さて三脚です。
三脚が欲しくなる、とはどういう状況でしょうか?
主には次の2点ではないでしょうか。
- カメラブレを抑えたい。
- フレーミングを安定させたい。
「ブレを抑える」はわかりやすいかと思いますが、「フレーミングを安定させる」は、どういうことでしょうか。
例えば風景撮影などでは、右側の木の入り具合と左側の池の入り具合を微妙に調整し、一番いいところでピタッと止めておくことができます。
動きのあるモデル撮影なんかでも、背景の絵をピタッと完成させた上で、その舞台の中にモデルを配置する、というような撮り方もできます。
また、合成が前提であれば、フレーミングは固定しておかないと、前後の画像が一致しませんね。
また、マクロ域の撮影では、ちょっとのブレでもフレーミングやピント位置が大きく変わるので、「ブレを防ぐ」+「フレーミングを安定させる」という二重の意味で三脚が必須ですね。
また、そもそもブレなどありえないようなスタジオでストロボを使って撮る撮影でも、フレーミングを固定させるために三脚を使います。
それは、セットが固定なので、フレーミングもそれに合わせて固定させておいたほうが便利であることと、撮影のゴールがきっちり決まっている場合も多いので、それに合わせたフレーミングで固定しておくためです。
というわけで、機材にはそれを使う「目的」というものがあります。
そして三脚を使う目的は、
- カメラブレを抑えるため
- フレーミングを安定させるため
の2点にほぼ集約されます。
「セルフタイマーで家族写真を撮るため」なんて目的も、「フレーミングを安定させるため」に含まれますね。
物事は複雑に考えるよりも、シンプルに考えたほうがスッキリと理解できますので、今回の三脚選びも、この2点を軸に考えてみましょう。
目次
三脚を使う目的をハッキリさせる
まず最初に、三脚というのはカメラ機材のなかでも、かなり重くてかさばる、邪魔くさい代物です。
そんなものを持ち歩くわけですから、それに見合ったリターンがないと、とても報われません。
ただなんとなく持ち歩くだけなら、これほど「骨折り損のくたびれもうけ」的なこともありません。
何のために使うのか。
何のために今日三脚をもっていくのか。
ってところをハッキリとさせておいたほうが、精神衛生上もよろしいかと思います。
しっかりと目的を意識し、ちゃんと労力に見合った利益を享受することは、三脚においては特に重要なのではないでしょうか。
プロカメラマンの三脚
三脚の目的に沿った利用、ということで、一例としてコマーシャルのプロカメラマンの例を見てみましょう。
コマーシャルのプロカメラマンは基本的にどんな撮影でも三脚を使います。
それは大体において撮影のゴールが決まっているので、それに合わせてフレーミングを固定させるためです。
写真のどっち側にどの程度余白を空けるかとか、最初から決まっていることも多いですし、カメラ直結のPC画面を見ながらフレーミングを調整ということも最近では非常に多いですね。
「ブレを抑える」という意味ももちろんありますが、「フレーミングの固定」で使うウエイトが比較的大きいのが特徴です。
ハスキーという三脚
そして、そんなコマーシャルのプロカメラマンによく使われる三脚に「ハスキー」という三脚があります。
この三脚は開脚の角度が一定で、ローアングルが使えませんが、その代わり「センターポール」が長いので、高さの調整がスムーズです。
真ん中のセンターポール(エレベーター部)の上下で対応できる範囲が広いので、高さの調整にいちいち3本の脚を伸ばさなくても済むのです。
これは、「ブレの抑制」というよりも、「フレーミングの固定」という意味で使っているからこそ、特に生きてくる特徴です。
ブレの抑制だと、センターポールを伸ばすのは不安定ですからね。
そして、ハスキーの雲台はいわゆる「3way雲台」です。
カメラのタテの振り・ヨコの回転・左右の傾きが個別に調整できるので、フレーミングの調整には自由雲台より使いやすいのです。
なぜならプロの撮影は、まずカメラの水平を出した上で、水平を固定したまま他の動きを調整することが多いので、そういう場合の選択肢は3way雲台一択です。
自由雲台だとロックを開放すると、全ての方向にいっぺんに動いてしまうので、そういう使い方ができません。
プロの仕事では、スピードは善です。タイムイズマネーです。
高さの調整にいちいち脚を伸ばしていたり、雲台もヨコを合わせようとしてタテも同時に動いちゃったりするのは、かなり時間のムダです。
また、ハスキーはそもそもジュラルミン製で頑丈に作られていますので、プロの使用に耐えうる十分な耐久性と安定感もあります。
また、長年型が変わらないので、長く使っていても修理に対応してもらえる安心感もあります。
プロカメラマンのようなハードな使用にも、もってこいなのです。
というように、三脚にもちゃんと「目的」があり、ちゃんとそれに見合った製品が選ばれている、ということですね。
