今どきカメラと言えば、間違いなくデジタルカメラのことを指しますね。
フィルムカメラなんてもはや骨董品の類でしょう。
しかし、カメラを買おうとなった場合、いまだにフィルムカメラが選択肢にのぼることがよくあります。
「ん、なになに、カメラにはフィルムという選択肢もあるか~」と。
簡単、便利、高画質。
どこをどうとっても、デジタルカメラのほうが優れているように見えますが、いまだにフィルムカメラには根強い人気があります。
なぜでしょう?
これはもう完全に、メリット・デメリットの話ではありませんね。
メリット・デメリットという単純な比較なら、圧倒的にデジタルカメラに軍配が上がります。
これはすなわち「単純ではない」部分のハナシ、ということです。
今回は「普通に考えたらどう考えてもデジタルなのに、なんでフィルム?!」というシンプルな疑問にお答えします。
「今どきフィルムカメラを使う意味がわからない」という人から、気になる理由が自分でもイマイチわからない人まで、スッキリと理解してみましょう。
デジタルとフィルムの違いは、単純な表から見える部分ではなく、その「裏側」にこそ本質があります。
目次
デジタルカメラとフィルムカメラの本来比較すべきポイント
まず、デジタルカメラとフィルムカメラを比較する場合、普通にメリット・デメリットで比較してはいけません。
利便性、画質、ランニングコスト、等々。
それはデジカメのほうがいいに決まっています。
比較するまでもありません。
- 撮った画像がスグ見れる。
- フィルム交換が必要なく、何枚でも撮れる。
- いらない画像は削除できる。
- 撮影時にも撮影後にも画像の細かい調整が可能
等々、どこをどうとってもデジカメのほうが優れています。
つまり、デジカメとフィルムの比較は、そこで見るべきものではないのです。
メリット・デメリットを問題にするのなら、デジカメを買っておけば絶対に間違いありません。
フィルムカメラは「デメリットがメリット」
ではメリット・デメリットでないなら、何のハナシでしょうか?
先ほどの話でいくと、
- メリットいっぱいのカメラ=デジタルカメラ
- デメリットばっかりなカメラ=フィルムカメラ
でした。
しかし、メリット・デメリットという視点で見るとデメリットは単にデメリットですが、視点を変えると、デメリットはメリットに、メリットはデメリットに転換されます。
まさにコペルニクス的転回です。(笑)
地球の上にいたら動いて見えるのは太陽ですが、全体を見渡すと動いているのは地球です。
「どこに視点を置くか」
これによって、意味が180°変わります。
「利便性」というごく一般的な視点で見たら、デジカメのほうがメリットだらけで、フィルムカメラはデメリットだらけです。
でも、コペルニクス的転回によって視点を変えると、フィルムカメラのデメリットは、そのまんまメリットになります。
するとデジカメとフィルムカメラの比較は、メリット対メリットになります。
このような準備段階を経て、初めてデジタルカメラとフィルムカメラの比較が可能となるわけです。
フィルムカメラのメリット
物事には表と裏があります。
表が見える位置に立てば、表しか見えませんが、裏が見える位置に立てば、裏が見えます。
フィルムカメラにデメリットしか見えないとしたら、今現在、表しか見えていないということです。
そして、フィルムカメラの真価を知るには、裏を見る必要があります。
そのためにまずは「表面」、すなわちフィルムカメラのデメリットから確認してみましょう。
フィルムカメラのデメリット
- フィルム代・現像代・データ化代などのランニングコストがかかる
- フィルムを買ったり現像に出したりという余計な手間がかかる
- フィルム交換の手間がかかる
- フィルムという余計な荷物が増える
- 画質がデジタルに比べてぼんやりしている
- 撮ってすぐ画像を確認できない
- 失敗した画像を取り消せない
- 撮影時にデジカメのような細かいコントロールができない
- 撮影後の画像加工ができない(しづらい)
- EXIFのような撮影データ・撮影情報が残らない。
まあざっとこんなところでしょうか。
一言で言うと「不便」です。
「表」だけ見ると、なんでわざわざこんな不便なカメラを使う必要があるのか、意味不明です。
では次にフィルムカメラの裏側、すなわちこれらのデメリットを裏返したらどのようなメリットに転換されるのかを見てみましょう。
フィルムカメラのメリット
- コストがかかる分、1枚1枚を丁寧に撮る
- 手間と時間をかけた分、1枚1枚の写真に愛着が湧く
- 画質がデジタルのようにクッキリしていない分、安らぎと親しみを感じる
- 撮ってすぐ画像を確認できないので、撮影自体に集中できる
- 失敗した画像は取り消せないので、集中力を持って撮影に臨める
- デジカメのような複雑なコントロールができないので、カメラの操作ではなく被写体に集中できる
- 撮ったら終わりなので、撮影後の画像加工等について思い煩う必要がない
あら~、不思議ですね。
デメリットを裏返してみると、なんだかとてもよさそうなことばかりです。(笑)
デメリットも裏返すと、メリットになってしまいました。
これらのメリットを一言で言うと何でしょうか?
