ちょっと前の記事で、デジタルカメラの恩恵として、「高感度性能」と「RAWデータ」について触れました。
前回は「RAWデータ」のほうを記事にしましたので、今回はもう一方の「高感度性能」、すなわち「ISO感度」について記事にしたいと思います。
「ISO感度」はデジタルカメラにおいては、もはや「絞り」「シャッタースピード」と同列の扱いになっていますが、もともとそれは「フィルムの性質」であって、「カメラの性質」ではありませんでした。
フィルムの頃は露出の決定において、カメラで設定するのが「絞り」と「シャッタースピード」、フィルムで設定(選択)するのが「ISO感度」と、きっちりと分かれていました。
しかし、デジタルカメラの時代になり、カメラのセンサーがフィルムの役割をするようになると、ISO感度は「カメラの性質」のひとつに組み込まれてしまいました。
現在では、「絞り」「シャッタースピード」「ISO感度」の3つのパラメーターによって露出を設定するのが、ほぼ当たり前になっていますね。
今回はそんな「ISO感度」の役割や特徴、扱い方について解説します。
目次
そもそも「ISO感度」の読み方は?
「ISO感度」をなんて読むかの議論があるとは、ネットで改めて調べてみるまで知りませんでした。
筆者は普通に「イソ」またはただ単に「感度」です。
自分の回りでもこれ以外の言い方は聞いたことがありません。
しかし、ネットで見ると「アイ・エス・オー」あるいは「アイソ」という呼び方もあるようです。
このへんは几帳面な日本人らしい性格でしょうか、「正確に」言わなければいけないという心理が働いているのかもしれませんが、何を好き好んでまどろっこしいほうの言い方をする必要がありましょうか?
一番簡単な「イソ」でよくないですか?
特に複数のスタッフで共同作業するような現場では、意思の疎通にもスピードが求められますので、まず「イソ」以外の言い方はしないと思います。
色温度(いろおんど)は「色温(しきおん)」スタンドは「脚(あし)」、アンブレラは「傘」パーマセルは「白パー黒パー」です。
撮影に限らず目まぐるしい現場仕事では、用語はどんどん略されていく傾向にあるようです。
プロっぽくいくなら「イソ」がいいのかもしれません。(笑)
「ISO」「DIN」「ASA」
さて、「ISO」というのはそもそも、「国際標準化機構」(International Organization for Standardization)のことですね。
そしてフィルムの感度の規格が、ISOに統一される前は、
- 「DIN」ドイツ工業規格:Deutsche Industrie Normen
- 「ASA」米国規格協会:American Standards Association
の2種類の規格が使われていました。
「ドイツ」と「アメリカ」を統合して「国際」にしたという話ですね。
ローカルルールだったものを国際ルールにしたというわけです。
よく企業の宣伝文句として、「ISO9001取得!」とか「ISO14001取得!」とかいうことがありますが、こちらもフィルムの感度と同じ、「国際標準化機構」が取り決めた、いわゆる「ISO規格」というもののひとつですね。
(こちらの場合は普通「アイ・エス・オー」と読まれています)
ちなみに、フィルムの感度に関するISO規格は正式には、
- カラーネガフィルム:「ISO 5800:1987」
- モノクロネガフィルム:「ISO 6:1993」
- カラーリバーサルフィルム:「ISO 2240:2003」
というそうです。(Wikipediaより)
略して「ISO」でまとめているわけですね。
ちなみに「国際標準化機構」は、電気技術分野を除く全産業分野に関する1万以上の国際標準を規格として定めているそうですが、有名な非常口のマークもその一つです。
ISO感度とは
さてそれでは本題に入りましょう。
写真におけるISO感度は、センサーの「光に感じる度合い」を設定するものです。
感度が低いということは、光に感じにくい、つまり、たくさん光をあてて、ようやく反応する、ということです。
逆に感度が高い、ということは、少しの光でもピッと反応するということです。
ISO感度のことを英語では「ISOスピード」と言ったりしますが、まさに、光に対する反応のスピードです。
「おーい!」と10回くらい呼ばれてようやく「なに~?」と返事するのと「お…」という前にすでにもう「はい~~~っ!!!」と返事しているかの違いです。
レンズにおける「ハイスピード」
ちなみにF値の小さい大口径レンズのことを「ハイスピードレンズ」と言ったりしますが、これも似たような感覚ですね。
F値が小さいということは、それだけたくさんの光を一度に取り込めるということで、すなわち「速い感光スピード」につながります。
写真が誕生した初期のころは、感光剤も超低感度なわけで、ポートレートを撮るのにも10分も20分もかかったわけです。
なので被写体がブレないように「首おさえ」や「胴おさえ」で体を固定したわけですが、そんな時代における「ハイスピードレンズ」は文字通り「ハイスピード」なわけです。
それを「明るいレンズ」や「大口径レンズ」と言わずに「ハイスピードレンズ」と言いたくなる切実な理由もあったわけです。
