さて、ライティングです。
「ライティング」と聞いて、みなさんはどんなイメージを思い浮かべますか?
「何かすごいテクニック!」
「魔法のような華麗な技!!」
そんな何か「すごいもの」「特別な技」みたいなイメージがあるかもしれませんが、実は全く逆です。
ライティングとは、ライティングを感じさせないのが、本当のライティングです。
まるで一休さんのトンチのようですが、つまり、「何もやっていないかのように見える」のが、まずマスターすべきライティングの基本です。
- 不自然な感じを抱かせない。
- ストレートに被写体、あるいは写真自体に目が行く
なぜなら、ライティングは「手段」であって「目的」ではないからです。
これは簡単なようで、実は難しい。
例えば我々は映画を見ますが、いい映画は本当にストーリーにのめり込みますね。
そしてその映画の各場面に、実はすごい照明のテクニックが数々盛り込まれているなんて、気づきもしません。
全く「フツーに」見ています。いえ、「フツーに見えるようにしてくれている」のです。
実際、その撮影現場を見たらきっと驚くはずです。
「こんなところまで!?」と細かく仕組まれた照明の数々に。
ライティングの基本とは、つまりそういうことです。
いかにフツーに見えるか。
これに尽きます。
今回は写真撮影におけるライティングの基本と題しまして、まず押さえておくべき根本的なライティングの仕組みについて解説しました。
あらゆる撮影のベースとなる考え方として、ぜひマスターしてください。
目次
ライティングの基本的な考え方
まず、ライティングの「基本的な考え方」ですが、これはよく言われるように、「太陽はひとつ」ということです。
この地球上には太陽はひとつなので、光源をひとつと考えて組み立てていくのが、もっとも自然に見えるコツです。
光源をひとつに絞るのが最もシンプルにして、最も基本となる考え方です。
昔アラン・ドロンの主演で「太陽がいっぱい」なんて映画がありましたが、光源がいっぱいだと、やはりどこかに「ほころび」がでるのです。
劇中でも彼の完全犯罪は最終的に「ほころび」をみせるわけでありますが、あの映画は多灯ライティングの危うさを余すところなく描き出しています。
ライティングを勉強されている方はぜひ一度ご覧下さい。(嘘。笑)
ライティングの具体的な組み立て【基本編】
さてそれでは、「太陽がひとつ」をどのようにライティングの組み立てに落とし込んでいけばいいのでしょうか。
次にそれを見ていきましょう。
まず1灯(メインライト)
さて、太陽はひとつであるからして、まずはシンプルに1灯立てましょう。
場所はどこだって構いません。
レンブラントとかショートとかプロードとか、光の角度についていろいろ言われていますが、まずはそこは考えなくてOKです。
実際の太陽だって、被写体に対していろいろな位置を取るわけです。
しかし、「高さ」については、被写体よりも「高い位置」である必要があります。
なぜなら実際の太陽が高い位置にあるからです。
太陽が足元にあるのは不自然ですね。
はい、被写体に対してどっか高い位置に1灯立てましたか?
まずはそれでライティングは完成です。
以上、終了です。お疲れ様でした。
太陽はひとつでありますから、被写体を照らすライトが1コあれば、それで終わりです。
…。
しかし、それではあまりにプリミティブな完成度なので、そこに対してチョット手を加えたくなりますよね?
そうです、写真におけるライティングとは、ほとんど「フォロー作業」です。
1灯のメイン光源に対して、フォローフォローフォローとやって、より完成度を高めていくのが、すなわちライティングです。
もちろん、1灯で問題がない、これで意図した表現が完成ならば、本当にそれで終わりです。
2灯目以降(フィルインライト)
「太陽はひとつ」と考えるライティングにおいて、2灯目以降は全て「フォロー光源」です。
1灯目のメイン光源を「女王蜂」とするならば、残りはすべて「働き蜂」です。
1灯目の女王に対する忠実な僕(しもべ)です。
では働き蜂さんたちは、どのように女王様をフォローしていけばいいのでしょうか。
次にそれを見ていきましょう。
フィルインライト
「フィルインライト」は、メインライトだけでは回りきらない部分に光をフォローする役目です。
では、どのようにフォローするのか?
