あ、そうそう。最近ライカ関連の記事をよく書いていますが、いわゆるフィルムのM型ライカには1コ注意点があります。
知っている人はよく知っていることですが、これから初めてフィルムのM型ライカを買う人だと、知らない人もいるかもしれません。
この件についてはネットでも人づてでも、意外と触れられることが少ないように思います。
あまり出回らない情報かもしれませんが、フィルムライカを使うならば確実に知っておきたい情報です。
目次
フィルムライカにおける注意点
それは何かというと、高速シャッターにおける露光ムラです。
1/1000とか1/500などの速いシャッタースピードの時に、画面の左右で露光量が変わる、つまり明るさにムラが出るというものです。
これはライカに限らず、横走り布幕の機械式シャッターなら、よく起こり得ることです。
横走り布幕の機械式シャッターは「そういうもんだ」という割り切りが必要です。
これは空などの均一な明るい「面」を撮影してみると、よくわかります。
レンズの周辺光量落ちもありますので、写真の周辺がなんとなく暗くはなっています。
しかしそれとは別に、どの写真も画面の左側が右側に比べて暗くなっているのが確認できると思います。
これがすなわち露光ムラです。
なぜ露光ムラが起きるのか
2枚の幕を走行させて、その幕の「間隔」によって露光を得るのが、いわゆるフォーカルプレーンシャッターです。
ライカのような横走り布幕フォーカルプレーンシャッターは、言ってみれば「ふすま」を左右に開け閉めして、光を通すような仕組みです。
1枚目のふすまをパッと開けて光を通し、2枚目のふすまでパッと閉じる。
ざっくり言うとそんな感じです。
そして「シャッタースピード」とは、1枚目が開いてから2枚目が閉じるまでの間隔です。
- シャッタースピードが「遅い」=1枚目がパッと開いてから2枚目がパッと閉じるまでの間隔が長い(パッ……パッ)
- シャッタースピードが「速い」=1枚目がパッと開いてから2枚目がパッと閉じるまでの間隔が短い(パパッ!)
というわけです。
そして、シャッタースピードが速くなれば速くなるほど、その間隔はどんどん短くなっていき、ついには1枚目が開き切っていないうちに、もう2枚目が閉じ始めるということになります。
つまり、1枚目の後端のすぐ後を、2枚目の先端が追いかけるような形になるのです。
その様子は言ってみれば、1枚目の後端と2枚目の先端によって構成される「すき間」が右から左に移動する、という感じです。
そして、シャッタースピードが速くなればなるほど、その「すき間」もどんどん狭くなります。
そして、すき間が狭くなるほど、機械式ではその精度を保つのが難しくなります。
スタート時点のすき間の幅と、ゴール付近のすき間の幅を、正確に一定させることが難しいのです。
スタート付近で1mmだった幅が、ゴール付近では2mmになってしまうのは、機械式の精度だとしょうがないのです。
結果的に、画面の左右で露光量に差が出ます。
これは例えば、すき間10mmくらいのシャッタースピードであれば、1mmのズレは大したことありません。単純に考えれば露光量の差は1/10くらいですから。
しかし、すき間1mmとかの高速シャッターになると、1mmのズレは倍の露光量の差になります。
(あくまで例えで、実際に1/1000が何mmの幅になるのかはわかりませんが)
結果的に高速シャッターになるほど、画面の左右で目に見えて露光量に差が出やすくなります。
ライカでよくあるシャッターの不具合
そんな不安定な機械式の高速シャッターですから、ライカでよくある不具合として、1/1000がそもそも「開いていない」ということがあります。
先幕が遅いほうにズレ、後幕が速いほうにズレると、高速シャッターのような細いすき間だと埋まってしまいます。
そもそも「すき間」がないのです。露光されないのです。何も写らないのです。(笑)
機械式だとやはり使っているうちにズレが生じ、1/1000くらいの精度になると「すき間小さすぎて閉じちゃったよ!」ということも起こり得るのです。
このあたりがやはり、電子基板で正確にタイミングを計算する電子式シャッターとの違いでしょうね。
機械式シャッターの露光ムラをどう捉えるか
さてこの露光ムラ。
これは修理屋さんに調整に出しても、使っているうちにズレてきます。
機械式シャッターの宿命といっていいでしょう。
そもそもライカのような機械式シャッターで1/1000の精度を出すのは難しく、実際の速度はせいぜい1/750とか言われています。
1/1000は、1/500よりは速いよくらいの「おまけ」と考えたほうがいいというのが、ライカ使いの間の定説です。
