今再びブームをむかえているという「写ルンです」。
2016年でデビュー30周年だそうです。
写ルンですと言えばフィルム全盛のころは、生活必需品に近いくらいのコモディティっぷりでしたが、いまやデジカメに押され、スマホに押され、その存在はほとんど見えなくなっていました。
ところがここへきて、その第一世代を知らない若い人たちを中心に、ふたたび脚光を浴びているようです。
簡単・便利・キレイが当たり前のデジタル世代にしてみれば、不便で雑っとしたアナログ感が新鮮なのでしょうか。
今回は「写ルンです」をとりあげます。
ある意味「突き抜けた」カメラで、独特のポジションにある写ルンですは、意外とカメラと写真のツボを押さえた、結構スゴいフィルムカメラなのです。
【撮り方のコツについては、コチラをどうぞ↓】
目次
「写ルンです」ってなんだ!?
では、そもそも写ルンですってどんなカメラ?ってところから見ていきましょう。
いわゆる「使い捨てカメラ」です
「写ルンです」は、35mmフィルムにレンズとシャッターと外箱(とストロボ)を取り付けた、いわゆる「レンズ付きフィルム」と呼ばれるものです。
あくまで「フィルム」ですが、これ単体で写真が撮れるものです。
なぜ「レンズ付きフィルム」?
しかし、これを「カメラ」と言わずに、「レンズ付きフィルム」と言っているところがミソです。
「カメラ」と言ってしまうと、個人の所有物になってしまうので、現像のために回収してバラして、持ち主に返さないことに、法的な問題が生じます。
器物損壊とか、そういう話になってしまいます。
そのため、「あくまでフィルムです」という位置づけにしているのです。
【2017.8追記】写ルンですは、写真屋さんで回収したあとは、リサイクル・リユースしています。
「使い捨てカメラ」と呼ばれていますが、実際は使い捨てではないので、安心して使いましょう。
「写ルンです」は富士フイルムの商品名です
さて、「レンズ付きフィルム」(使い捨てカメラ)=「写ルンです」と思われていますが、写ルンです自体は、あくまで富士フイルム社の商品名です。
この手の商品はほかに、コダック社の「スナップキッズ」や、コニカ社の「撮りっきりコニカ」などもあります(ありました)が、使い捨てカメラといえば「写ルンです」があまりにも有名ですね。
これは、富士フイルムが最初に市場に出したということもありますが、ここまで社会に浸透したのは、そのネーミングによるところも大きいでしょう。
素敵すぎると思う昭和のヒット商品のネーミングセンスランキングでも、堂々の1位です。
まさしく昭和の大ヒット商品です。カメラ界の美空ひばりです。
そういえば吉田戦車という漫画家のヒット作に「伝染るんです。」がありましたが、これも「写ルンです」をもじったものですね。
カメラ自体の機能性と、この「ネーミング」が一体となって、写ルンですは「日用品」と言えるほどの浸透ぶりをみせるのです。
写ルンですのカメラ的な特徴
さて、写ルンですは発売後ヒットを記録し、フィルム全盛のころは日用品と言えるまでに浸透しました。
そこでは、撮影の「簡単さ」が大きな役割を果たしています。
写ルンですの使い方
使い方は 超簡単です。
まず、右手の親指の腹で、ジーコジーコとフィルムを巻き上げ、あとはシャッターボタンを押すだけです。
ストロボが使いたかったら、ストロボのスイッチを入れるだけです。
以上です。
デジカメのあのゴテゴテとしたスイッチやらダイヤルやらは一体なんだったのか?と思えるくらいのシンプルさです。
なぜこんなに簡単なのか?
