単焦点レンズでスナップ撮影をする場合、どのレンズを持ち歩くべきか。実に悩ましい問題です。
あっちを立てればこっちが立たずで、全てを満足させる解答というものは無いのかもしれません。
しかし、よく検討してみることによって、ある程度の解答を導き出すことはできます。
今回はその「レンズ選びの基準」を具体的に検討してみましょう。
スナップ撮影のレンズ選びの難しさは、機材をいかに減らすかと同時に、被写体が一定しないことも関係してきます。
要は「何でも撮る」ので、「被写体によってレンズを選ぶ」ということができないのです。
そんな難しさもふまえながら、早速みていきましょう。
そしてこの「悩み」は、実は「愉しみ」だったりするから、全くカメラ好きというのは手に負えません。(苦笑)
目次
スナップ撮影におけるレンズ選択のむずかしさ
レンズ選択の相談を、例えばビックカメラの店員に持ちかけたとしましょう。
真っ先に訊かれるのは「何を撮るんですか?」
もっともです。そのとおりです。
何を撮るかによって、レンズ選択も違ってくる。
逆に言うと、様々な使用目的に対応するために、交換レンズのバリエーションがあるわけです。
しかし、スナップ撮影の場合は、「何でも撮る」としか言いようがないのです。
動いている物も止まっている物も、風景も人物も動物も、朝も昼も夜も、屋内も屋外も、近くも遠くも、なんでもです。
そんな幅広い撮影対象をカバーするわけですから、持ち運ぶレンズはたくさんあった方がいいのは言うまでもありません。
しかし、考えなくてはいけないのは、スナップ撮影の場合は、それらの機材を全部持ち歩く、ということです。
あまりにも重く、あまりにもかさばると、撮影どころではありません。
適度な量と、適度な守備範囲、このバランスを見極めることが、スナップ撮影の機材選びと言えます。
1本or複数
この場合の方向性は、まず2種類に分かれます。
- レンズは1本だ!
- レンズは複数本
レンズ1本のメリット
まずはレンズ1本であることのメリットからチェックしていきましょう。
コンパクト&軽い
レンズ1本のメリットは、なんといっても「これ以上ないコンパクトさ&軽さ」です。
スナップ撮影は、身軽さがかなり重要ですので、この点については言うことなしです。
レンズ交換が不要
レンズ交換をしなくてすむのも、大きなアドバンテージです。
レンズ交換の間にシャッターチャンスを逃すのは、よくある話ですが、レンズ1本であれば、交換の必要がないので、すぐに撮れます。
また、レンズ交換中に、本体内やレンズ後端にホコリやチリの入る心配もないし、レンズ交換中にうっかりレンズを落下させるようなリスクもありません。
迷わない
そしてもうひとつ、「迷わなくて済む」です。
レンズが複数本あれば、何ミリにしようかと迷いますが、レンズ1本であれば、迷う必要はありません。
「そのレンズで撮れる絵」だけを考えればいいので、楽です。
レンズ1本のデメリット
次に、レンズ1本のデメリットです。
バリエーションに乏しい
反対にデメリットは「バリエーションに乏しい」です。
画角が変化しないわけですから、当たり前ですね。
逆に「1コのレンズでどれだけのバリエーションが出せるか」の挑戦はできますね。
万一のバックアップが無い
レンズが1コであれば、そのレンズをうっかり使用不能にした場合、撮影の続行が不可能です。
2コ以上あれば、その焦点距離は使えなくなるけど、他のレンズでとりあえず撮影は続行することができます。
余計な考えが頭に浮かぶ
これは「迷わない」の裏返しですが、レンズ1本で撮影していると、「あ~ここで何ミリがあったらな~」という考えが必ず浮かびます。
それはもう、真面目に撮れば撮るほど、浮かびます。
もちろん、その人の性格にもよるでしょうが、この考えが頻繁に浮かぶ人は、複数本持つのが性に合っているでしょう。
