世の中にあるカメラ用のレンズを二種類に分けると、
- 単焦点レンズ
- ズームレンズ
に分かれます。
単焦点レンズについては以前お話しましたので、今回はズームレンズについてお話しましょう。
ズームレンズはカメラボディとセットで売られることも多く、どちらかと言えば、
「最初の1本」「簡単・便利」=「初心者向き」
みたいなイメージです。
そして単焦点レンズは、
「ステップアップレンズ」「使いこなしが難しい・不便」=「上級者向き」
というイメージです。
そんなわけで使用レンズは、「ズーム→単焦点」という流れが一般的です。
今回は、ズームレンズの特徴と使い方を解説しながら、「ズームから単焦点」の流れの意味についても解説します。
「便利」なズームレンズから「不便」な単焦点レンズへの流れは、一見不可解な感じがしますが、そこにはもちろん、大切な意味があります。
目次
ズームレンズの特徴
単焦点レンズとズームレンズの違い、それはレンズの「焦点距離」が固定か可変かの違いでした。
焦点距離が固定のレンズが単焦点レンズで、可変のレンズがズームレンズです。
ズームレンズのメリット
ではその「可変」がもたらすメリットとはなんでしょうか。
それはもう言うまでもなく「便利さ」です。
そして便利さとは具体的には、以下のような点です。
- レンズ交換の手間が不要
- 持ち出すレンズの本数が少なくて済む
- 単焦点にはない「中途ハンパな」焦点距離が使える
レンズ交換の手間が不要
レンズ交換。
単焦点レンズユーザーなら誰もが思うと思いますが、撮っている最中のレンズ交換は、かなり億劫です。
そして、レンズ交換のネガティブな要素としては、
- 撮影の流れが阻害される
- シャッターチャンスを逃す可能性がある
- カメラ内にゴミが入る要因になる
- レンズを落っことすリスクがある
といったことが挙げられます。
これらのネガティブな要素を全てなくしてしまえるズームレンズは、それだけでも結構なアドバンテージです。
持ち出すレンズの本数が少なくて済む
持ち出すレンズの本数が少なくて済む、ということは、荷物を減らせる、ということです。
撮影機材は軽くコンパクトであるにこしたことはありません。
なにしろ我々は、荷物の運搬に来たのではなく、写真を撮りに来たのです。
荷物の運搬にエネルギーを使うのではなく、撮影自体にエネルギーを使いたいものです。
1本で単焦点レンズ数本分をカバーするズームレンズは、この点でも大きなアドバンテージを持っています。
単焦点にはない「中途ハンパな」焦点距離が使える
単焦点にはない「中途ハンパな」焦点距離が使える。
これもズームレンズの大きな特徴です。
そもそも単焦点レンズを使うにしても、
35mm、40mm、50mm、55mm、60mm…
みたいに小刻みにレンズを揃えることは、ほとんどありませんね。
仮に揃えたとしても、それらすべてを一度に持ち出すことは、普通はやらないでしょう。
でもズームレンズなら1本でそれら全てをカバーするのみならず、「37mm」や「62mm」みたいに、さらに微妙な焦点距離も使えます。
「いや、50mmだと少し短いし、85mmだとちょっと長い…」みたいなケースでも、撮影者にとってもっとも気持ちのいい焦点距離に合わせることができます。
この「無段階に調整可能」という点を考慮に入れるならば、ズームレンズ1本で単焦点レンズ100本分くらいに相当するかもしれません。(笑)
ズームレンズのデメリット
とまあ、便利極まりないズームレンズではありますが、いいこと尽くめではありません。
ズームレンズにはもちろん、デメリットもあります。
それは「画質」です。
構成レンズ枚数も多く、収差の補正も困難なズームレンズは、単焦点レンズに比べると画質が劣るのです。
…しかし、正直これはデメリットというほどのものではありません。
むしろ、単焦点レンズの画質が良すぎるのです。
技術の発達した昨今、どんなズームレンズでも必要十分な画質は確保しています。
このご時世、猿が馬に写るようなレンズはもはや存在しません。(まあそんなレンズはそもそも無いでしょうけど 笑)
画質の可否はもはや、個人の判断です。
値段の安いズームレンズで満足な人もいるでしょうし、高い単焦点レンズでも不満な人もいるでしょう。
