「アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.」とライカMレンズの特徴

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アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.

ライカネタが続きますが、ライカにちょっとおもしろいレンズがありますので、ご紹介しましょう。

「アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.」というレンズがそれです。

なんとこのレンズ、50mm、F2というスペックで、943,900(価格.com調べ)もするのです。

たまげますねー。

キヤノンの一眼レフ用の「EF50mm F1.8 STM」は、「F1.8」と、より明るいスペックであるにもかかわらず、¥13,000ほどですから、その破格ぶりがうかがえます。

一体なにごとか!?というこのレンズは、いかにもライカらしくて面白いです。

このレンズをよ~く見てみると、ライカレンズの面白さも見えてきます。

今回はライカレンズの特徴を紹介しながら、このレンズのスゴさをみていきましょう。

はてさて、いったいどんなレンズなのでしょうか。

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M型ライカのレンズの特徴

そもそも、M型ライカのレンズって、どんな特徴があるのか。

高い

まず真っ先に出てくるのが、その価格の高さです。文字通りケタ違いです

本当に国産の一眼レフとは、桁が一個違います

「ノクティルックスM F0.95/50mm ASPH.」という、1本100万円を超えるレンズもあります。

むかしはライカ1台家一軒と言われましたが、まあそんなノリです。

なにゆえそんなに高いのか?

ドイツ国内で手作業で組み立てているとか、性能に妥協なく作っているとかいろいろ理由はあるでしょうが、要は、ライカの商売のシステムがそうなっている、ということでしょう。

つまり、高付加価値・高単価・少ロットってことですね。

安く作ってたくさん売るのではなく、高く作って少なく売る方式です。

参考:ライカM-D(Type 262)が究極のデジカメである理由

レンズごとの個性が際立っている

したがって、ライカのレンズは、F値が暗いからといって、いたずらに安いわけではありません。

レンズ1本1本に特別なキャラクターがあり、それぞれに独自の存在意義があります。

普通、国産メーカーであれば、F値=価格みたいなところがあって、明るいレンズほど作りもゴージャスに、価格も高くなりがちです。

暗いズームなどは、申し訳程度のプラスチックの外装にスッカスカなズームリングで、その差は明らかです。

なにか「明るさ至上主義」みたいなところがありますが、ライカは違います。

F値が暗いからといって、外装や組み立て精度に明るいレンズとの差はありません

暗いレンズにも「軽量・コンパクト」という明るいレンズには無い重大な性能があり、きっちりとその個性を確立しています。

ライカでは暗いレンズは「仕方なく」買うものではなく、その個性を積極的に買うものなのです。

シンプル&コンパクト

シンプル&コンパクト」はライカMシステムをつらぬく理念です。

ライカ M-A

スナップ撮影で多用されるように、ライカはMシステムのアドバンテージが、そのシンプルさとコンパクト性にあることをよく認識しています。

したがって、そのレンズ製作の哲学も、「出来るだけ少ない枚数で高性能なレンズを作る」というものです。

たとえば日本の「シグマ」というメーカーの、新しい「50mm F1.4 DG HSM」というレンズは、大変な高性能と評判ですが、このレンズの構成は「8群13枚」です。

また、同じく素晴らしい描写性能が大変な評判を呼んでいる「カールツァイス」の「Otus F1.4/55mm」ですが、こちらは「10群12枚」です。

それに対してアポ・ズミクロンは「5群8枚」という構成です。

(ちなみにライカの場合、上記2本と同スペックの「F1.4 50mm」のズミルックスでも、「5群8枚」です)

それでいて、後半でご紹介しますが、海外の解像度比較サイトでは、アポ・ズミクロンの性能はこの2本を上回っています

まさに「出来るだけ少ない枚数で高性能なレンズを作る」という哲学を地で行くレンズです。

「シンプルさ」という美学

シンプルさとはつまり、美しさです。

最小限の要素で最大の効果を上げるのは、あらゆるジャンルに共通する「優秀さ」の証であり、「エクセレント」であり「エレガント」です。

枚数を増やして、力技で収差をねじ伏せていくのはある意味簡単ですが、少ない枚数で高性能を達成するのはよりむずかしく、手間もコストもかかります。

しかしながら、モノはただ所定の性能を発揮すればいいというものではなく、美しくエレガントに達成する、というのがライカのモノづくりです。

ライカのレンズとは

ライカというメーカーはその性質上、性能を落として安くするという発想はありません。

ぶっ飛んだ製品をぶっ飛んだ人々に届けるというビジネスをしているので、月並みな製品だと逆に売れないのです。

全てのレンズに高い目標が設定され、そのためのコストも十分にかけます。

一般のメーカーならば。「松・竹・梅」とラインナップさせるのが普通ですが、ライカは「松」しかないのです。

つまり、ライカのレンズには「安く」て「それなり」という選択肢はなく、「高く」て「最高」しかないのです。

「ライカカメラAGは、カメラ製品とスポーツオプティクス製品でグローバルに展開するプレミアム企業です。」と、ライカもHPで自らをそう紹介しています。

アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.というレンズ

さて「アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.」ですが、このレンズの面白いところは、50mmF2で90万円を超える価格設定です。