それは「手仕事の楽しみ」です。
世の中すべて効率ではなく、あえて田舎暮らしを選択したり、あえて手間ひまかけて野菜や花を育てたりする人もいます。
「手間ひま」それ自体が喜びであり、楽しみなのです。
フィルムカメラはそっち方面の人のためのカメラです。
改めてデジタルカメラとフィルムカメラの比較
というわけでやっと、デジタルカメラとフィルムカメラはメリットとメリットの比較、すなわち同じ土俵に立ちました。
この比較はすなわち、そのカメラを見る「視点」の比較です。
視点とは、その人の立ち位置であり、何のために写真をやるのかという態度の表明でもあります。
すなわち、デジカメとフィルムカメラの選択はイコール、何のために写真をやるのかの選択、とも言えます。
デジカメの場合
デジカメはとにかく高いコントロール性と高画質が、その特徴です。
コントロールできる幅はどんどん広くなり、細かくなっていくのが、デジカメの進歩の特徴です。
メニューの数はどんどん増え、それを収める階層は年々深くなる一方です。
画質については、ダイナミックレンジや色再現性はどんどん広がる方向へ、画素数はどんどん増える方向です。
それは「分割して支配」という西洋的発想のカメラ、あるいは科学的発想のカメラと言えるでしょう。
細部の次は、その細部の細部へと、どんどん細かく分割して、どこまでも細かい部分をコントロールしていくのが、その発想です。
つまりデジカメは、写真を構築する人のためのカメラであり構築を楽しむ人のためのカメラです。
フィルムカメラの場合
フィルムカメラの場合、もはや進歩はありません。なぜならもう新製品の開発をしていないので。
そんな進歩が止まっているフィルムカメラを使おうという人は、もちろんそのコントロール性や高機能性を買っているわけではありません。
あえてその不便さを買っているのです。
カメラの機能を操って撮るのではなく、自分の手足を操って撮るという感覚です。
そして、フィルムの画質。
デジカメに比べたら、圧倒的に「ユルい」画質は、そもそも画像処理を想定していません。
デジタルの場合だと本格的にやるならば、むしろ「撮ってからが本番」です。
RAWデータで撮り、そこからPC上で画像処理を施して、自分好みに追い込んで仕上げていくのです。
でもフィルムは撮った時点で終わりです。
フィルム面に露光され、画像が定着したら、そこがゴールです。
ピクセルを構築していくようなデジタルの画質とは違い、フィルムは「ざっくり」であり、その描写は「だいたい」です。
そのスキが余韻につながり、いわゆる「味のある」描写となります。
デジカメが西洋的なカメラだとしたら、フィルムカメラは東洋的です。
細かいコントロールができないシンプルな撮影。
そして、ざっくりとしたユルい描写。
それは、写真や撮影なるものを一掴みで把握するような、東洋的なスタイルです。
合理性よりも精神性、結果よりも過程です。
フィルムカメラは、撮影の過程そのものを楽しむ人のためのカメラであり、「操作する機械」というよりも「手足として使う道具」です。
デジカメかフィルムか?最終的な選択
ということで、デジカメとフィルムカメラ、それぞれの特徴とメリットを見てきましたが、最終的にどちらを選べばよいでしょうか。
デジカメ
デジカメは、合理性と科学的精神に則った、現代におけるメインストリームとなる考え方にマッチしたカメラです。
特にこだわりがなければ、選んでおけば間違いないでしょう。