写ルンですのカメラ的な特徴から読み解いてみましょう。
写ルンですのスペック
写ルンですのカメラ的なスペックは以下の通りです。(写ルンです シンプルエース)
フィルム | ISO400 135フィルム |
---|---|
撮影枚数 | 27枚/39枚 |
レンズ | f=32mm F=10 プラスチックレンズ1枚 |
シャッタースピード | 1/140秒 |
撮影距離範囲 | 1m~無限遠 |
ファインダー | 逆ガリレオ式プラスチックファインダー |
フラッシュ | 内蔵(有効撮影距離:1m~3m) パイロットランプ付スライド式フラッシュスイッチ |
電池 | 単4形 1.5Vアルカリマンガン乾電池内蔵 |
寸法 | W 108.0×H 54.0×D 34.0mm |
重量 | 27枚撮:90g 39枚撮:93g |
ピントについて
まず、写ルンですは ピント合わせの必要がありません。
それを可能にしているのが、「f=32mm F=10 」というレンズのスペックです。
写真のピントの合う範囲は
- レンズの焦点距離
- レンズの絞り
- 撮影距離(ピントを合わせる位置)
によって決まります。
レンズの焦点距離は、広角ほどピントの合う範囲が広く、望遠ほど狭いです。
レンズの絞りは、絞るほどピントの合う範囲が広く、開くほど狭いです。
撮影距離(ピントを合わせる位置)は、遠いほどピントの合う範囲が広く、近いほど狭いです。
撮影距離は撮影者が選択することなので、カメラ側でどうこうできませんが、レンズのスペックによって、ピントの合う範囲をかなりの程度コントロールすることができます。
写ルンですのレンズは、焦点距離がf=32mmと広角で、絞りがF=10とかなり絞り込まれてます。
その結果、ピントの合う範囲が「1m~無限遠」となっています。
そうです、1m以上離れていればすべてにピントが合うように、初めから設計されているのです。
だからピント合わせ不要なのです。
露出について
次に、露出について。
カメラの露出は、写真の明るさを決定する要素です。
これは、
- ISO感度
- 絞り
- シャッタースピード
によって決まります。
普通のカメラでしたら、これはカメラが自動で設定したり、あるいは撮影者が手動で設定したりして、撮影状況に応じて変更するものです。
しかし写ルンですでは、
- ISO感度=400(1600の商品もある)
- 絞り=F=10
- シャッタースピード=1/140秒
で、固定です。
つまり、露出を決定するわずらわしい手間が省けるのです。
しかし、本来なら撮影状況に応じて変更するはずの露出が、なぜ固定でOKなのでしょうか?
その秘密は、カラーネガフィルムを使用しているところにあります。
ネガフィルムのラチチュード
カラーネガフィルムは、「ラチチュード」と呼ばれる、光を受け止める許容範囲が広いのです。
ラチチュードが広いと、適正な露出値からオーバー(過剰)になっても、アンダー(過少)になっても、ある程度画像は再現できます。
(ネガフィルムの場合は、特にオーバー側に強いと言われています。)
そして写ルンですは、先ほど見たように露出値を、
- ISO感度=400
- 絞り=F=10
- シャッタースピード=1/140秒
で固定しています。
この数値は、同じ富士フイルムのISO400のフィルム(X-TRA 400)のデータシートを参考にすると、だいたい「曇り・日陰」で撮影するのに適した数値です。
それは、晴天屋外(より光量が多い状況)と日中屋内(より光量が少ない状況)のほぼ中間です。
つまり、あらゆる撮影状況の「中間」をとることで、露光オーバーにも、アンダーにも、同程度対応できるようにしている のです。
光を受け止めるのに、ネガフィルムという許容度の大きな入れ物を使い、露出をあらゆる撮影状況の真ん中に設定しておく。
これによって撮影したネガは、あらゆる状況で “とりあえず” 写っているネガとなります。
その “とりあえず” 写っているネガを、プリントやデータに変換する際に補正することによって、最終的に「ちょうどよい画像」を得る仕組みです。
この仕組みによって、露出調整不要という便利な状況を生み出しています。
レンズの焦点距離について
レンズの焦点距離は「f=32mm」となっています。
これは 絶妙な焦点距離 です。
まず先ほど見たように、絞りF=10において、1m~無限遠にピントを合わせるのに必要な焦点距離です。
そして、この写ルンですが使用される状況が、主に手近なものを撮るスナップであることを考えると、広角であるほうが写る範囲が広くて使いやすいということがあります。
写る範囲(画角)が狭いと、場合によっては撮る人がものすごく後ろにさがらなくてはいけません。
そして、さがれるところまでさがってもフレームに入りきらないということも起こり得ます。
逆にもっと広角にして写る範囲を広げると、今度は余計なものまで入りすぎます。
そもそも設計が大変になり、製造コストがふくらみます。
基本的にレンズは、標準(50mm)近辺が最も作りやすく、そこから離れるほど収差の影響などで、作るのが難しくなります。
つまり、
- パンフォーカス(手前から奥まで全面にピントを合わせること)に必要な被写界深度(ピントの合う範囲)が得られる
- 使い勝手のいい画角
- 製造しやすい範囲
これらを絶妙に満たす焦点距離が「f=32mm」というわけです。
大体の人に、大体の状況で、大体写ってるカメラ
まとめると「写ルンです」は、まず簡単であることを最優先し(撮影だけでなく製造も)、画質とか細かいことは抜きにして、あらゆる状況にざっくりと対応したカメラです。
そもそも、こういうカメラを使おうという人は、画質にそんなにうるさくありません。
そんな人は初めから一眼レフを使っています。
大体の人向けに、大体の状況で、大体写ってる。
そんなカメラです。
つまり、
- もっとも多くのターゲットに対して、
- 最も多い状況で、
- ほぼ撮れるカメラ。
…必然的に売れるカメラというわけですね。
写ルンですブームがやってきた!