同じライカのラインナップに、「ズミルックスM F1.4/50mm ASPH.」というレンズがありますが、こちらの価格が45万円程度。

そうです、アポ・ズミクロンはズミルックスに比べて明るさが半分にもかかわらず、価格は倍です

普通は明るさに比例して価格はどんどん高くなっていきますが、普通じゃ考えられない逆転現象が起きるのが、ライカというメーカーの面白いところです。

アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.の特徴

さて、ライカのレンズは、それぞれに個性があるという話でしたが、このレンズに与えられた個性はなんでしょうか。

それは、「完璧な描写性能」です。

レンズには「収差」というものがあって、撮ったものがまるっきり同じように写真にはならない、という特性があります。

光がレンズを通過する位置の違いや、色による屈折率の違いのため、最終的なセンサー(フィルム)上の着地点にバラつきが生じるのです。

しかしながら「え?撮ったものとまるっきり同じものが写真になってるけど??」と思われた方、あなたは正しいです。

市販のレンズは、そういった収差が実用上問題ない程度に補正されています。

ちゃんと撮ったものが、ほぼ見たままに写っているはずです。猫が犬に写るわけがありません。猫は猫です。

ここで問題にしているのは、猫の毛1本1本がどの程度分離して見えるかとか、画面の隅っこのほうで、ピンとなっているべきヒゲが「ぐにゃ」っとなっていないか等、まさに重箱の隅をつつくような、細か~い話なのです。

猫が猫であればいいというレベルではなく、「ズバ抜けて猫」であることを目指しているのです。

猫

そのためにF1.4の倍の価格にしてまで、出来ることをやりつくしたレンズです。

もはや実用性ではなく「夢」ですね。ユーザーはライカから実用性ではなく、「夢」を買っているわけです。

「アポクロマート」「非球面レンズ」「フローティング機構」

さて、最高の描写性能を目指して作られたこの「アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.」は、技術的にはどのようにしてその目標を達成しているのでしょうか

目立った特徴は以下の3点です。

  • アポクロマートレンズ
  • 非球面レンズ
  • フローティング機構

アポクロマートレンズ

これは、色収差を補正するレンズです。

光は、色によって屈折率が異なり、その結果光がセンサー面に着地する際に色ズレが生じます。

これは、光の移動距離が長い、長焦点レンズ(望遠レンズ)で特に問題になる現象ですが、50mmという標準レンズでこのレンズを採用したのは、要はそこまで描写にこだわっているということでしょう。

ちなみに「アポ・ズミクロン」の「アポ」はこの「アポクロマート」のアポです。

非球面レンズ

ライカはこの「非球面レンズ」の採用に積極的で、世界初の非球面採用のレンズ「ノクティルックスM F1.2/50mm」を出したのもライカです。

非球面レンズはその名のとおり、レンズのカーブ面が球面ではないレンズです。

これによって、少ないレンズ枚数で、効果的に収差を補正することができます。

「シンプル&コンパクト」がM型ライカを貫く理念なので、非球面の採用に積極的なのも頷けます。

非球面レンズは、球面に比べてコストはかかりますが、当然ライカの辞書に「コスト」という項目はありません

実際、「ノクティルックス F1.2/50mm」は売れば売るほど赤字だったそうです。当時の非球面はまだ製造に莫大なコストがかかりました。

「赤字だろうと何だろうと夢のレンズを作り、販売する義務がある」

そんなライカの意地がみえるようです。

そして、ちゃんとそんな夢をささえるユーザーがいて、どんなにコスト高な製品であっても売れてしまうのがライカワールドであります。

ちなみに、レンズ名称のおしりにある「ASPH.」は「Aspherical(非球面)」の略です。

フローティング機構

レンズの収差というのは、どの撮影距離でも一定というわけではありません。

無限遠にピントがある場合と、1mにピントがある場合では、収差の出方が違うのです。

そういった撮影距離による収差の違いを、ピント位置に連動してレンズの一部を動かすことによって補正するのが「フローティング機構」です。

これはアポクロマートとは逆に、広角レンズによく採用される機能ですが、これもまた50mmに採用してしまったわけです。

このフローティングをマニュアルフォーカスで精度高く実現するのは、大変難しいらしいのですが、それでもやってしまうのがライカです。

このアポ・ズミクロン M f2.0/50mmは、とてもスペシャルなレンズです。市場からの要望がどうということではなくて、ライカの技術力を集約して「どこまで出来るのか」ということを、挑戦した商品なのです。