レンズ複数本のメリット・デメリット
さて次に、レンズ複数本の場合のメリット・デメリットですが、これはレンズ1本の場合のそのまんま裏返しです。
メリット
- バリエーションが豊富
- 万一のバックアップがある
- 「何ミリがあったらな~」という余計な考えが頭に浮かびにくい
デメリット
- かさばる&重い
- レンズ交換が必要(シャッターチャンスの喪失・チリの侵入・落下のリスク)
- 「何ミリで撮ろうか」と迷う
これらのメリット・デメリットを頭に入れた上で、次に移りましょう。
スナップ撮影におけるレンズの優先順位
それでは次に、スナップ撮影におけるレンズの優先順位は、どのように決めたらいいのかをみていきましょう。
持っている全てのレンズを持ち歩ければ、それに越したことはないですが、いかに身軽かということもスナップ撮影では大事なので、そこからどの程度減らしていくかが、課題となります。
まずはフル装備を、
- 超望遠(200mm以上)
- 望遠(100mm前後)
- 中望遠(85mm、75mm等)
- 標準(50mm近辺)
- 準広角(35mm近辺)
- 広角(24~28mm)
- 超広角(20mm以下)
と仮定します。(35mm換算)
(フィシュアイやマクロなどの特殊レンズは、それぞれの焦点距離に準ずるものとします。ここでは「焦点距離」のみに着目します。)
一般的に言って、減らしていく順序は以下の通りです。
- 超望遠
- 中望遠
- 準広角
- 超広角
- 望遠
5.まで来ると残るレンズは標準+広角の2本となります。
スナップにおける望遠レンズの扱い
順序の根拠を説明する前に、スナップ撮影における望遠レンズの立ち位置を確認しておきましょう。
まず、スナップでは望遠レンズはあまり使われません。
なぜなら、
- 画角が狭くて撮りにくい
- デカい・重い
- 大きく撮りたい場合は「寄る」という手段によって代替可能
だからです。
画角が狭いと撮りにくいのはなぜでしょうか?
それは、普段我々がぼんやりと見ている視野は、レンズで言うとだいたい標準~広角だからです。
「撮りたい!」と思ったときにパッと撮れるのは、見たままの感覚とそのままマッチする標準~広角レンズです。
望遠の画角は狭いので、それで撮る場合、よほど意識して視野を1点に集中していないといけません。
しかし、普段ぶらぶらと歩くときに、いちいち1点1点に視線を集中しながらは歩きません。
そんなわけでスナップ撮影と望遠レンズはあまりマッチしないのです。
望遠レンズを使う場合は、一種のバリエーション、変化球として、意識的に使う場合がほとんどです。
ソール・ライターという写真家は、望遠レンズで街をスナップした作品で有名ですが、彼の場合、独自の視点とポリシーによって、望遠レンズの効果をうまく生かしています。
望遠レンズは、メインレンズではないが1本あれば楽しめる、そういう立ち位置になるでしょう。
減らしていく順序の根拠
さて改めて、減らしていく順序の根拠です。
1.から順番に見ていきましょう。
1.超望遠レンズ
まず、超望遠レンズが真っ先に削られるのは、先ほど述べたとおりです。
そもそも使いづらい望遠レンズの中でも、さらに画角が狭く使いづらいうえに、さらにデカくて重いときてますので、真っ先にリストラ候補となるのは、まあ仕方がないところです。
よほどそれを使う理由がないかぎりは、あまりメンバーに加わることはないでしょう。
2.中望遠
次に中望遠が来るのは、標準と望遠の間にあって、焦点距離が中途半端だからです。
標準と中望遠を持ち歩くより、標準と望遠のほうが差が大きいので、より写真に変化をつけることができます。
微妙な差よりも、ハッキリした差を出せるほうが、持ち歩く意味がある、というものです。
