株式会社ボーンデジタルさんから、新刊の本を送っていただきました。
「よかったらご紹介ください」ということなので、せっかくだからこの本を絡めながら「初心者の写真勉強法」について書いてみたいと思います。
書籍名:日常風景写真術
刊行予定日:2017年5月下旬
著者:栗栖誠紀
定価:2,300円+税
ISBN:972-4-86246-388-3
サイズ:B5変形判
ページ数:160
発行:株式会社ボーンデジタル
えー、まずこの本を見て思ったこと。
それは、最近この手の本もずいぶんシャレオツになったなー、ということです。
私は学研のサンダー平山氏のシリーズなんかで学習した世代ですが、いま見ると隔世の感が否めません。(笑)
こういうデザインは、時代ごとのユーザーの質ともリンクしていますね、やっぱり。
写真はいま「オシャレな趣味」という時代なのでしょう。
目次
写真初心者とテキスト本
さてあらためて。
まずは、この手の本を手に取るであろう「初心者」を想定してみます。
写真初心者とは
「今はじめました」という初心者って、もう何をやったらいいかわからない状態です。
とりあえずカメラは買った。
まずはいろんな被写体にレンズを向けて、シャッターを切ってみる。
うん、確かに撮れた。
でも、それで?
だから何?
これからどうすんの??
と、そこで立ちすくんでしまうのが初心者です。
その写真がいいのか悪いのかも全くわからないし、そもそも何がいいのか悪いのかも全くわからないし、何がいいのか悪いのかも全くわからないから、撮影時に何をどう選択したらいいのかも全くわからない。
もうわからないことだらけです。
写真初心者がまず最初にやるべきこと
そのような状態の初心者は、まず最初の一歩として何をやったらいいのでしょうか?
それは何でもいいので、撮影に何らかの「とっかかり」を求めることです。
撮影というものは、光やらアングルやらレンズの選択やら背景やら、数え上げたらキリがないほどの要素でできあがっています。
その全てを最初から全部いっぺんに考慮するのは、ムリです。
ですから、その中の1コだけをチョイスし、それだけを考慮しながら撮影してみるのです。
たとえば「撮影距離」なら、撮影距離だけに着目して、寄ったり引いたりして、その写りの違いを確かめてみる。
それから「絞り」なら、絞りだけに着目して、開けたり絞ったりして、その写りの違いを確かめてみる。
そうやって、「何をしたらどうなる」を1コずつ確かめていく。
そして、その1コずつを積み重ねていく。
ここから入るのが、まずは確実な方法ですね。
ぼんやりしている状況から、まずは 具体的な1コの行動を起こすのです。
それは、生まれたばかりの子鹿が、手さぐりで回りの世界を確認していくような作業です。
手さぐりで回りの世界を認識し、その後にあらためてその世界に自分を位置づける。
写真の初心者も、手さぐりで写真の世界を認識し、その後にあらためて自分の写真を撮り始めるわけです。
写真初心者とテキスト本
そんなごく初期の段階の人が、写真の世界を認識するための「とっかかり」として利用できるのが、冒頭で紹介したようなテキスト本です。
いただいた本の中身もやはり、
- 絞りの違い
- アングルの違い
- タテ位置ヨコ位置の違い
- 広角・望遠の違い
等の、「違いを試してみよう」的なものでした。
そのひとつひとつを、ガイドに従って、ただなぞっていくだけでとりあえず写真の世界の認識が完了するという「仕組み」。
それがテキスト本です。
写真においてテキスト本を利用するメリット
私自身、もはやこの手のテキスト本を見ることはあまりないのですが、今回あらためて見て思ったのは、「本」ってやっぱり一貫性とまとまりがメリットだな、ということです。
情報だけなら、ネット上にワンサとあります。
しかしそれらは、スポット的でポツポツと散らばっているし、書き手が違えば一貫性も保たれません。
そういう意味で、「本」ってやっぱり、便利でラクです。
ちゃんとお金を取ってやっているだけのことはあって、作例写真もそれ用に撮影されているし、作りも丁寧です。
目的がしっかりとあって、全てのコンテンツが、それに向かってまとまっています。
その点、ウチのブログみたいなまとまりのなさとは、大違いですね。(笑)
ある1冊を参考にしながら、そのテキストをなぞって、完全にマスターできたならば、ひとまず「撮れる」という状態にはなるでしょう。
あるいは「写真を撮る」ということが、どういうことかの理解は得られるでしょう。
テキスト本は、ボクサーが土手をランニングするときに自転車で伴走してくれるコーチみたいなものです。
基礎体力をつける意味では、いいコーチになるでしょう。
初心者の本当の問題点
しかしながら、初心者の本当の問題点は、また別なところにあります。
それは、
「たしかに『あるひとつの撮り方』と『もうひとつ撮り方』が違うのはわかる。わかるよ、たしかに。でも、どっちがいいのかはわからない」
ということではないでしょうか。
タテ位置とヨコ位置が「違う」ということはわかる。
でも「どっちが正解?」