と、設計者のピーター・カルベ氏もフォトヨドバシのインタビューに答えています。

スペシャルなレンズ

いろんな機能を盛り込めば高画質になるのは当然ですが、コストと画質のバランスからいって、普通の会社ではそんなレンズは作りません。(作れません)

98点の性能を99点にするためにコストを倍にするようなことは、ビジネスとしては普通考えられないことです。

しかし、それをやってしまうのがライカであり、なおかつビジネスとしても成立させてしまうのがライカのスペシャルなところです。

この「アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.」は、その「やってしまった」レンズであり、ライカ哲学の真骨頂のレンズです。

高価格の意外な理由

ちなみにこのレンズの90万円という価格の大部分は、「レンズを正確に組み上げること」に費やされていると、前出のピーター・カルベ氏は言っていました。

高価な素材や、加工技術ではなく、現代最高の描写性能を実現するための決め手となるのが、「組み立ての正確さ」というのは、なかなか興味深い話です。

アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.の写りの特徴

さて、以上見ましたように、「アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.」は、現在できうる限りのあらゆる技術とコストを惜しみなく投入して作った、現代最高の描写性能を持つ50mm、というわけです。

F2にもかかわらず、結果的に50mmF1.4の倍の価格になってしまったという、その贅を尽くした描写性能とはいかなるものか!?

実に気になりますねー。

…そうやってライカのレンズは売れていくんでしょうね

もちろん筆者は、その写りを実際に試したことはありませんので、ここではネット上の情報を総合してみましょう。

別次元の写り

シャープネス・コントラスト共に別次元の写りで、さらに凄いのは、その高画質が、絞り開放から画面全体に行き渡っていることだそうです。

普通レンズってのは、画面中央が最も高画質で、周辺に行くほど画質は低下します。

また、絞りは開放が最も画質が甘く、絞るほどに改善されます。

しかしこのレンズは、絞り開放の画面周辺でも高画質だそうで、さすがは90万円の面目躍如というところです。

設計者のピーター・カルベ氏も、ライカの新しいレンズは開放から使えと言っています。

また、こちらのサイトでは、各社の50mmレンズの解像度を比較していますが、絞り値をF2に揃えた結果でも、「アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.」がもっともいい数字を出しています。

確かに数々の作例写真を等倍でみると、ずいぶん細かいところまで良く写ってる、という印象です。

しかしレンズってものは、最終的には自分で使ってみないとわからないものなので、各自実際に買って使ってみることをオススメします。(!)

最高のレンズとは?

さて、ネット上の情報を総合してみるに、このレンズの写りの特徴は、「そのまんまが写る」と言えそうです。

ふつうレンズってのは、ある程度の収差が残り、それがいわゆる「味」と呼ばれているわけですが、このレンズはそういう意味では「無味」と言えるのではないでしょうか。

参考:オールドレンズの「味」ってなんだ!?

レンズの「味」を愛する向きには、このレンズは向かないかもしれません。

しかし、「無味」というのは、ある意味究極ではないかと、筆者などは思うのです。

レンズの「味」とは、言ってみれば「クセ」であり「偏り」です。

そういったクセや偏りが無いニュートラルな状態というのは、全てがそこから始まる「スタート地点」になり得ます。

宇宙も最初は「無」から始まったと言いますし。

写真の内容をレンズの個性によって表すのではなく、無個性なレンズを使ってこそ、本当に自分の味が出せるというものです。

そういう意味で、写真家にとってこのレンズは、「最高のツール」になり得るのではないでしょうか。

まとめ

「アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.」をネタに、ずいぶん話が広がりましたが、このレンズは、そのぶっとんだキャラクターと、ぶっとんだ価格設定で、いかにもライカらしいレンズと言えます。

筆者も、誰かがくれるというのであれば、ぜひ使ってみたいレンズではあります。

しかし、ライカというのは、このレンズをはじめとして、魅力的なキャラクターがいっぱいです。

価格についても、むしろ高いほうが価値を感じられるでしょう。

簡単には手が出せないからこそ「高嶺の花」なのです。

非常に特殊な立ち位置である「ライカカメラAG」。今後の動きにも大注目です。

しかし最近のレンズ業界は、ばかデカくて重くて高くて描写性能第一なレンズがトレンドですが、個人的には描写性能よりも、「明るくてコンパクトなレンズ」が欲しいと思います。

高画素競争の現時点では、なかなか難しいですかね~。

レンズ業界には次なるチャレンジとして、「明るさをキープしたまま、どこまで小さくできるか」をやってもらいたい今日この頃であります。