目的別三脚選び【実践編】
では、実際に三脚選びの作業に入りましょう。
まず、どんなカメラ機材にも共通することですが、あらゆる用途に対応する万能三脚というものは存在しません。
やはり、「あちらを立てればこちらが立たず」です。
軽さを重視すれば、安定性が犠牲になり、センターポールの長さを重視すれば、ローアングルが犠牲になります。
ジッツオに「システマティック三脚」という、いろんな用途に対応できるパーツ着脱式の便利な三脚もありますが、結局はそれなりのパーツを揃えなければいけないし、その価格からいって、別な三脚を2本3本買うのと同じことになってしまいます。
三脚においてもやはり、「用途にあった」製品を選ぶ必要があります。
そして自分は「何のために三脚を使うのか」をハッキリさせれば、自ずと製品も絞られてきます。
そして、三脚の用途とは主に
- ブレの抑制
- フレーミングの安定
の2点になります。
それでは次に、それぞれの用途にマッチする三脚とはどのようなものかをチェックしてみましょう。
ブレの抑制のための三脚
まず、「ブレの抑制」のためには、どんな三脚がいいのかを見てみましょう。
安定性
これはまず、なんといっても「しっかりした」三脚です。
脚の太さや耐荷重などを、使用する機材の重さに合わせた必要十分なものを選ぶ必要があります。
三脚の高さ
三脚の脚を伸ばしきった時の「高さ」ですが、これは自分の身長をカバーする高さがあったほうがいいでしょう。
カメラを覗くときに中途半端に屈んだ姿勢になるのは疲れますので。
また、三脚は高くなればなるほど便利なのは言うまでもありませんが、ブレの抑制重視でいくなら、高さは不安定に繋がりますので、あまり高くし過ぎないほうがいいでしょう。
センターポールの長さ
センターポールの長さについては、あまり考慮する必要はありません。
なぜなら、ブレの抑制で使う場合は、安定感優先のために、センターポールは基本伸ばさないからです。
ですから、逆にいうと、センターポールは短くてもいいのです。
そして、センターポールが短いと、ローアングルが使えるというメリットがあります。
脚の開脚の角度を大きくして高さを下げる「ローアングル」は、開脚して三脚自体の高さを低くしたとしても、センターポールが長いと、結局センターポールが地面につっかえて、その長さがイコール地上からの高さになってしまいます。
そして、センターポールが短くてローアングルが使えるということはもちろん、カメラ位置の選択の幅が広がるという意味で、大きなメリットです。
雲台
雲台については、もちろんしっかりしたものを選ぶ必要はありますが、自由雲台か3way雲台かについては好みでいいでしょう。
厳密なフレーミングが関係ない撮影、特にカメラの「水平」が関係ない撮影であれば、「自由雲台」、厳密なフレーミングが必要な場合には「3way雲台」ということになるでしょう。
ちなみに「自由雲台」は「3way雲台」よりも素早いフレーミングの変更が可能、などと言われますが、それは「3方向同時に変更する場合」に限った話です。
「1方向だけ」の時は3way雲台のほうが早いです。
1方向だけ動かしたいとき、3way雲台は文字通り1方向だけ動かせばいいですが、自由雲台は1方向だけ動かしたい時でも、他の方向も常にセットで合わせなければいけません。
そして、3way雲台が特に威力を発揮するのは、「水平を維持したまま」他を変更する、という使い方でしょう。
自由雲台だと、せっかくカメラの水平を出したのに、ロックを解除するとまた水平が動くということになりますので、そういう使い方はできません。
もちろん、「3方向をまとめて」動かすときには、自由雲台のほうが早いのは言うまでもありません。
「ブレの抑制」に使う場合の三脚まとめ
では、「ブレの抑制」で使用する場合の三脚選びについてまとめてみましょう。
- 脚の太さ、耐荷重などは、使用するカメラ機材に見合ったしっかりしたものを選ぶ。
- 三脚の最大高は自分の身長をカバーするものが便利。
- センターポールは短くてもOK。そしてセンターポールが短いと、ローアングルが使えるというメリットがある。
- 雲台はお好みで。
フレーミングの安定のための三脚
では次に、「フレーミングの安定」という用途で使う場合の三脚選びを見てみましょう。
安定性
まず、脚の太さや安定性については、「ブレの抑制」の時ほど神経質になる必要はないので、「軽さ」や「価格」を優先してもいいでしょう。
実際三脚は、「ある」か「ない」かだけでも、大きな違いです。
重くて頑丈な三脚の有用性は言うまでもありませんが、そもそも持っていかなければ意味がありません。
多少ヤワでも、軽くて持ち運びが苦にならないなら、そっちのほうがよっぽど有用な場合もあります。
実際使ってみるとわかりますが、三脚において「軽さ」は非常~に重要な要素の一つです。
