少し前のポストでもちょこっとご紹介しましたが、ポートレートを撮るには、いわゆる「中望遠レンズ」が最適だと言われています。
逆に85mmを中心とする中望遠レンズ群は別名「ポートレートレンズ」とも呼ばれています。
ポートレートとはすなわち、「人物の魅力を最大限引き出して撮る」ということなので、その描写は、人物を中心に考えなくてはいけません。
そのことと「中望遠レンズが最適」ということがどう結びつくのか?
今回は「レンズの描写」という点に着目して見ていきましょう。
ポートレート撮影で、理由をわかってレンズを選択するのと、理由もわからず「なんとなく」選択するのでは、雲泥の差です。
撮影とはすなわち、「各要素をコントロールすること」なので、今回の記事でまずはポートレートにおける「レンズのコントロール」について、理解を深めておきましょう。
目次
人物の描写に最適なレンズとは
まずは、人物の描写に最適なレンズとはどんなレンズかを考えてみましょう。
まず大事なことは、「歪まない」ということです。
レンズは現実そのままを描写するものと思われているかもしれませんが、実際はあくまで現実の「近似」です。
現実と全く同じくそのままを描写するわけではありません。
レンズは目の前の光を集めて、センサー面に映し出すわけですが、その際にどうしても歪みやズレが生じます。
ぴったり正確に現実と一致するわけではないのです。
そもそも「3次元」と「2次元」だし。
しかしそこがまた写真の面白いところでもあります。
なぜなら、その歪みやズレが逆に「レンズの個性」を生む要素にもなっているからです。
ポートレート撮影の正道
そんなわけでレンズにはいろいろな個性が存在するわけですが、人物の描写においては、「(なるべく)歪まないレンズ」を選択することがとても重要です。
なぜなら歪むとその人がその人じゃなくなってしまうからです。
人物を描写する際にはまず、「その人がちゃんとその人であること」が重要です。
その人がちゃんとその人であるという前提の後に、ライティングやアングルやポージングで魅力を引き出していくのがポートレートの正しい順序です。
レンズの「特殊な」描写力に頼った撮影は、あくまで変化球にすぎません。
まずは正道からマスターしましょう。
撮影距離と歪みの関係
さて、「歪まないレンズ」。
まずこの時点で中望遠以上と決まってしまいます。
広角レンズが歪むというのはよく知られているので、納得がいくと思いますが、では「標準レンズ」は?
結論から言うと「標準レンズ」であっても、顔のアップを撮るくらいに寄れば歪んでしまいます。
そうです、「寄る(被写体に近づく)」と「歪む」のです。
ではなぜ寄れば歪むのか、その点を少し解説しておきましょう。
歪みの原因
まず「歪み」とはそもそも何か。
それは遠近感のギャップ、と言えます。
遠近感とは、近くのものが大きく、遠くのものが小さく見えるということですが、その、近くと遠くの見え方の差が「現実と違う」ということがすなわち歪みです。
たとえば広角レンズは、現実よりも、近くのものがより大きく、遠くのものがより小さく見えます。このアンバランスが歪みの原因です。
ひと昔前に流行った「鼻デカ犬写真」は、この特徴を利用したものですね。
そして、撮影距離、つまり、被写体の位置がカメラから近いほど、この歪みが大きくなります。
それはなぜかというと、極端な話、撮影距離が近い時に、レンズと鼻の頭の距離が5cmで、レンズと耳の距離が10cmだとしましょう。
すると、その距離の差は倍です。
鼻と耳の遠近感の差が倍ということです。
そして例えば、撮影距離が10mの場合、レンズと鼻の頭の距離は10m5cmで、レンズと耳の距離は10m10cmです。
ほとんど差はありません。誤差の範囲です。
ですから被写体が10m先というような十分遠くにいる場合、鼻と耳には遠近感の差はつかない、つまり歪まないというわけです。
(詳しくはコチラ↓)
レンズの焦点距離とポートレート