さて写ルンですは、97年のピーク時には出荷本数8960万本を記録したそうです。
この頃は女子高生のカバンには必ず入っていましたね。
今で言うスマホのようなものです。
いま、何でもかんでもスマホでパチリとやってしまうような、まさにあの感覚で、写ルンですでパチリとやっていました。
- 何しろ軽い。
- そしてどこでも手に入る。
- 値段もそんなに高くない。
- 操作も簡単。
写真を撮る手段がフィルムしかなかった頃は、安くて軽くてどこにでも売っていて誰にでも使えるカメラは、ほとんど洗剤や歯ブラシと同じような、「生活必需品」のような感覚です。
当時はブームというより、日用品でした。
そして昨今、にわかに写ルンですがブームになっていますが、そうです。
今回のは「ブーム」です。
いまはスマホのほうが日用品で、それに対するカウンターという意味での「写ルンです」です。
デジタル・スマホ世代にとって、写ルンですはあらゆる意味で逆をいく、すばらしいカウンター商品です。
そこが新鮮なのでしょう。
では、その魅力をさぐってみましょう。
フィルムを使っている
まずはここですね。フィルムを使っていることです。
当ブログでも、「デジカメ世代のためのフィルム撮影ガイド」で紹介していますが、フィルムというのはなんかホッとするような、やわらかくて温かみのある画質です。
デジタルのスーパーシャープでハイコントラストな画像は、見映えはしますが疲れます。
特に写ルンですは、レンズもチープだし、露出もアバウトです。
いい意味で テキトー です。
そんな力の入らないユルさ加減も、何もかもが0か1かで割り切られてしまうデジタル世代に受け入れられる要因ですね。
操作が簡単
簡単というか、簡単すぎです。
ほとんどシャッターを押すだけですから。
このハイパー簡単さ加減も、受け入れられる要因でしょう。
手間がかかる
フィルムでの撮影は、撮ってすぐ見ることができません。
現像→プリント(orデータ化)という工程が必要です。
また、39枚or27枚、撮りきるまで現像に出すこともできません。
この不便さが逆に新鮮なのでしょう。
どう写ってるかわからない、また、いつ撮ったっけ?というコマが含まれていたりして、時間を置いてから見るのも、意外と楽しいものです。
コストがかかる(=1枚の重みが違う)
写ルンですは、39枚or27枚使いきりです。
さらに撮ろうと思ったら、また次のカメラを買わなくてはいけません。
結果的に、1回のシャッターに慎重になります。
1枚の重要度が、デジカメとは違うのです。
そして、画像を見るまでに時間がかかるという要因ともあいまって、1枚を見るワクワクドキドキ感がデジカメの比ではない のです。
モノとして残る
写ルンですはフィルムで撮りますので、現像したフィルムが手元に残ります。
このモノとして残る、というところも新鮮です。
データとしてハードディスクやクラウドにしまっておくのと、また違った感動があります。
「これが自分の撮った写真か~」とより実感が湧くのではないでしょうか。
写ルンですブームの要因
フリッカーやインスタグラムでは、画像処理によって色鮮やかに、濃淡の処理も完璧に仕上げられた見事な作品が、洪水のようにアップされています。
テクノロジーの進歩によって可能になった、隅々まで完璧にコントロールされた画像たちは、現在の写真のメインの流れです。
しかしそんな写真ばかりだと、いい加減疲れます。
写ルンです世界は、それとはまるで正反対の「ユルさ」と「くつろぎ」のようなものを与えてくれます。
そのあたりが、バリバリなデジタル画像に疲れてきた人たちに受け入れられている要因ではないでしょうか。
まとめ
写ルンですは実際、かなりエポックメイキングな製品です。
普通は、カメラにフィルムを入れるものですが、フィルムにカメラ的要素を付随させるという逆転の発想は、コロンブスの卵ではないですが、フツーはなかなか出てこないものです。
デジカメやスマホに押されて、生産本数は減ったとはいえ、コンスタントに毎年出荷している事実がそれを裏付けています。
- 簡単
- 味のある写り
- 低コスト
3拍子揃った独自のポジションは、今回のブームが去ったとしても、この先も長くその存在意義を発揮し続けることでしょう。
【続けて使い方のコツもどうぞ↓】