標準レンズが50mmであるエレガントな理由

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C Sonnar T* 1.5/50 ZM

「標準レンズ」とはご存知の通り、35mmフォーマットにおいては50mm近辺の焦点距離のレンズを指します。

しかしなぜ50mmを標準レンズと呼ぶのか、その定義は諸説あり、これといった明確な定義はありません。

ちなみに、ウィキペディアによると、

  • 肉眼の視野に近いとする説
  • 対角線長に基づくとする説
  • レンズ特性による説

といったところが代表的な根拠として挙げられています。

しかし結局のところどれも曖昧な説明で、決定的な理由にはなっていません。

でも実際、標準レンズがなぜ50mmなのかは、普通に考えれば簡単であり、そこには美しい理由が存在します。

今回はその仕組みを順を追って説明しましょう。

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目次

標準レンズの一般的に言われている根拠

まずはウィキペディアを参考に、現在考えられている標準レンズの代表的な根拠をチェックしてみましょう。

肉眼の視野に近いとする説

35mm判(ライカ判)における焦点距離50mmの画角(対角線46°・水平40°)が「注視していない時に肉眼で視認できる視野に一番近い」

これは現在もっともよく言われている根拠ですね。

しかしよく言われている割には、もっともあいまいな根拠でもあります。

そもそも「注視していない時」って、どれくらい?って話ですし、人間の視野には明確な境界線がありませんし、また感じ方にも個人差があるでしょう。

どこにもハッキリしたラインが引けません

こんなあいまいな理由では、ものごとの定義の根拠としては説得力に欠るでしょう。

実際、

肉眼に近い画角については28mm説、35mm説、85mm説など諸説ある。

とされています。

対角線長に基づくとする説

実画面サイズの対角線長に近い焦点距離のレンズを「標準レンズ」とする

これは肉眼の視野説に比べると、かなり説得力があります。

なぜなら、センサー(フィルム)サイズの対角線長というものはハッキリと決まっているからです。

  • 35mm判=43.3mm
  • 6x6cm判=79.2mm(実画面サイズ56×56mmで計算)
  • 4×5インチ判=153.0mm(実画面サイズ95×120mmで計算)

です。

しかしながら、これだと35mm判では標準レンズは50mmよりも40mmのほうが妥当ですし、4×5インチ判でも180mm(4×5インチ判では180mmがだいたい標準レンズ)より、150mmが妥当です。

実際、

アスペクト比が35mm判では2:3、6×4.5判では約3:4、6×6判では1:1とフォーマットごとに比率が異なるため、「対角線長を基準とするのは無理がある」という異論がある。

とされています。

レンズ特性による説

「広角レンズの特性」・「望遠レンズの特性」の両方の特性が弱くなり重なった焦点距離が50mm(35mm判)であるとする説。

これは感覚的には理解しやすいですね。

広角と望遠のちょうど中間、広角でも望遠でもない位置が標準。

しかしながらこれも、境界線があいまいです。どこまでが広角でどこからが標準か、どこまでが標準でどこからが望遠なのか、ラインが明確ではありません。

一般的な根拠のまとめ

これらの説の1コ目と3コ目はあいまいです。

2コ目はハッキリしていますが、実情とかけ離れています。

これではむしろ、本来感覚的に決められた標準レンズに、あとから理由をこじつけたようにも見えてしまいます。

これだけ定まっていない標準レンズに対する解釈ならば、自由に解釈を試みてみましょう。

標準レンズが50mmに行き着くまで

「普通の感覚」+「合理的」にいきます。

まずは対角線長を基準とする

まず、最初に見た3つの根拠のなかで、最もハッキリしているのは、「対角線長に基づくとする説」です。

数字でハッキリと示されているのはこれだけで、ほかはあいまいなので根拠にはなり得ません。

しかしこの対角線長も、フォーマットごとに縦横比が異なるので無理がある、ということでした。

それならば、縦横比を揃えてしまえばいいのです。

むしろ、縦横比を1:1に揃えるのが、本来のあるべき姿です。

それはなぜでしょうか?

イメージサークルにふさわしい矩形は?

