先日、「ライカM-D(Type 262)が究極のデジカメである理由」という記事をアップしましたが、これのアナログ(フィルム)版に「ライカM-A」という機種があります。
ライカM-Aは、M3からのライカの流れをくむ、ライカのメインストリームの最先端の機種です。
まず、この時代にフィルムカメラを新品で作っていること自体がすごいと思われるかもしれませんが、ライカというメーカーはそういうメーカーです。(詳しくは上記の記事をどうぞ)
そして、このライカM-Aによって、レンジファインダーカメラはついにゴールに到達しました。おめでとうございます。もうこれ以外のカメラは必要ありません。
価格は60万円ほど。
決して安くはないですが、デジカメのように売って買ってを繰り返すのではなく、一生モノと考えると、決して高いとも言えません。
今回は、レンジファインダーカメラがライカM-Aによってゴールに到達するまでの道のりを振り返りながら、このカメラのスゴさをみていきましょう。
目次
レンジファインダーカメラのゴールとは
レンジファインダーカメラは、そのコンパクトさとシンプルな操作性から、主に街中でのスナップに威力を発揮します。
ちなみにレンジファインダーカメラについてまだご存じない方は、こちらの記事をご覧になってみてください。
参考:【一眼レフユーザーの皆さんへ】知ったら使ってみたくなる!?レンジファインダーの真の魅力
一眼レフのように万能ではないですが、特徴がハッキリしている分、非常に面白いカメラです。
この、レンジファインダーカメラの「あるべき姿」とはどんなものでしょうか。
それは、
- コンパクトであること
- 目立たないこと
- 静かであること
- 操作がスムーズであること
- シンプルであること
- 広角から望遠まで、ある程度幅広くレンズが使えること
といったところです。
これらの特徴を踏まえつつ、M型ライカの歴史を振り返ってみましょう。
M型ライカの流れ
フィルムを使うM型ライカは、最初の機種であるM3から、最新機種であるM-Aまで、これまでに数機種発売されています。
もちろんいい部分はたくさんありますが、「完成形」と言うには足りない部分もあります。
そのあたりを時系列にチェックしていきましょう。
M3(M2,M1)
初めて35mm判カメラを世に出したライカは、1954年に、当時におけるレンジファインダーカメラのひとつの完成形、「ライカM3」を世に出します。
M3はそれまでの旧式の型(今では「バルナック型」と呼ばれている)から大幅に改良を加え、新たに「M型」として出した最初の機種です。
いまだにM3こそが最高のカメラであると言う人も多い、極めて完成度の高いカメラをいきなり出しました。
たしかにM3は、完成度の高いカメラです。
しかしM3にも難点はあります。
M3の難点
それは、ファインダー内のブライトフレーム(撮影範囲を示す枠線)が、50mm以下は無いということです。要は35mmや28mmのレンズを使うときには、外付けのファインダーが必要になるのです。
50mm専用機として使う分にはいいですが、スナップでよく使われる35mmや28mmの広角レンズが、ボディ単体では使えないのは痛いところです。
そしてもう1点。それはブラックボディが無いこと。
アンリ・カルティエ=ブレッソンは、シルバーしかないM3のボディに、わざわざ黒テープを貼って使っていたそうですが、スナップ撮影では「目立たないこと」はとても重要です。
そのため、ボディはブラックのほうが望ましいのです。
この2点が、M3の難点と言えるでしょう。
M2、M1については、ブライトフレームが35mmまで拡張されたのはいいですが、結局はM3のダウングレードモデルなので、以下同文です。
M4とそのバリエーション
M4も非常にいいカメラです。
よくがんばりました。しかし、ブライトフレームがまだ35mmまでです。
ただ、レンズは35mmまでしか使わないなら、これは非常にいいカメラではあります。
M5
単純にデカいです。
そして、ブライトフレームもまだ35mmまでです。
しかしM5からブラックボディが通常のラインナップに加わったのは歓迎すべき点です。
M6、M7、MP
M6からブライトフレームに28mmが搭載され、いよいよ本格的に「使える」カメラになりました。
M6、M7、MPは、それぞれ非常にいいカメラです。