3.準広角
中望遠の場合と同じ理由で、つぎは準広角となります。
標準と広角の間にあって、焦点距離が中途半端だからです。
「標準+準広角」よりも、「標準+広角」のほうが、差がハッキリと打ち出せるからです。
4.超広角
超広角というのは、スナップ撮影においては、望遠レンズとおなじく、変化球レンズです。
メインに付属するバリエーションレンズという立ち位置です。
同じ変化球レンズである望遠レンズより先に削られる理由は、望遠より超広角のほうが使いづらいからです。
広すぎる画角をうまくまとめるのって、スナップ撮影では意外とむずかしいのです。何でもかんでも写り込んでしまうので。
それよりは望遠レンズで1点に集中したものを切り取るほうが、まだまとまりやすいです。
それから、3本もつなら「超広角・広角・標準」よりも、「広角・標準・望遠」のほうがバランスがいい、ということもあります。
「超広角・標準・望遠」も考えられますが、これだと超広角から標準の間が空きすぎるので、使いづらいでしょう。
もちろん使う目的がハッキリしているなら、この限りではありません。
5.望遠
望遠レンズは変化球として、あれば面白いレンズですが、機材を減らすことを優先する場合はやはり、標準~広角がメインになります。
単純に大きく撮りたい場合は、「標準で寄る」という手段もあります。
1本の場合は何ミリだ!?
さて、削りに削ってついに「標準+広角」の2本まできました。
次に来るのは究極の選択、レンズ1本です。
アップルも1ボタンマウスにこだわりましたが、レンズ1本もそれ以下がないという意味で究極です。
さて1本の場合、その選択肢は3つ考えられます。
- 標準レンズ(50mmとか40mmとか)
- 準広角レンズ(35mm)
- 広角レンズ(28~24mm)
です。
望遠はスナップでは撮りづらいということでしたし、超広角も極端な画角による変化球レンズの1種なので、残る選択肢はこの3つです。
順番に検討してみましょう。
標準レンズ
ライカが定める標準レンズは50mmなわけであり、写真界のゴッドファーザー、アンリ・カルティエ=ブレッソンもほぼ50mm1本なわけでありまして、50mmというのはまあ正統派な選択と言えます。
昔は写真学校の入学時に必要な機材は、50mmF1.4と一眼レフカメラでしたしね。
そして、写真の基本は標準レンズと言われるように、寄れば望遠っぽく、引けば広角っぽく撮れる、万能選手でもあります。
さてしかしそんな標準レンズですが、実際のスナップの現場では、50mmだと画角が狭すぎるという状況がよくあります。
大きく撮る分には寄ればいいので簡単ですが、広く撮りたい場合、50mmだと引けるところまで引いてもフレームに入らない場合があるのです。
また、引けたとしても、引いた結果被写体との間に邪魔な物が入り込んだりして、結果的に思ったような絵にならないこともあります。
それに加えて、引きを取るための移動距離が長いと、移動中にシャッターチャンスを逃すということもあり得ます。
そんなわけで、標準の「もう少し画角が広かったらな~」に対応するのが、次の準広角です。
準広角レンズ
「準広角」という用語があるのかどうかは知りませんが、標準ではないけど、広角というほど広角でもない、まあほとんど「35mm」のことですね。(昔は35mmも立派な「広角」でしたが)
50mmの「狭い!」という感覚を解消し、それでいて広角ほど広すぎないということで、使い勝手がよく、非常に人気のある焦点距離です。
ライカMマウントの互換レンズメーカーとして知られる「コシナ」では、35mmを、「フォクトレンダー」ブランドで4本、「カールツァイス」ブランドで3本、計7本も販売しています。
参考:【コシナ製Mマウント50mmレンズの比較】ベストはこれだ!