「フロントライト」と「スカイライト」の2種類に分けて考えます。
フロントライト
まず、メイン1灯だと、被写体に対する「コントラスト」、つまりハイライトとシャドーの割合を変更できません。
というか、ほとんどの場合、メイン1灯だと「キツすぎる」のです。
photo:Kalense Kid
光が当たってる部分と、当たってない部分の差を1灯でコントロールするのは不可能です。
ですから、まずはそこを調整したくなります。
それが「フロントライト」です。
フロントライトは正面からの光、つまり「レンズ方向からの光」なので、影がどちらにも出ない、いわゆる「無方向性」の光です。
ですから、光に方向性をつけることなく(メインライトとバッティングすることなく)、「明るさの比率」だけをコントロールすることができます。
このメインとフロントの光量の割合のことを「照明比」と言ったりします。ライティングレシオですね。
メインライトとフロントライトの出力比を適切に調整することによって、被写体の、メインライトが当たっている「明るい部分」と、当たっていない「暗い部分」の比率、つまりコントラストを調整することができます。
また、「フィルインライト」の「fill in」(フィルイン)とはそもそも「埋める」とか「満たす」とかいう意味です。
フロントライトは被写体のコントラスト調整と同時に、1灯では回りきらない画面全体に明るさを届ける、「画面内を満たすライト」の役割も果たします。
フロントライトとフォトグラフィック・ライティングの本流
写真のライティングにおいては、メインライトが唯一絶対の女王というお話をしましたが、フロントライトについては、その昔、メインに取って代わった「謀反の時代」がありました。
昔、フィルムがモノクロからカラーに変わった頃、出始めのカラーフィルムは非常に感度が悪く、フロントから大量に光を浴びせないと、シャドーがまともに発色しない時代がありました。
出始めの昭和のカラーグラフ誌のあの独特のペタッとした感じは、そんな事情があります。
モノクロ時代に積み重ねられてきた、「豊かなグラデーション」を旨とするフォトグラフィック・ライティングが、一旦崩れ去った時代です。
カラー写真は、「色」に頼ってしまい、写真ならではの豊かな階調・グラデーションが閑却されがちです。
しかし、フォトグラフィック・ライティングの本流は「豊かなグラデーション」にあります。
「色」だけならフロント一発で事足ります。
しかし、我々がライティングにおいて、あーだらこーだら手を加えるのは、写真ならではの「美しいグラデーション」を2次元の平面上に再現したいからに他なりません。
カラーだからといって感度が悪い時代は、もはや遠い過去の話です。
現在、美しいグラデーションは、もちろんカラーにおいても再現可能です。
というわけで、美しいグラデーションのために、続けてライトを追加していきましょう。
スカイライト
さて、フロントライトによって、被写体のコントラストを調整することが出来ました。
しかし、フロント1灯だと、今度は画面全体がフラットになりすぎてしまいます。まさに昭和のグラフ誌です。
我々が目指すのは、豊かなグラデーションなので、画面内を満たすフィルインライトにおいても、ある程度それを再現する必要があります。
そこで登場するのが「スカイライト」です。
スカイライトは被写体の「上」に設置し、「上から下へ」画面内を満たすライトです。
メインライトを「上」に設置した理由は、自然界の「太陽」を模したわけですが、スカイライトは、その「上から下へ」の流れを、フィルインライトにおいて援護します。
スカイライトとライティングの「自然さ」
たとえばフロントのみの例として、テリー・リチャードソンみたいなカメラ直付け1灯のような写真、あれを思い浮かべてもらえればわかりますが、影が出ない(というか「奥」にでる)状況は、日常生活ではまずありえません。
立体感のない独特の浮遊感と、正面からの直1灯という、ある意味「テキトー」なグランジ感は、非日常を旨とするハイファッションの世界で一時流行りましたが、それはやっぱりその「不自然さ」がインパクトにつながったわけです。
そのインパクトは、普通光は「上から来るもの」という前提があるからこそ成り立つものです。
デザイン的にドロップシャドウを付ける時も、影は下方に落とすのが基本であり自然ですね。(つまり光源を「上」としている)
画面内を満たす光であるフィルインライトにも、やはり「上から下」への流れをつけると、より自然に見えるわけです。
自然界の光と各ライトの関係
メインライトを「太陽」だとすると、スカイライトは文字通り「空」(スカイ)です。
自然界においても、太陽光が大気の成分に乱反射して、上空全体が明るくなっていますね。(大気がない月では空は真っ暗です)
スカイライトによって、フィルインライトにおける「フロント」1灯の不自然なフラットさを解消し、自然な「上から下へと落ちる」のグラデーションを演出します。