カーボン三脚は非常に高価ではありますが、実際その価値は十分にあるのです。
三脚の高さ
そして、三脚の高さですが、これは高ければ高いほど、カメラ位置の自由度につながるので、脚の段数などが多く、高くなる三脚のほうがいいに越したことはありません。
しかしそうなると、三脚自体の大きさや重さ、価格に響いてきますので、実際にその高さを使うのかどうかをよく見極める必要はありますね。
まあ、なるべく「高い」に越したことはありません。
センターポールの長さ
次にセンターポールの長さですが、これは「ブレの抑制」とは違って、長いほうが有利ですね。
本当に「もうちょっとだけ」高さが欲しいときに、いちいち脚を伸ばすのは面倒以外の何物でもありません。
そして、脚を目一杯のばしてもまだ高さが足りない時でも、センターポールが長いと、そのぶん高さが稼げます。
しかし、先ほども見たように、センターポールが長いということは、すなわちローアングルが使えないということです。
ここは割り切って、ローアングルを使う場合はそれ用にミニ三脚などを用意したほうがいいかもしれません。
ちなみにハスキーという三脚は、センターポールを逆さ付けにして、ローアングル使うことはとりあえずできます。
三脚の脚の間からカメラが覗くような格好です。
もちろんカメラも逆さまになるので、操作は非常にやりづらいですが。。
雲台
フレーミングの調整に使う雲台は「3way雲台」がいいでしょう。
自由雲台だと、カメラの動きを個別に調整できないので。
特に水平を維持したままカメラを動かす場合に3way雲台が便利なのは、先ほど見たとおりです。
フレーミングが「ざっくり」でよければ、速いのは自由雲台ですが、「丁寧さ」が必要ならば、速いのはむしろ3way雲台です。
「フレーミングの安定」に使う場合の三脚まとめ
それでは「フレーミングの安定」に使う場合の三脚選びについてまとめてみましょう。
- 脚の太さや安定感については、それなりで。価格や軽さ優先でもOK。
- 三脚の高さは、なるべく高くなるほうが便利。
- センターポールの長さは、なるべく長いほうが便利。
- 雲台は3way雲台が便利。
オススメの三脚
今回は、一眼レフの三脚選びを
- ブレの抑制
- フレーミングの安定
という2つの観点からチェックしてきました。
もちろん、これら2つの要素を個別ではなく、両方併せ持つことも可能です。
先ほどチェックした、2つの要素を合体させてみましょう。
- 脚の太さ、耐荷重などは、使用するカメラ機材に見合ったしっかりしたもの。
- 三脚の高さは、なるべく高くなるほうが便利。(必要な時は伸ばし安定感重視の時は短く使用)
- センターポールの長さは、なるべく長く。(安定感重視の時は伸ばさずに使用)
- 雲台は3way雲台。
今回はこれらの要素を満たす、オススメ三脚をひとつ、ご紹介しておきましょう。
ハスキー三脚
それは「ハスキー」という三脚です。
三脚をチェックしている方ならば、必ず目にする三脚ですね。
コマーシャルのプロカメラマンの例でも登場しました。
もとはアメリカの「クイックセット社」という会社から製造されていましたが、現在は輸入代理店であった日本のトヨ商事が全面的に引き継いでいます。
約50年にわたって変わらない作りで、カメラマンの圧倒的な信頼を得ています。
安定感、耐久性、使いやすさは、長年の実績がそれを証明しています。
文中でも紹介しましたが、センターポール逆さ付けという荒業で、ローアングルも撮れなくはなく、「ハスキー5段」の総伸長は297cmにもなります。
ローからハイまで使えて、センターポールの長さも十分にあり、3way雲台は操作性と安定感抜群で、なにげにストラップも便利です。
また、価格もジッツオなどに比べたら、ずいぶんリーズナブルです。
「ブレの抑制」にも「フレーミングの安定」にも使える、まあほとんど「間違いのない三脚」であるかと思います。
写真学校で推奨されているのも頷けます。
まとめ
三脚ってなにげに、どれだけのメーカーがどれだけの数出してんだっていうくらい、ものすごい数と種類があります。
新宿のヨドバシカメラでは、それだけでワンフロア占有するくらいです。
なにげにそれだけ売れるし、需要もあるということでしょう。
確かに休日の新宿御苑などでは、日中の屋外でも三脚をかついだカメラマンの方が、花を撮ったりモデルを撮ったりしています。
そしてやっぱり、三脚がないと撮れない写真もあるでしょうし、三脚によって写真が変わるということもあるでしょう。
そして他の機材と同じく、三脚選びについてもやはり最初は失敗は付きものです。
三脚に関しては特に、安いものを買って使い物にならなかったという話はよく聞きます。
(ちなみに機材選び全般に関する参考になる記事がコチラです↓)
むしろカメラよりデカくてかさばる三脚君。
よく吟味して、最良のパートナーを得たいものです。