どういう絵が撮りたいかの目的を明確にし、それに向かって作り上げるという、現代的・合理的な発想によくマッチしたカメラです。
フィルムカメラ
フィルムカメラは、行為そのものに重点を置くような撮り方にマッチしたカメラです。
フィルムの銘柄を選び、カメラにフィルムを巻き、じっくりと被写体に向き合い、「今」という瞬間に大切な1枚を消費する。
そして現像が上がるまで、しばしのインターバルを経て改めて写真と向き合う。
「あー、あのときはああだったな、こうだったな」と、1枚ずつゆっくりと眺めて、大切にしまっておく。
その場合、あんまり画質がどうこう、絵のクオリティがどうこうという話にはなりにくいです。
フィルムの写真は「画像」というよりも、ただの「写真」です。
いじろうという発想、クオリティを上げようという発想には、あんまりなりません。
おそらく、そういう発想の人は、初めから使わないカメラです。
最終的にどちらを選ぶ?
デジカメがテクニックの受け皿、創作意欲の受け皿だとしたら、フィルムカメラは気持ちの受け皿です。
デジカメが創作意欲を画像に変換する機械なら、フィルムカメラは気持ちを画像に変換する機械です。
デジカメは「使うべきカメラ」であり、フィルムカメラは「使いたいカメラ」です。
デジカメは「使うべき理由」が使わせるカメラであり、フィルムカメラは「使いたい気持ち」が使わせるカメラです。
使うべき理由があるなら、デジカメを、使いたい気持ちがあるならフィルムカメラを選んでみるとよいでしょう。
デジカメ
- 絵づくりに興味がある
- 撮影だけじゃなく画像処理など、写真のいろんな要素を味わってみたい
- 求める絵がある
- まずは写真というものを知りたい
つまり、「普通に写真をやる」ならデジカメを選んでおけば間違いありません。
フィルムカメラ
- 手作業でじっくりと手間をかけるのが好き
- 結果の出来不出来よりも、それを作る過程を楽しみたい
- デジカメには飽きた
- 単純に興味がある
フィルムカメラには、もはや理由らしい理由はありません。(笑)
デジカメは実利ですから、あれこれ客観的な利点を挙げることができますが、フィルムカメラはロマンなので、その気持ちは当人にしか理解できません。
ですからフィルムに興味があるみなさん、安心してください。
フィルムカメラを使うのに、理由は必要ないのです。
使ってみたい人は、使ってみたいという気持ちだけで、使ってみてOKです。
まとめ
えー、まるでフィルムカメラを推しているかのような印象を受けたかもしれませんが、その通りです。(笑)
客観的にデジカメとフィルムカメラの比較をしたつもりですが、「フィルムいいぞ」という推し感がどおにも出てしまっている、かもしれません。
しかしながら実際、デジタル全盛のこのご時世において、フィルムカメラの価値は、まあよくわからなくなっているのが現状です。
そんなデジタルネイティブの世代のためにも、フィルムの価値をあえて提示しておくことには意味があると思います。
一言で言うと、デジタルの良さは「実利」であり、フィルムの良さは「ロマン」です。
デジタルの良さは誰にでもわかりますが、フィルムの良さは当人にしかわかりません。
つまり、デジタルの良さは説明不用で、フィルムの良さは説明不能です!
長々と説明を続けてきたデジタルとフィルムの違いは、結局は周知のとおり、デシタ。(笑)
【お後がよろしいようで】