M6、MPは機械式シャッター(電池がなくても動く!)、そしてM7は電子シャッターです。
M7は絞り優先のオート露出が使えるので、その機能が必要な人にはありがたい機種です。
M6とMPの違いは、巻き上げレバーや巻き戻しクランクの形状の違い、ロゴの有無といった、小さなものです。両者とも露出計は内蔵されています。
正直この3機種はどれも使えるカメラです。
ここから先は、最後のツメの話になってきます。
M6の難点
まずM6ですが、逆光時にファインダーがハレーションを起こすという難点があります。
これは実際その状況になったときには、非常に撮りづらいものがあります。
そしてもう1点、細かいことですが、ライカの赤丸のロゴが若干(結構)目障りです。
これは、赤をいかに黒く塗りつぶすかが議論されるほど、ライカファンの間では問題となっています。
M7の難点
M7の難点は、電子回路を組み込んだおかげで、ボディの高さが2.5mm高くなったことです。(M6のバリエーションである「M6TTL」も同じ)
そして、赤丸のロゴも相変わらず存在します。
MPの難点
MPはかなり完成度が高まりました。赤丸のロゴも廃止されました。
しかしまだ、あともう少しの課題が残されています。
まず、シャッターボタン周りのお皿の部分とアクセサリーシューが、なぜかシルバーで、変に目立つということ。それからトップカバーの白文字もやはり目立ちます。
それからブラックモデルがクロームではなくペイントだということ。
変にテカテカして目立ち、また長年使用すると、ハゲて地金がのぞいてくる。その部分がまた「目立ち」につながってくる。
なかなかゴールへの道は険しい。
ライカM-Aの登場
その後ライカはM8からデジタルへと突入し、もうフィルムカメラは出さないものと思われていました。
しかし2014年、M型ライカ誕生60周年の記念の年に、突如ライカM-Aが登場します。
ただ登場しただけではなく、これまで見てきた難点を完璧に解消する、究極のレンジファインダーカメラとして登場しました。
レンジファインダーカメラはついに、ここに於いて完成形に到達しました。
ライカMPであと一歩のところまできていましたが、MPの難点であった、シャッターとアクセサリーシューのシルバーの部分は黒になり、トップカバーの文字も無くなり、本当にただの「黒いかたまり」になりました。
そして、ペイントだった黒も、ブラッククロームに変更されました。
また、露出計も廃止し、その結果ボディ前面の電池室もなくなり、よりスッキリとシンプルな形状に仕上がっています。
もはや非の打ち所の無いカメラです。
まとめ
長い旅路の果てに、M型誕生から60年、ライカ自体の誕生からはちょうど100年かけて、ついにレンジファインダーカメラは完成を見ました。
ライカというカメラメーカーは、その責務としてついに、レンジファインダーカメラを完成させるという事業を成し遂げたのです。
このカメラが出たからには、もうこのあとレンジファインダーフィルムカメラの新作が出てくることは考えられません。
ここがレンジファインダーカメラの終着駅です。ご乗車おつかれさまでした。
売って買ってを繰り返すデジカメユーザーのみなさん、いかがですか?この世界観と安心感。
もはや機材についてウンウン悩む必要はありません。
フィルムユーザーであり、レンジファインダーユーザーであれば、することはひとつ。
このカメラを買うだけです。
あとはひたすら写真を撮ることに専念できます。
60万円?もはや適正価格ですね。
蛇足
完璧すぎるこのカメラの、小さすぎる難点をひとつ、挙げておきましょう。
それは、シャッターダイヤルの溝です。
これは、アクセサリーシューに装着する、ライカの連動露出計(ライカメーターM、MC、MR)をセットするためのものですが、今どきそんなもの使う人いますか?
露出計が使いたかったら、M6やMPなどを使えばいいのに、もったいない話です。
この切り欠きのせいでシャッターダイヤルの「4」の数字は削られ、なんかゴミもたまりそうだし、見た目にもスッキリしません。
そして人差し指だけで操作すると、1/30~1/60あたりにセットするときに切り欠きのカドが指に刺さって痛い…。
まあしかし、こういう小さい部分があるからこそ、面白さは続くのでしょうね。
ライカの旅はまだまだ続くのでした~。