ISO感度を設定する意味
さて、ISO感度はセンサーの光に感じる度合いを設定するためのものですが、何のためにそんな設定をする必要があるのでしょうか。
まず、低ISO感度にすることによって反応を遅くすると、その分センサーが取り込む光の量が多くなります。
そして、センサーが取り込む光の量が多くなると、その分画像の情報量が多くなります。
つまり、「画質」がよくなるのです。
ある場面を写真にする場合、少ない光量から画像を形成するよりも、たっぷりの光量から画像を形成したほうがいい画質になるのは容易に想像できると思います。
「クイズ」においても、少しのヒントから解答を導くよりも、たくさんヒントがあったほうが正答率も高まるというものです。
逆に高ISO感度、つまり反応を速くすると、少しの光量しか取り込まないので、少ない情報量から画像を形成することになり、その結果画質が落ちるというわけです。
低ISO感度の特徴
さて、ISO感度を下げてたっぷりの光量を取り込むことは、画質のためには大変結構なことですが、そのためには、光を取り込むのに「時間をかける」か「単位時間あたりの量を多くする」かのどちらかの手段が必要になります。
すなわち「シャッタースピード」を遅くして露光時間を長くするか、「絞り」を開けて単位時間あたりの光量を多くするかの、どちらかの手段が必要になります。
ここで先ほどの「ハイスピードレンズ」の話が思い出されます。
大光量とはつまり、露光時間を短くできるということ、すなわち「時短」(ハイスピード)です。
現実世界では「時短」はお金で買うことができますが、写真の世界では「光量」で買うことができます。
撮影に10分かかっていたものが、ハイスピードレンズのおかげで2分半で済んだりするわけです。
つまり「大光量=ハイスピード」。
言ってみれば「低ISO感度にする」ということは「シャッタースピードを遅くする」にしろ「絞りを開ける」にしろ、「スピード」を喰う(=光量を喰う)、というわけです。
高ISO感度の特徴
そして逆に、ISO感度を上げて取り込む光の量を少なくすると、画質は落ちる代わりに「スピードを生かせる」というメリットがあります。
切り詰めた「光量(=スピード)」という資源を、シャッタースピードや絞りにまわせるのです。
すなわちISO感度を上げることによって、シャッタースピードを速くすることも出来ますし、絞りを絞ることもできます。
そして、写真において「スピードを生かす」ことのメリットは、
- 手ブレや被写体ブレを防ぐことが出来る。(シャッタースピードにおいて)
- 深い被写界深度(広いピント合焦範囲)を得ることが出来る。(絞りにおいて)
です。
画質よりも「ブレないこと」や「広いピント合焦範囲」が優先される場合に、ISO感度を上げて対応することができます。
また、あまりにも低光量な状況下では、そもそもISO感度を上げないと写真が写らない、ということもあるでしょう。
この場合はもはや画質云々ではなく、「撮れる」か「撮れない」かの話になってきますね。
この点、高ISO感度は、「撮れなかった写真が撮れる」という意味において貴重であります。
そして、その「高ISO感度の画質」も、年々向上しつつあります。
ISO感度設定の意味
まとめると、ISO感度の設定とはつまり、「クオリティ(画質)」と「スピード」を天秤にかける作業です。
先ほどの「返事」の例に例えると、高感度はスピードは速いけど仕事が雑、低感度はスピードは遅いけど仕事が丁寧、と言い換えることができます。
次の1枚は画質重視で行くのか、それともスピード重視でいくのか、それを決めるのが「ISO感度の設定」です。
そして、「画質」と「スピード」がトレードオフの関係なのは、スピードが早くて仕事も丁寧な人は、現実世界でも滅多にお目にかかれないことからも容易に想像できますね。
プリンターも「高画質設定」にるすとプリントに時間がかかりますし、「低画質」だと出てくるのも速いです。
「絞り」「シャッタースピード」と「ISO感度」の関係
さて、デジタルカメラでは、「絞り」「シャッタースピード」「ISO感度」の3つのパラメーターで露出を決定していきます。
「露出」とはつまり「写真の明るさ」、つまり「センサーに取り込む光の量を決めること」ですね。
まずは、それぞれのパラメーターの数値を動かすと、撮影する写真にどういう影響を与えるのかを見てみましょう。
絞り | 開ける(光量多) | ピントの合う範囲が狭くなる(背景がよくボケる) |
---|---|---|
閉じる(光量少) | ピントの合う範囲が広くなる(背景があまりボケない) |
シャッタースピード | 遅い(光量多) | 被写体がブレる(手ブレも起こる) |
---|---|---|
速い(光量少) | 被写体がブレない(手ブレも起きにくい) |
ISO感度 | 低い(光量はたくさん必要) | 高画質(しかしスピードを消費) |
---|---|---|
高い(光量は少なくていい) | 低画質(しかしスピードを生かせる) |
この3つのパラメータを操作することによって、同じ露出(同じ写真の明るさ)でありながら、
- ボケ具合の違う写真
- ブレ具合の違う写真
- 画質の違う写真
の3つのバリエーションを生むことができる、ということです。