アングルやレンズを変えれば、撮れる写真が変わることもわかった。
でも「どれが正解?」
「ああしたらこうなる」は、よくわかった。
でも、何が「正解」かの判断をすることができない。
むしろこれが初心者の 本当の悩みといっていいのではないでしょうか。
初心者の本当の悩みとテキスト本の回答
この点について、テキスト本は基本的に回答を与えません。
「こういう撮り方をすれば、こういう見え方になる」あるいは、「どれが正解ということはないので、表現に応じて」といった書き方です。
「…その『表現』がわかんないんじゃん」
こう思う読者も少なくないでしょう。
また、「この場合、こういうふうに撮るのがいいでしょう」と回答がある場合も、それについて納得できればいいですけど、「『ダメ』なほうも全然よく見える、なんでそっちじゃなくてこっちが『良し』とされるんだろう?」
こう思う読者も少なくないでしょう。
結局、その答えはテキスト本が出せるものではありませんし、またそこに答えを求めるものでもありません。
テキスト本は目標を達成するための「手段」は教えてくれますが、「目標」は教えてくれません。
こういう写真が撮りたいならば、こういう手段が活用できますよ、とテキスト本は教えてくれますが、そもそもの「こういう写真が撮りたい」については教えてくれません。
それはあなたが決めるしかないことです。
初心者の本当の問題点の解決方法
では、その点はどのように解決したらいいのでしょうか。
そこは、やっぱり子鹿です。
子鹿がどうやって親鹿になっていくのかを、注意深く観察してみましょう。
子鹿に学ぶ、写真の撮り方
子鹿は「親のまね」をしながら成長していきますね。
親がやるとおりに自分もやってみる。
そして、親鹿はやはり生きる術を知っていますから、それを子供にも伝えていきます。
よちよち歩きの初心者であるあなたにとっての親鹿とは、
- あなたが撮りたい写真
- あなたが好きな写真
- あなたが目標とする写真
です。
それをそのまま「まねてみる」のです。
あなたがいいと思った写真は、あなたがいいと思っただけあって、そこにはあなたなりの「いい」が凝縮されています。
たとえば、絞りを「開ける」ことと「絞る」こと。
この両者の間に、そもそも善悪は存在しません。
「開ける」ほうが優れているとか、「絞る」ほうが優れているとか、そんなことがあるはずもありません。
しかし、あなたの好きな写真はボケていて、そのボケを「いい!」と思うならば、絞りを開けることは「善」になります。(絞りを開ける=よくボケる、なので)
あなたの好きな写真をまねてみることは、あなたの「いい!」や「好き!」を再現するということです。
つまりそこには、あなたひとりでは判断がつかなかった「いい!」や「好き!」といった「判断基準」が内包されているのです。
「どっちがいい」「どれが正解」といった判断は、あなたひとりの脳ミソで決める必要はないのです。
そこは親鹿を頼っていいのです。
あなたの撮りたい写真、好きな写真から、それらを借用してくればいいのです。
そして「親鹿」の援護を受けながら、最終的に独り立ちしていけばいいのです。
やっぱり子鹿は偉大ですね。
「子鹿物語」もぜひ、参考にしてみるといいでしょう。(嘘。笑)
まとめ
今回はいただいたテキスト本を元に、初心者の学習方法について考えてみたわけですが、結論はやはり大自然は偉大ということでした。
まさか子鹿が我々に写真の撮り方を教えてくれるとは思ってもみませんでしたね。(笑)
大自然の摂理には、我々が学ぶべきことが凝縮されています。
わからないときは、謙虚に大自然から学ぶのが正解です。
それでは今回の内容をまとめておきましょう。
- 生まれたての初心者はまず「よくわからない状態」を、具体的な1コの行動に変換する。
- そしてその1コを積み重ねてゆく。
- その際にテキスト本をコーチとして雇うのは有効。
- しかしテキスト本は、選択肢の提示はできても、当否の判断はできない。
- そこは好きな写真、撮りたい写真という「親鹿」の判断を仰ぐのが有効。
- そして親鹿の援護を受けながら、自分なりの判断をはぐくみ、最終的に一人前として巣立ってゆく。
これが一般的な「生まれた子鹿が一人前の親鹿になるまで」の流れ、もとい「始めたばかりの初心者が一人前の撮り手になるまで」の流れです。
あらためてテキスト本について
ちなみに今回いただいた本ですが、文中でも紹介したとおり、「やってみよう」の各テーマが、見開きの2ページに1コずつまとめられています。
ページをぺろぺろめくりながら1コずつ試していけば、初心者の「何をやったらいいかわからない」状態が「具体的な行動」に変換され、その結果が1コずつ自分の中に蓄積されていきます。
やっぱり本って、この「まとまりのよさ」がウリだと思います。
便利でラクな「本」は、初心者の最初のとっかかりとして非常に有効です。
私もサンダー平山氏にはずいぶんお世話になったのを思い出しました。(笑)
今回の本はアマゾンのリンクも貼っておきますので、興味のある方はどうぞ。