ちなみに、「フロントライト」を同じように自然界の光線状況に例えてみれば、それは「地上の反射光」と言えますね。
フィルインライトのまとめ
さて、画面内を「満たす」ライトであるフィルインライトを「前から」のフロントライトと、「上から」のスカイライトに分けて考えました。
前からのフロントライトによって、被写体の「レンズ側から見た」コントラストを調整し、上からのスカイライトによって、被写体に上から下への自然なグラデーションを付与します。
そして、これら2つのフィルインライトによって、画面全体に光を届けることができ、細部のディテールを描出することができます。
フィルインライトの注意点
フィルインライトを入れる際の注意点は、それが「面光源」である必要がある、ということです。
なぜならそれらは、「満たすライト」であり、画面全体を均一に照らすのを旨とするからです。
画面全体の明るさをコントロールするわけですから、なるべくムラの出ない光源が望ましいわけです。
実際の自然界における「空」も「地上の反射光」も、ぼわんと全体が明るい、言ってみれば「面光源」です。
3灯目以降(アクセントライト)
さて、メインライトとフィルインライトで、ライティングは大体完成しました。
あと足すとしたら、アクセントとなる光、「アクセントライト」です。
料理でも、大体完成したあとに、少し味にアクセントを出すために「隠し味」を入れますね。
あんな感じです。
アクセントライト
アクセントライトは、あくまで「ライト」でありますから、それを入れるということは、「光」を入れるということです。
すなわち、基本的には「ハイライト」を追加するのが、その主な役目です。
そして、ハイライトを入れる場合は、当然ながらメインライトと方向性を合わせる必要があります。
なぜなら「太陽はひとつ」だからです。
アクセントライトの役目は、メイン1灯では弱い、あるいは足りないハイライトを追加して、被写体をよりハッキリと際立たせることです。
あくまで1つの光源の、足りない部分をフォローするのが、その他のライトの役目です。
ライティングの基本的な考え方をもう一度確認
最初に確認したとおり、1灯を旨とする基本ライティングにおいて、メイン以外のライトは全て、女王様であるメインライトの補佐です。
いついかなるときも、そこだけはブレてはいけません。
美しさとは「一貫性」であり「まとまり」です。
女王のもとに全ての光を結集させることが、「美しいライティング」の秘訣です。
というわけでアクセントライトですが、これはまず、どの方向から入れるのかの「方向の違い」に着目して、「キーライト」と「トップライト」の2種類に分けたいと思います。
キーライト
基本的にメインライトは、被写体の横45°くらいから当てますね。
ど正面だと立体感がなくなり、真横だと肝心な前に光がこないので、そのちょうど中間、45°くらいが立体感と被写体そのものを見せるのに、最もバランスがいい位置だと言われています。
そして、キーライトはそんなメインライトと 同じ側の 横から、ハイライトを追加します。
さらにキーライトも細かく分類すると、メインライトから、被写体の真横くらいまでの位置が「サイドキー」、そして、真横からさらに被写体の裏側に回ったものが「バックキー」です。
そしてこれらのハイライトは、メインよりも「奥側」に足していきます。
理由は2点です。
まず、最も大きく入るハイライトがすなわちメインライトと認識されてしまうからです。
キーライトはあくまでメインの補助なので、メインより細く入る必要があります。
それから、ハイライトは横から奥にかけての「逆光気味」に入れるのが効果的だからです。
逆光には被写体を浮かび上がらせる効果があり、被写体を印象的に描き出す効果があります。
photo:David Urbanke
トップライト
さてメインライトの位置は、被写体の横(斜め)であると同時に、高さについては「上」でしたね。
メインライトの被写体に対する位置関係は、横であると同時に「上」です。
そして、「横から」ハイライトを追加するのが「キーライト」でしたが、「上から」ハイライトを追加するのが、すなわち「トップライト」です。
特に日本人の黒い髪はディテールがツブれがちなので、スタジオ撮影においてトップライトを追加することはよくあります。
そして、トップを入れる際の注意点は、やはり少し後ろ目から入れることです。
うっかり前に回ってきてしまうと、鼻の頭に強烈なハイライトが入ってしまい、ライティングに「ほころび」が生じます。
アクセントライトのまとめ
被写体に「ハイライトを加える」アクセントライトを、「横(サイド)~後ろ(バック)」から当てる「キーライト」と、「上から」当てる「トップライト」に分けて考えました。
横~後ろからのキーライトによって、被写体の「横~後ろ」方向にハイライトを付与し、上からのトップライトによって、被写体の「上」方向にハイライトを付与します。
これによって、被写体の描写に活気を与え、その存在感をより際立たせることができます。
