまり知られていないかもしれませんが、結構画質に関わる大きな違いです。
今回はそんな違いをひとつ、ご紹介しましょう。
目次
ズームレンズの特徴
さて、その違いを知るために、まずはズームレンズの「ある特徴」を理解しましょう。
レンズの構成枚数
写真用のレンズというものは、1枚のレンズだけではなく、何枚かのレンズの組み合わせで作られています。
なぜなら、レンズには「収差」というものがあって、1枚のレンズだけでは、見たままの画像をそのまま再現することが困難だからです。
(収差というのは、像が歪んだり、色がズレたりするような、肉眼で見える本来の画像との差異のことです。)
そこで、何枚かのレンズを組み合わせることによって、より、見たままの画像に近くなるように補正しているのです。
単焦点レンズの場合は、焦点距離がひとつなので、比較的少ない枚数で良好に補正することができます。
しかしズームレンズの場合だと、焦点距離を変えることができる分、その構成はより複雑になり、結果的に使用するレンズの数は、単焦点に比べてかなり多くなります。
キヤノンレンズでの例
ここでキヤノン製の現行レンズで、単焦点とズームの構成枚数の比較をしてみましょう。
単焦点は85mm、ズームは同じ85mmをカバーする70-200mmです。
単焦点レンズ:EF85mm F1.2L II USM=7群 8枚
ズームレンズ:EF70-200mm F2.8L IS II USM=19群 23枚
※「群」というのは、複数枚のレンズを貼り合わせたものを「1群」と表現しています。
キヤノンHPより
枚数で約3倍の差です。
そういうわけで、ズームレンズの大きな特徴のひとつに、レンズの構成枚数が多い、ということが挙げられます。
レンズの構成枚数の違いが生むもの
レンズというものは、ガラスで出来ています。
ガラスは光を透過しますが、どんなに優れたガラスであっても、透過率100%ということはありません。
表面で反射したり、中で吸収されたりして、必ずある程度の光量ロスがあります。
(反射を抑えるため、レンズ表面には「コーティング」という処理を施しますが、それでも100%ということはありません。)
そう考えると、例えば同じ85mm f/2.8であっても、単焦点とズームでは、レンズ構成枚数の多いズームのほうが最終的にセンサーに届く光の量が少ないということになります。
FナンバーとTナンバー
同じF値でも、ズームと単焦点で光量が違う。
ではいったいF値とは何なのか、という話になってきます。
Fナンバーとは
写真用レンズのスペックのひとつに、どれだけの量の光を取り込めるかという数値、「Fナンバー(F値)」があります。
これは、「口径比」とも呼ばれているように、単純にレンズの焦点距離と口径の比率です。
レンズの口径が大きければ大きいほど光を取り込む量が多くなる。
入り口が大きければ大きいほど、たくさんの光が入ってくるという、全く単純にしてわかりやすい話ですね。
Tナンバーとは
しかし、センサーに届く「実際の」明るさを測る場合には、光がレンズを通過する際の光量ロスも考慮に入れなければいけません。
その光量ロスを考慮に入れた、「実際の」明るさを示すものを「Tナンバー」といいます。
その昔、ミノルタに「STFレンズ」というものがありましたが(現在でもソニーが引き継いで販売していますが)、そのFナンバーは2.8、そしてTナンバーは4.5と表記されています。
それはつまり、口径比の上ではf/2.8ですが、実際の明るさはf/4.5相当ということです。
ちなみにこのSTFレンズは、ボケを美しくするために、光量をなだらかに減ずるエレメントをレンズ内に組み込んでいます。
そのために明るさの理論上の数値である「Fナンバー」と、実際の数値である「Tナンバー」が大きくかけ離れてしまっているのです。
それでわざわざ「Fナンバー」とは別に「Tナンバー」を表記しているわけです。
単焦点レンズとズームレンズのあまり知られていない違い
普通のレンズはF値とT値の値がここまで大きく離れていないので、わざわざT値は表記されていません。
しかし実際には、同じFナンバーであっても、レンズによって最終的にセンサーに届く光量は違うのです。
その違いは、このSTFレンズのように1段以上も違うということはありませんが、単焦点とズームだと、1/3~半段くらい違うこともあります。
これが単焦点レンズとズームレンズのあまり知られていない大きな違いです。
なぜあまり知られていないのか
ズームレンズが商品としてラインナップされて、実際にもたくさん使われているのは、ほぼ35mm判かそれ以下のカメラです。
主にプロが使うような中判カメラや大判カメラでは、ズームレンズはほとんどありません。
そして、その撮影方法ですが、35mmカメラは機動性重視であり、露出計を使ってじっくり撮るような撮影方法は、プロや一部のハイアマチュア以外にあまりありません。
要するに、一般的にはカメラ内蔵の露出計を使って、オートで撮ることが多いということです。
そして、カメラ内蔵の露出計は「TTL」(Through The Lens)と言って、レンズを通過した光を測光します。
つまり、レンズを通過した光が明るかろうが暗かろうが、それに合わせた露出をカメラが勝手に決めてくれるので、その明るさが実際どうであるかを知る機会がないのです。
それは、あえて比較してみて、初めてわかることなのです。
ただ暗くなるだけではない「光量ロス」
「同じ露出だと、ズームレンズは単焦点よりも暗く写る」
これはあまり気にされないかもしれませんが、事実です。
しかし、暗かったらその分露出を上げて撮れば同じではないか、と思われるかもしれません。
もちろん、光の「量」の問題だけならその通りです。
しかし、「光量ロス」とは、「量」の問題だけではない部分があります。
実際に同じ焦点距離・同じ露出の、単焦点とズームの画像を比べてみると、画像のクリアさ、コントラスト、発色など、単純に明るさだけではない、総合的な「光のクオリティ」の違いに気づかされます。
それは、収差の補正といった、レンズの技術的なハナシではなく、純粋に光そのもののクオリティとでも呼ぶべきものです。
「素材」としての光
光を「エキス」に例えてみましょう。
光量ロスとはすなわち、光の「うまみエキス」が失われる過程です。
ある単焦点レンズは、100入ってきた光のうまみを最終的に95センサーに届けました。
そしてあるズームレンズは、100入ってきた光のうまみを85、センサーに届けました。
ズームが届けた85を水でうすめて95にしたとしても、(見た目上の露出を同じにしたとしても)純粋な95とはうまみが違うことはご理解いただけるでしょう。
失われたうまみは、あとから足すことはできません。
なるべく無くさないように届けるしかないのです。
「そんなマグロの鮮度みたいな話があるのか」と思われるかもしれませんが、ぜひ実際にご自分でテストして確かめてみてください。
光とは確かに「素材」で、素材の味を生かすとはこういうことか、と理解されることと思います。
まとめ
単焦点とズームのあまり知られていない大きな違い、いかがでしたでしょうか。
単純に光量ロスの話をしようとしたところが、少し話が飛躍してしまいました。
しかし、これらの話は実際に目で見て確認してみると、確かに感じられることです。
まとめると以下の通りです。
- 単焦点とズームには、レンズの構成枚数に大きな違いがある。
- 基本的に単焦点はレンズ枚数が少なく、ズームは多い。
- そして、レンズの構成枚数が多いほど、そこを通過する際の光量ロスが大きくなる。
- そして、光量のロスは「光質」のロスを招き、最終的な画質の差となって現れる。
という話でした。
単焦点とズームの画質の差については、よく語られることですが、「レンズの構成枚数の違い」という観点からも、このように見ることができます。