「ISO感度」によって写真をコントロールする
例を見ましょう。
まず、その場の適正露出が、
絞り | F5.6 |
---|---|
シャッタースピード | 1/125 |
ISO感度 | 400 |
であったとしましょう。
ボケのコントロール
まず、写真の「ボケ」をコントロールしてみましょう。
「ボケ」をつかさどる要素は「絞り」でしたね。
絞りを「開ける」(F値を小さくする)と、ピントの合う範囲が狭くなり、背景がよくボケます。
逆に「絞る」と、ピントの合う範囲が広くなり、背景のボケは小さくなります。
まずボカしてみましょう。
ボケの大きい写真を得る
絞りをF5.6から2段開けて、F2.8とします。
絞りを開ける方向に動かすと、背景のボケが大きくなると同時に、取り込む光の量が多くなりましたね。
絞りを2段開けたので、露出は「2段オーバー」の状態です。
適正露出にするためには、「シャッタースピード」か「ISO感度」のどちらか、あるいは両方で、オーバーした2段分を解消する必要があります。
シャッタースピードで解消する場合
まずシャッタースピードで解消してみましょう。
シャッタースピードで解消する場合は、2段光量を減らす方向、つまり「2段シャッタースピードを早くする」わけです。
1/125(現在値)→1/250(1段減)→1/500(2段減)
はい、できました!
絞り | F5.6 |
---|---|
シャッタースピード | 1/125 |
ISO感度 | 400 |
絞り | F2.8 |
---|---|
シャッタースピード | 1/500 |
ISO感度 | 400 |
これで、元の写真とは露出(写真の明るさ)は変わらず、ボケだけがより大きい写真になりました。
そしてついでにシャッタースピードが速くなった結果、よりブレの無い写真にもなります。
ISO感度で解消する場合
それでは次に、シャッタースピードではなく、ISO感度で2段分の露光オーバーを解消してみましょう。
取り込む光の量が多く必要なのは、低ISO感度のほうでしたね。
ですから、ISO感度を2段下げてオーバーな2段分の光量を吸収します。
ISO400(現在値)→ISO200(1段減)→ISO100(2段減)
はい、できました!
絞り | F5.6 |
---|---|
シャッタースピード | 1/125 |
ISO感度 | 400 |
絞り | F2.8 |
---|---|
シャッタースピード | 1/125 |
ISO感度 | 100 |
これで、元の写真とは露出(写真の明るさ)は変わらず、ボケだけがより大きい写真になりました。
そしてついでにISO感度が低くなった結果、より画質のいい写真にもなります。
シャッタースピードとISO感度の両方で解消する場合
シャッタースピードとISO感度の両方で解消する場合は、おのおの1段ずつ負担すればいいわけですね。(もちろん「半段と1.5段」等も可)
すなわち、
- シャッタースピード=1/125(現在値)→1/250(1段減)
- ISO感度=ISO400(現在値)→ISO200(1段減)
絞り | F5.6 |
---|---|
シャッタースピード | 1/125 |
ISO感度 | 400 |
絞り | F2.8 |
---|---|
シャッタースピード | 1/250 |
ISO感度 | 200 |
これでもやはり、元の写真とは露出(写真の明るさ)は変わらず、ボケだけがより大きい写真になりますね。
そして、ブレなさ加減と画質は、それぞれ単体で解消した場合の半分ずつ、向上しているということになりますね。
いわゆる「間(あいだ)を取った」という形です。
ブレのコントロール
次に写真の「ブレ」をコントロールしてみましょう。
シャッタースピードを遅くして、露光中に被写体の動きに合わせてカメラを振ることを「流し撮り」なんて言いますが、それによって「動き」を表現できます。
また、シャッタースピードを遅くして、あえて被写体自体をブラすこともあります。
photo:dennis
逆に、シャッタースピードを速くして、動きの速いものを「止める」こともできます。
このように、シャッタースピードの選択も、写真の内容に密接に関わってきます。
次はシャッタースピードを上げて、動きの速い被写体を止めてみましょう。
動きの速いものを「止める」
絞り | F5.6 |
---|---|
シャッタースピード | 1/125 |
ISO感度 | 400 |
ここからシャッタースピードを3段速くして、1/125→1/1000とします。
シャッタースピードを速くすると、ブレなくなると同時に、取り込む光の量が減りましたね。
3段速くしたので、露出は「3段アンダー」の状態です。
適正露出にするためには「絞り」か「ISO感度」のどちらか、あるいは両方で、不足した3段分の光量を解消する必要があります。
ISO感度で解消する
これをISO感度で解消してみましょう。
取り込む光の量が少なくていいのは、ISO感度を上げる方向ですね。
ですから、3段少ない光量にマッチさせるために、ISO感度を3段分上げます。
ISO400(現在値)→ISO800(1段増)→ISO1600(2段増)→ISO3200(3段増)
はい、できました!