Mマウントを利用する「レンジファインダーカメラ」は、スナップを得意とするカメラです。
参考:【一眼レフユーザーの皆さんへ】知ったら使ってみたくなる!?レンジファインダーの真の魅力
そんなスナップが得意なカメラの交換レンズとして、35mmを7本もラインナップするということは、それだけ35mmが人気であり、また売れるということでしょう。
最終的にはやっぱりそれだけ35mmが撮りやすいという証拠です。
広角レンズ
広角レンズは「広い範囲が撮れる」という特徴があります。
ですから、標準レンズでは引きがなくてフレームに入りきらない場合でも、広角レンズだと入ったりします。
そういう意味では、そもそもの「撮れる可能性」は高まるので、誰にとっても撮りやすいレンズと言えます。
コンパクトカメラやスマホのレンズが広角なのも、そういう理由です。
しかし、逆の意味では「広すぎる」ということも言えます。
つまり、撮れるのはいいんだけど、余計なものがフレームに入りやすいのです。
もうひとつ、広角になるほど「パースがつく」という特徴があります。
それはすなわち、遠近感が強調される、ということです。
近くのものは大きく、遠くのものは小さく見えるのが遠近感ですが、広角レンズで撮ると、近くのものはより大きく、遠くのものはより小さく見えるのです。
これはすなわち、見たままの自然な見え方とは違ってくるということですね。
全景を撮る場合には問題ないですけど、寄れば寄るほど遠近感が強調され、ゆがんで見える原因にもなります。
この2点、
- 写る範囲が広く、余計なものが入りやすい
- パース(ゆがみ)が付く
を、どう捕らえるかが、広角を使うかどうかの分かれ目です。
ゲイリー・ウィノグランドは、28mmをメインにスナップを撮っていますが、その広角らしい特徴は、そのまま彼の写真の特徴になっています。
結局何ミリだ!?
さて、標準、準広角、広角と、それぞれのレンズの特徴をみました。
で、結局何ミリだ?という話になると、レンズ1本であるなら、やっぱり撮りやすいのは35mmです。
50mmは画角が狭く感じる場面も多く、28mm以下の広角は、逆に広すぎたり、広角特有のパースによって、画面がゆがんだりします。
この「35mm・アズ・ナンバーワン」は、コシナの「Mマウント用レンズラインナップ」に、35mmが実に7本もあるという事実がそれを裏付けています。
マーケットが答えを出しているのですから、間違いありません。
まとめると、35mmを中心にして、より自然な描写やアップをメインとするなら50mm、全景などの引きの写真や、パースを積極的に利用するなら28mmや24mmとなるでしょう。
個人的にオススメのレンズ
最後に、個人的にオススメなレンズ構成です。
それは、
- 50mm
- 28mm
の2本使いです。
「寄り」の写真は、50mmで近づいて撮ることができますので、この2本で近景から遠景まで、ほぼあらゆる撮影をカバーできます。
ハッキリ言ってこの50mm&28mmは最強のコンビです。
「レンズ1本」という選択も魅力的ではありますが、最終的に残る写真のことを考えると、やはりバリエーションが欲しいところです。
この2本でほぼ全ての撮影をカバーできるので、「あ~、あのレンズがあればよかったのに~」という考えも起こりにくいです。
レンズ交換の手間は致し方ありませんが、多少荷物が多くなるのは、2本であればまあ許容範囲です。
実用的レンズ構成として、この50mm&28mmは、非常にオススメです。
28mmではなく24mmという選択肢もありますが、24mmだと50mmとの間がちょっと空きすぎる感じがします。
写真全体を見渡した時にスムーズな連携が取れるのは、やはり50mm&28mmの方だと思います。
さらに余裕があれば、これプラス、何か楽しみのためのレンズを追加するのもいいでしょう。
私の場合は、これに90mmを追加することがよくあります。
まとめ
スナップ撮影のレンズ選びは、悩ましくもありますが、その悩みが実は楽しかったりします。
うっかりこの記事もずいぶん長くなってしまいましたが、それはきっと書いていても楽しいからでしょう。
楽しく悩むことが成功の秘訣です。
そして失敗も次回の糧となります。
恐れずにぜひいろんなレンズ構成にチャレンジして、あなたらしいシステムを楽しんでください♪