画質は当人が納得すれば、それでOKです。
ズームレンズの「画質」と「便利さ」の関係
画質については個人の見解ではありますが、ズームレンズの「便利さ」、
- レンズ交換の手間が不要
- 持ち出すレンズの本数が少なくて済む
- 単焦点にはない「中途ハンパな」焦点距離が使える
これについてはもう、誰が何と言おうと「便利」です。
個人の見解は関係なく、誰が見ても間違いなく「便利」です。
ですから、単焦点レンズかズームレンズかの選択は、画質にこだわりがなければ、ズームレンズ1択で間違いありません。
ズームレンズの使い方
では次にズームレンズの使い方について見ていきましょう。
ここでは「本来の使い方」と「便利な使い方」の2パターンを紹介します。
本来の写真の撮り方に則った使い方(上級者向け)
「本来の写真の撮り方」は、こちらに詳しく解説していますので、ご参照ください。
ザックリ言うと、
- 立ち位置の選択(カメラポジションの選択)
- 焦点距離の選択(切り取る範囲の選択)
- シャッタータイミングの選択(ベストな絵柄の選択)
となります。
「撮ると決めた絵を実際の写真に落とし込む作業」を本来の撮り方とするならば、立ち位置(カメラポジション)によって絵の内容を確定させることが、手順の1番目になります。
そしてその後に、切り取る範囲を決めることが、手順の2番目になります。
順序を変えて、焦点距離を決めた後に立ち位置を動くと、絵の見え方が変わってくるので、撮ると決めた絵じゃなくなってしまいます。
ですから本来の撮り方からすれば、ズームレンズを使う場合は、
- 立ち位置の選択(カメラポジションの選択)
- ズームリングを回して、ふさわしい焦点距離にセット
- 撮る
というのが、正しい手順になります。
…しかし実際問題、そんなまどろっこしい撮り方をしている人はほとんどいませんね。(笑)
というわけで次に、ズームレンズの「便利さ」というアドバンテージを最大限生かす撮り方をご紹介します。
とくに初級の方にオススメです。
ズームレンズならではの便利な使い方(初級者向け)
ズームレンズはズームリングをぐるぐる回せば、ファインダー内で画角に応じて絵柄がコロコロ変わります。
つまり「ズームリングをぐるぐる回しながら、ファインダー内でピンと来た絵を選択する」という撮り方もできるのです。
頭の中にハッキリと完成形の絵が思い浮かんでいれば、「本来の撮り方」が正しい手順になります。
しかし、撮りたい絵はいつでもハッキリと思い浮かんでいるわけではありません。
そんな場合には、ズームリングをぐるぐる回しながら、「実際の絵」を物色することができるのです。
ズーム=初心者向き、単焦点=上級者向きという印象の背景
特に初心者の段階では撮りたい絵がハッキリしない場合も多いので、この「ズーミングで絵柄を物色」という使い方は有効です。
そして、上級に移行するほど、「こういう絵が撮りたい」という欲求もハッキリしてきます。
焦点距離に敏感になり、画質にもこだわりが出てきます。
そうなると、それに合わせたレンズを選択することになり、結果的に単焦点も選ばれます。
ズームレンズが初心者向き、単焦点レンズが上級者向きと思われている背景には、こういう事情もあるのです。
ズームレンズから単焦点レンズに移行する意味
さて、ズームレンズがいかに「簡単・便利」かがご理解いただけたかと思います。
「簡単・便利」は、カメラのデバイスに限らず、物事全ての進化の方向です。
現在カメラボディについては一眼レフからミラーレスへと移行していますが、その理由はやはり、ミラーレスのほうが「簡単・便利」だからです。
レンズも同じく、「簡単・便利」を実現するためにズームレンズが誕生しました。
その簡単、便利さは、誰が見ても間違いなくそうだと言えるものです。
- レンズ交換の手間が不要
- 持ち出すレンズの本数が少なくて済む
- 単焦点にはない「中途ハンパな」焦点距離が使える
単焦点からズームへの進化は、素晴らしい「簡単・便利」を実現しています。
しかし面白いことに、ことレンズに関してはこれまで見たように、ズームから単焦点への流れが一般的です。
不思議ですね。
世の流れと逆行して、「簡単・便利」から「難しい・不便」に移行しているのです。
なぜでしょう?