絞り | F5.6 |
---|---|
シャッタースピード | 1/125 |
ISO感度 | 400 |
絞り | F5.6 |
---|---|
シャッタースピード | 1/1000 |
ISO感度 | 3200 |
これで、元の写真とは露出(写真の明るさ)は変わらず、F1マシンをもピタリと止めるシャッタースピードに設定できました。
しかしISO感度が高くなった分、画質は落ちます。
まとめ
では、「ISO感度」について今一度まとめておきましょう。
ISO感度の役割
- 露出において、画質をコントロールするパラメーター
特徴
- 低ISO感度=画質は良いがたくさんの光量が必要
- 高ISO感度=画質は落ちるが少ない光量から画像を形成できる
使い方
- 絞りを開ける、シャッタースピードを遅くするなど、「光量が増える」方向に露出設定を動かしたとき、ISO感度はそれに合わせて「光を多く取り込む方向」つまり下げる方向に動かす。
- 絞りを閉じる、シャッタースピードを速くするなど、「光量が減る」方向に露出設定を動かしたとき、ISO感度はそれに合わせて「光量が少なくて済む方向」つまり上げる方向に動かす。
デジタル時代の「ISO感度」
ISO感度を含めた、写真の「露出」については、それだけで一冊の本が書けるくらい、奥の深い話です。
初心者にとっては、飲み込むまでが大変な部分でしょう。
今回は「ISO感度」に着目して、露出全般にまで話を広げながら解説してきました。
かなり理屈っぽい話になってしまいましたが、実際、露出は理屈です。
しかし、露出の理屈とは結局のところ、数値を一定に保つために、絞りを増やしたならシャッタースピードを減らすとか、絞りとシャッタースピードを最適に設定したからISO感度をそれに合わせるといった、トータルを±0にするための設定という、きわめてシンプルなものです。
そしてISO感度はどちらかというと、撮りたい写真の「絞り」と「シャッタースピード」に合わせて増減するという、消極的な用いられ方が多いと思います。
だからカメラボディには「絞り」と「シャッタースピード」の設定のための専用ダイヤルは付いていますが、ISO感度に対してはいまだに専用のダイヤルがないのです。
ISO感度はどちらかと言うと、露出の決定を「下支え」する役割です。
そして、高ISO感度の画質は年々向上し、RAW現像や画像処理によるノイズリダクションも年々精度を増しています。
画質を気にせずに、自由に「絞り」と「シャッタースピード」を設定できる時代が、すぐそこまできています。
フィルムの時代は、ISO感度という枠のなかで「絞り」と「シャッタースピード」をやりくりしていました。
それは「ISO感度」という予算のなかで、家計のやりくりをするようなものです。
しかしデジタル時代になり、高ISO感度の画質の向上やノイズリダクションの技術向上によって、その予算は青天井となりつつあります。
かつては「縛り」であったISO感度が、現在では露出設定の自由度を保証してくれる「女神」になりました。ISO感度様様です。
そんな「自由の女神」ISO感度様は、画素数や機能においてはかなり行き尽くした感の出てきたデジタルフォトグラフィにおいて、まだまだ進歩の余地のある貴重な分野です。
「我らに予算を!」そして「写真に自由を!」。
ISO感度様のこの先の行く末を、注意深く見守っていこうではありませんか。