つまり、機械式カメラは精度を求めるカメラではない、ということです。
きっちり写真を撮りたい、画像を正確にコントロールしたいという場合は、最新のデジタル一眼レフやミラーレスカメラを使うべきでしょう。
これからライカなどの機械式カメラを使ってみようというみなさんは、そこに対する理解が必要です。
大事なことなのでもう一度言いますが、ライカなどの機械式カメラは、精度を求めるカメラではありません。そこに期待してはいけません。
電子デバイスによる正確なカメラが当たり前の現代、フィルムライカはもはや「写真を撮る機械」というよりも「写真も撮れる機械」です。(笑)
現代におけるフィルムライカの面白さは、機械の操作それ自体の面白さのウエイトがとても大きいのです。
ライカのアバウトさ
そもそもレンジファインダーのブライトフレームも、あれ全然正確じゃないですからね。
視野率は低いし無限遠と近接でも変わるし、パララックス(視差)もあるし。
被写体の前後の重なりをファインダーで見てたら、仕上がりはズレますからね。
前ボケの葉っぱがモデルの目にかからないようにちゃんとファインダーで調整して撮っても、仕上がりはキッチリ目にかぶってますから。(笑)
正確に撮りたいなら、ファインダーで確認後にファインダーがあった位置に撮影レンズを持ってきて(=カメラを少し左上にズラして)シャッターを切る必要があります。
そんな機械式カメラは、電子カメラのような正確さを期待するのではなく、機械特有の「ユルさ」と同調し、ユルく楽しむのがコツです。
1/1000が出てなかろうが、画面にムラが出ようが、あるいは思っていたフレーミングとズレていようが、それもカメラのキャラクターと認識し、そのキャラクターを楽しむのが、機械式カメラの楽しみです。
そもそもフィルムの画質自体がすでにユルいですし。(笑)
逆にそんなユルユルは、今どきのキッチリカッチリな正確なカメラでは撮れませんから。(笑)
ライカ(などの機械式カメラ)を楽しもう!
結局はソコです。
今どきの電子カメラの正確無比。
常に「ホワイトバランスは?」「ISO感度は?」「記録画質は?」「RAW?JPEG?」「どうすんの?どうすんの?」と聞いてくる最新電子カメラに「うるせーよ!」とちゃぶ台返しをお見舞いしたくなるような諸兄諸姉も少なくないということです。
「カメラを使ってるんじゃなくて、カメラに使われてんじゃないの?」
ふとそんな疑問もよぎる今日この頃。
「露光ムラ?あら素敵じゃない♪」
そんな気分がムラムラと湧き起こる下地は、すでに出来ているのです。
あとはもう一歩半歩足を踏み出して実際に使ってみるだけ、というポジションにいる方も少なくないはずです。
もっと高機能、もっと高画質という美食グルメの旅は、最終的にはちゃぶ台にコロッケという、あのホッとする食卓に着地するのが、世の習いです。(笑)
まとめ
えーと、何の話だっけというと、露光ムラですね。
そう、露光ムラは機械式横走り布幕フォーカルプレーンシャッターの宿命です。
基本ズレます。
ズレるのが基本だと思ってください。(笑)
画面の走査方向の両端で露出時刻が異なる、2枚の遮光幕の走査により露出するために2枚の遮光幕の走行特性差による露出むらが出やすいことなどの欠点がある。
筆者はライカの横走り布幕の露光ムラを嫌って、ツァイスイコンという縦走りメタルの電子シャッターカメラに乗り換えたこともあります。
(そもそもライカの1/1000までしかないシャッターが「足りない」という理由もあります。ツァイスイコンは1/2000まである!)
しかしもちろん、ライカは今でも使っていますし、一生使います。(たぶん)
ライカはカメラじゃなくて「ライカ」ですから。(笑)
まるで立派なライカ教徒のような言い草ですが、ライカじゃなくてもいいです。
愛せるカメラ、ホッとできるカメラ、馴染めるカメラというのも、カメラの楽しみの一つなのです。機能とか画質じゃなくて。
で、露光ムラですね。(笑)
それは機能的に見たら欠陥でしかないキャラクターですが、それを愛せる時があなたにとっての「おかえりなさい」の時です。
画質や機能を腕まくりして追い求める企業戦士たち、モーレツ社員たち、写真戦士たち。
実にお疲れ様で御座います。
仕事に明け暮れ、写真に没頭し、徹夜に残業、成果に結果に邁進するのもいいでしょう。
でも、いいかげん疲れ果て、ホッと一息つきたくなったら、思い出してください。
あなたにはホッとできる我が家があります。
ちゃぶ台にアツアツのコロッケが、いつでもあなたの帰りを待ってますから。(笑)