それは写真の本質が、「簡単・便利」ではないからです。
写真の本質とレンズ選択の関係
写真の本質は、言うまでもなく「写真そのもの」です。
そして、カメラにおいて写真そのものに影響を与えるデバイスは、
- レンズ
- センサー
- 画像処理エンジン
です。
これらは「簡単・便利」とは別次元の要素です。
これらを測るモノサシは「クオリティ」です。
そして「写真そのもの」を測るモノサシも「クオリティ」です。
写真そのものを追及し始めると、カメラにおいては、写真そのものに影響を与えるデバイスを追及することになります。
追及するものは「クオリティ」になり、「簡単さ・便利さ」ではなくなってきます。
写真用のレンズにおいては、「写真そのもの」への欲求が「簡単・便利」への要求を上回る時に、人はズームから単焦点へと移行するのです。
もちろん、撮り手の欲求によっては、単焦点ではなくズームレンズを選択する場合もあるでしょう。
しかし、なぜ不便で使いにくい単焦点レンズをあえて使うのかといえば、それは「写真そのもの」への欲求が、そうさせるのです。
写真に対して「もっとこうしたい」「もっとこうあるべき」という、あなたの内から催してくる至上命令は、「簡単・便利」を上回るだけではありません。
それは当初の「予算」すら上回ります。(笑)
みなさんも心当たりありますね?
当初の予算をオーバーして、さらにいいレンズを買ってしまうことは。
その勢いたるや、ほとんど恐ろしいくらいです。(怖)
我々は「簡単だから、便利だから」写真をやっているのではありません。
「写真を撮りたいから」写真をやっているのです。
当たり前ですが。(笑)
その当たり前に気が付いて、あなたが写真そのものに向かい始める時。
その時がズームから単焦点への移行の時です。(あるいはより高いズームへ 笑)
まとめ
今回はズームレンズの特徴と使い方を解説しながら、あわせて単焦点レンズへの移行の意味についても解説しました。
今回の内容をまとめます。
ズームレンズの特徴
まず、ズームレンズの特徴は、
焦点距離が可変
です。
ズームレンズのメリット
そしてそのことがもたらすメリットは、
- レンズ交換の手間が不要
- 持ち出すレンズの本数が少なくて済む
- 単焦点にはない「中途ハンパな」焦点距離が使える
です。
ズームレンズのデメリット
デメリットは、
- 単焦点に比べて画質が劣る
です。
ズームレンズの使い方
そんなズームレンズの使い方は2パターンです。
本来の撮り方(上級者向け)
- 立ち位置の選択(カメラポジションの選択)
- ズームリングを回して、ふさわしい焦点距離にセット
- タイミングを見計らって撮る
これは、撮りたい絵が事前にハッキリ決まっている場合の撮り方です。
この場合は、立ち位置(カメラポジション)によって、まず絵の見え方を決定し、その後にズームリングを回して、最適な焦点距離(=切り取る範囲)を選択します。
ズームレンズは単焦点レンズにはない中途ハンパな焦点距離も選択できるので、より細かい画角の調整が可能です。
ズームレンズならではの便利な撮り方(初級者向け)
- 適当な立ち位置から対象にレンズを向ける
- ズーミングを適当に動かしてみる
- ピンときたらそれを撮る
これは、撮りたい絵が事前にハッキリ決まっていない場合の撮り方です。
この場合はとりあえず撮りたいものにレンズを向け、とりあえずズームリングをぐるぐる回してみます。
するとファインダー内でいろんな焦点距離の絵が展開されるので、その中からピンと来たものを撮影します。
これは、焦点距離が可変のズームレンズならではの便利な撮り方です。
ズームから単焦点への移行の意味
写真は本質に近づくにつれて、「簡単・便利」よりも「写真そのもののクオリティ」を追求する傾向を呈します。
そうするとレンズに対する要求も、「簡単・便利」よりも「クオリティ」へと変化します。
その結果ズームから単焦点へという流れが生じます。
人は結局、「簡単・便利」のために写真をやっているのではなく、「写真そのもの」のために写真をやっているのです。
ズームレンズから単焦点レンズ。
「簡単・便利」から「難しい・不便」という一見不可解な流れは、写真の本質から見れば至極当然の流れです。
結局カメラもレンズも、「写真そのもの」のための道具です。