写真用のレンズは、円形に出来ています。ですから、そのレンズが映し出す像も、本来円形です。

その円形の像の全体を「イメージサークル」と言います。

写真を撮るということはすなわち、その円形の像から四角く画像を切り取るということです。

参考:これでスッキリ!画角は「焦点距離」と「センサーサイズ」の二段階で理解する

そして、イメージサークルは円形でありますから、そこから四角く切り出すならば、長方形より正方形のほうがふさわしいです。

なぜなら縦横均等である正方形のほうが、同じく縦横均等である円に対してピッタリと収まるからです。

そう考えると、長方形で切り取る場合は、本来は正方形である一部分を切り捨てて長方形としている、と考えるのが妥当です。

イメージサークルと四角

極端な話、1:10の長方形であろうと、3:4の長方形であろうと、もとは同じ正方形からの「切り出し方の違い」でしかない、という考え方です。

ちなみに中判カメラの6×6と645(6×4.5cm判)は実画面サイズの対角線長は正方形と長方形なので違いますが、標準レンズは同じ80mmです。

それは、もとの正方形が同じだからですね。

逆に言えば、元の正方形が同じであれば、そこから切り出す長方形がどんな比率になろうと、常に標準レンズの焦点距離は同じになる、ということになります。

なぜ長方形にするのか

さて、円に対しては最もバランスの良い切り取り方となる正方形ですが、「四角」として見ると面白みに欠けます。

それはなぜかと言うと「短辺」「長辺」といった変化がないからです。

面白さの根源は「違い」です。違いがあるから比較が生まれ、そのギャップによって面白さが発生するのです。

世の中に男だけ、女だけだったら面白くないでしょう?男と女がいることによって、そこにドラマが生まれ、悲喜こもごもが展開されるわけです。

そんなわけでフォーマットを決める際は、より面白みのある長方形が採用されるわけですが、長方形は「切り取り方」としてはバランスが悪い。

しかし先ほど見たように、長方形は、バランスのいい正方形をトリミングしてその一部を利用している、と考えられます。

本来の切り取り方は正方形ですが、その縦(or横)を自由に縮めて、好きな形の長方形として利用している、というわけです。

35mmフォーマットなら、本来36mm×36mmの正方形を、都合によりその一辺を24mmに縮めて使っている、という考えです。

ハッセル等スクエアフォーマットのカメラで撮った写真を、プリント時にイーゼルマスクなどで長方形にプリントするのはよくあることですが、それを、撮影の段階でやっている、と考えればわかりやすいでしょう。

なので長方形であっても、本来の形は、縦横比1:1の正方形です。

本来の正方形に対しての対角線長

さて、イメージサークルから切り取る四角は、長方形であっても本来はその長辺を一辺とする正方形であるという結論に落ち着きました。

それではその「本来の正方形」に対して、改めて対角線長を求めてみましょう。

辺の長さに√2を掛ければ対角線長になりますね。(すべて実画面のサイズで計算)

  • 35mm判=一辺36mmの正方形=50.9mm
  • 6×6cm判=一辺56mmの正方形=79.1mm。
  • 4×5インチ判=一辺120mmの正方形=169.7mm。

それぞれのフォーマットでの標準レンズ(50mm、80mm、180mm)に、かなり近い数値が出てきました。

少なくとも長方形の対角線長で計算するよりも、だいぶ近くなっています。

これで50mmが標準レンズと言われることに、より納得がいきます。

標準=50mmの、より美しい理由

今回の発想の元になっているのは、シンプリファイ(単純化)です。

長方形を、よりシンプルな1:1の正方形に、そしてその正方形の対角線長を焦点距離とすることによって、「対角線長:焦点距離」も1:1になります。

この1:1on1:1という、最もシンプルな比率によって導き出される焦点距離こそ「標準レンズ」にふさわしい、というわけです。

まとめ

さて、標準レンズが50mmに行き着くまでの旅路は、無事着地点に行き着きました。

もう一度まとめておきましょう。

  1. 円に対して四角く切り取る場合は、正方形がしっくりくる。
  2. 長方形フォーマットというものは、その正方形をトリミングして使っているようなもの。
  3. なので、本来の正方形を基準に、対角線長を算出。
  4. その対角線長1に対して焦点距離1となるレンズ、それが「標準レンズ」。

長方形の場合よりも実際の標準レンズの焦点距離に近い数字が出るので、より説得力があります。

そして何よりも、1:1on1:1という、シンプルな対応関係が美しい。

普通と言えば普通の発想によって行き着く結論ではありますが、それは標準レンズが「普通の」レンズであることと、相通ずるものがありますね。

標準レンズの真骨頂

普通であること、シンプルであることは、極端なインパクトに比べたら圧倒的に目立ちません。

しかし、そこには静かな深みと本質的な美しさがあります。

数学の問題を解くのにも、回りくどく力技で解くより、シンプルにサラッと解く方が美しく「エレガント」だとされています。

標準レンズは広角や望遠に比べて目立たなく、普通で、面白みに欠けると思われがちです。

しかし、本当に深みのある、真にエレガントな写真は、そんなレンズから生まれてくるのかもしれません。

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