例えば人物の顔アップを画面上で同じサイズに撮ろうと思ったとき、広角レンズであるほど人物に近寄らなければいけないし、望遠レンズであれば逆に離れなくてはいけません。
広角レンズとポートレート
広角レンズは写る範囲が広いので、その広い範囲いっぱいに写そうと思ったら、自分が近づくしかありません。(まあモデルに来てもらってもいいですが)
そして、近寄るということはすなわち「歪む」ということでした。
なので広角レンズは歪むのです。
逆に広角レンズであっても、望遠レンズと同じように、被写体からの距離が十分に離れていれば歪みません。
ただ広角レンズは写る範囲が広いので、望遠レンズと同じ位置から撮ると、被写体がとても小さく写るというだけの話です。
そして、人物の顔アップくらいのフレーミングでも歪まないラインが「中望遠以上」となるわけです。
望遠レンズとポートレート
では逆に、中望遠よりももっと焦点距離の長い「望遠レンズ」だとどうなのか。
望遠レンズは広角レンズとは逆に、写る範囲が狭いので、その狭い範囲に被写体を入れようと思ったら、自分がさがるしかありません。
そうなると今度は、遠近感が圧縮される「圧縮効果」とよばれる効果が発生してきます。
広角レンズでは、遠くのものはより遠く、近くのものはより近く見えましたが、望遠レンズでは逆に、遠くのものが現実よりも近くに見えるのが特徴です。
その結果、遠くのものと近くのものの遠近感の差が小さくなります。
そのことを、「圧縮効果」と呼びます。
広角レンズは近くのものと遠くのものの差を広げ、望遠レンズは近くのものと遠くのものの差を縮める、と言えますね。
そして望遠レンズでポートレートを撮る場合は、その圧縮効果によって、顔が圧縮される、つまり前後が押しつぶされて「平板」っぽくなってしまうのです。
焦点距離の違いによる描写の違い
こちらのサイトに興味深いレポートがあります。
参考:This Image Shows How Camera Lenses Beautify or Uglify Your Pretty Face(外部サイト)
レンズの焦点距離によって、人の顔がどのように違って見えるのかのテストです。
19mmから350mmまでのレンズで、人物の顔が同じ大きさになるようにフレーミングしながら撮っています。
こうして並べてみると、その描写の違いが一目瞭然です。
みなさんはどの顔がベストだと思われますか?
このサイトでは「135mm近辺がベストだと言われているが、結局は被写体の顔の構造による」としていますが、このテストを見る限りでは、やっぱりベストはそのあたり、つまり「中望遠」付近に落ち着くのではないでしょうか。
また、焦点距離が長すぎると(望遠すぎると)、圧縮効果によって顔に遠近感がつかず、それによって立体感が失われているのが見て取れますね。
そして標準50mmも、中望遠に比べると結構歪みがハッキリわかります。
まとめ
以上見てきましたように、ポートレートには中望遠レンズが最適であると言われるのには、やはり理由があるわけです。
広角レンズでは現実よりも遠近感がつきすぎて歪み、望遠レンズでは逆に、現実よりも遠近感がつかなすぎて歪む。
その中間のもっともバランスのいい位置が、「中望遠」というわけです。
そして中望遠といっても70mm~135mmくらいまで、それなりの幅があるわけですから、歪まない程度内で立体感のつき方の好みを反映させることができますし、被写体によって微調整するということも可能でしょう。
また、今回はレンズの「描写」のみに着目してポートレートのレンズ選択を行いましたが、中望遠レンズは、被写体との間の適度な撮影距離や、背景のボケ具合においても、ポートレートに向いているレンズだと言えます。
今回のこの基本を押さえることによって、バリエーションとしてのレンズ選択も自信をもって行えますね。
まずはポートレートの軸となるレンズ、それはやはり「中望遠」に落ち着いてしまうという結果でした!
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