アクセントライトの注意点
アクセントライトは、フィルインライトとは逆に、あくまで「アクセント」なので、光を絞る 必要があります。
画面全体に回ってしまったら、もはやアクセントでも何でもなくなり、ライティングが乱れます。
料理でも隠し味は、ごく少量のはずです。
スタジオでライティングする場合は、バーンドアやグリッドという光を絞る器具もちゃんとありますので、不必要な部分に光が回らないように、しっかりと絞る必要があります。
また、黒ケント紙や黒カポックで、部分的に遮光することも有効です。
(カポックというのはスタジオに置いてある見開きの畳みたいな器具で、レフ板にしたり遮光に使ったりします)
ちなみにライティングにおいては、光は「当てる」だけでなく、「切る」(カットする、遮光する)ということもすごく重要です。
特に灯数を追加していくライティングにおいては、そのライトに与えられた役割をはみ出すような光については、しっかりカットしないとルーズなライティングになります。
多灯ライティングの危うさは、すでにアラン・ドロンが指摘した通りですが(以下略)、「光を切る」ことも実は「ライティング」なのです。
写真における基本的なライティング【まとめ】
以上、写真における「基本的なライティングの組み立て」を見てきましたが、まとめに入りましょう。
まず、今回説明した「基本ライティング」におけるキャストは以下の通りです。
主演:メインライト | ||
---|---|---|
共演:フィルインライト | フロントライト | |
スカイライト | ||
友情出演:アクセントライト | キーライト | サイドキー |
バックキー | ||
トップライト |
メインライト
まずライティングとは、「太陽はひとつ」になぞらえて、メインライトを1灯とし、足りない部分をフォローしていく、というのが根本的な考え方です。
そして、メインライトをフォローするライトとして、
- フィルインライト
- アクセントライト
の2種類がありました。
フィルインライト
フィルインライトは、メインライトの「面的」な要素、画面内を「満たす光」である要素をフォローするライトです。
そして「照明比」によって、被写体の「陰の部分」(シャドー)をコントロールすることができます。
アクセントライト
アクセントライトは、メインライトの「点的」な要素、画面内を「各ポイント」でフォローするライトです。
そして当て具合によって、被写体の「光の部分」(ハイライト)をコントロールすることができます。
まとめて「1コのライト」
そしてこれらは、全てまとめて「1コの光」です。
多数の光で1コの光を作り出しているのです。
美しい組織、美しいシステム、美しい作品が、多数の構成要素が「まとまる」ことによって、1+1=2以上の力を発揮するように、美しいライティングは、多数の光が「まとまる」ことによって、単純に光量の足し算以上の効果を発揮するのです。
一即多、多即一。One for All, All for One. です。
ライティングの要諦とはつまり、美しさの原理そのものです。
まとめ
今回は写真におけるライティングの基本ということで、ごく核心的な部分を解説しました。
なので、背景に当てるライトだとか特殊効果を演出するライト、バンクや傘、レフ板などの細かい話は省いています。
また、用語の使用法について、教科書と違う、という指摘もあるかもしれません。
しかし、用語に振り回されないようにしてください。
大事なのはライティングを「理解する」ことです。
実際、撮影現場で「フィルイン」だの「アクセント」だの言ってる人は、一人もいません。
ライトはもはや、「そっちの」とか「あれ」とか「右」とか「奥」とか、そんな扱いです。
しかしながら、ライティングのプロフェッショナルが生み出す光は、本当に一貫性と哲学があり、それはまさに「美しい」ものです。
それは用語云々といった机上の空論ではなく、本当に光が「見えて」いて、実際にそれらを「コントロール」しているからに他なりません。
そのために大事なのは、まずは「光の意味を理解する」ことです。
枝葉よりも「根幹」を
さて今回はとにかく、ライティングの「意味」を理解していただくことを念頭に書きました。
このブログのテーマは、写真における「そこんとこどうなのよ!?」を深く突っ込んで、わかりやすく解説することです。
小さなテクニックをたくさん寄せ集めるよりも、物事は根本でひとつかみにしてしまうほうが、むしろそんなテクニックを自分で生み出すことができます。
枝葉をたくさん集めるよりも、根幹を押さえたならば、枝葉は勝手についてきます。
枝葉から入ってしまうと、そこが伸びきったゴールです。
もうそこから伸びることはできません。
今回の記事は、そういう意味でライティングにおける 根幹 となる部分です。
根幹を押さえたあとは、あとはそれぞれの個性にしたがって、存分に枝葉を伸ばしていきましょう。
そしてぜひ、皆さんオリジナルの立派な花を咲かせてください。