人の顔をレタッチするとき、能面みたいに「とぅるんとぅるん☆」にしちゃってませんか?
はっきりいってデジタルのレタッチは際限なくできてしまうので、「ふと気がつくと」能面になっていた、ということはよくあります。
今は激しいテクニックが横行していて、美男美女に仕上げるのは、逆に簡単です。
難しいのは、「生気」「その人らしさ」「情感」を残したままレタッチを仕上げることではないでしょうか。
そこで今回は世の中の流れとは逆を行く、「いかにやらないか」のレタッチ術です。
実際「人の顔」に関しては、被写体の個性を生かすならば、レタッチはむしろやりすぎないほうが得策です。
なぜなら、レタッチは本来の画像に「変更を加える」ことですから。やりすぎると「その人」からどんどんかけ離れていってしまいます。
そして人の本来の美しさは、「形」そのものではなく、形の奥に潜む「命」や「情感」にあります。
「形」が整ったとしても、それらを殺してしまっては本末転倒です。
そういう意味では「やらないレタッチ」は、「被写体を生かすレタッチ」とも言えます。
今回は実例と共に、「やらないレタッチ」がどういうものかを見ていきましょう。
目次
人の顔をレタッチする場合の考え方
さて今回は、「人物の顔」に特化したレタッチ講座です。
人物の中でも、最も重要な情報が集中する「顔」。
ほんの微妙な変更が大きく印象を左右する、とてもデリケートな部分です。
逆に言うと、「ほんの微妙な変更」によって「大きく印象を左右できる」のが、顔のレタッチの特徴です。
そしてこの特徴を生かしたのが、「やらないレタッチ」です。
このレタッチは、言ってみれば最小の手数で最大の効果を生むレタッチです。
手数を最小に抑えることによって、結果的に「被写体のその人らしさ」が保持され、その人の魅力やリアリティ・存在感が自然と引き出されます。
「お肌つるピカ、目ぱっちり」みたいなレタッチは、「すごい」かもしれませんが「美しい」かどうかは微妙です。
本当に難しいのは、「リアリティ」と「キレイさ」のバランスです。
なにもいじらなければ「リアリティ」は大きく確保できますが、リアルすぎるのはある種「興ざめ」でもあります。
毛穴や鼻毛やにきびが、生々しく写っているのは逆に本来の魅力を削ぎます。
かといって「つるつるピカピカ」にやりすぎるのも、ウソっぽさ満載です。
ですから、「リアリティ」や「魅力」を最大限引き出す最大地点、「やらなすぎず、やりすぎない」本当に魅力的な頂点、つまりその顔における「ピーク」を見つけることが最重要ポイントになってきます。
そして「やらないレタッチ」は、0を5や10にするのではなく、「マイナス部分」を「0」に「戻す」という発想です。
「その人」を「その人以上」にするのではなく、「その人以下」の部分を「本来のその人」に戻す作業です。
「やらないレタッチ」【実践編】
それでは実践編にいきましょう。
今回は、フリーの写真素材から見つけた、こちらの女性のアップの写真を使わせていただきます。
ちなみに今回の「レタッチ」ですが、ライトルームなどを用いたいわゆる「現像」という作業ではなく、フォトショップなどの「画像編集ソフト」を用いた「画像編集」という作業になります。
また、今回は「考え方」の話なので、どのツールをどのように使うかというような具体的な話は省かせていただきます。
ステップ1:明らかに目に付く部分を消す
さて撮影画像を開いてまず最初にやるべきことは、明らかに不必要なものを消すことです。
- にきび
- お肌のポツポツ
- 髪のハネ(通称アホ毛)
等。
特に「アホ毛」は、無くすだけでかなりスッキリと見え、効果絶大です。
「アホ毛」にはどうしても「おしん」のような「生活感」「生々しさ」を感じてしまいますので。
それから今回は、目の中のまつげの影がかなり目立つので、それも消しておきます。
これらは先ほども言った「マイナス」を「0」に戻す作業ですね。
「穴」を埋めてフラットにするみたいな、本来の状態に戻すような作業です。
また、この段階は料理で言えば「下ごしらえ」でしょうか。
ステップ2:「撮影の不備による欠点」を補正する
これは主にはライティングの不備ですが、撮影はいつもベストなセッティングで撮れるとは限らないし、ベストであったとしても不都合は出ます。
例えば影を弱めるために入れたライト(いわゆるフィルインライト)のハイライトが無駄に入ってしまうなどは良くある例ですね。
メイン以外のハイライトは、本来入るべきではないので、ここは修整が必要です。
また、セットでは再現しきれない微妙なグラデーションや、その人の顔の特徴による陰影の出方のクセといったところにも、手を入れる必要があるでしょう。
要はここでの作業は「その撮影で本来目指した描写に近づけること」、と言えますね。
今回は、強い直射光によるハイライトとシャドーの強烈な部分を緩和し、小鼻や目頭付近の不必要なハイライトも薄くします。
ちなみに小鼻のハイライトは、光の角度によっては強烈に入ることがあり、特にヘアメイクさんには嫌われる部分です。
ここにハイライトが必要なことは、ほとんどありませんので、出ちゃったら消して(薄くして)おいて間違いないでしょう。
ちなみにステップ1の作業は、文字通り「消す」ですが、ステップ2以降は「なじませる」という感覚です。
それは最初にも行ったとおり「変更を最小限にして、元の姿を生かす」ためです。この姿勢が「その人らしさの保持」に活かされます。
ここでの作業は言ってみれば「陰影のグラデーションの整理」ですね。
そうです、人の顔のレタッチは、「いじる」というよりも「整理」という言葉がふさわしいのです。
「整える」。
まあ、メイクと同じような発想かもしれませんね。
ステップ3:フォローアップ
最後に味を調える作業。「フォローアップ」です。
このままでもだいたいOKですが、細かいところ、気になるところに手を加えて、完成度を高めます。
床屋さんや美容室で、ケープを外し「さあ終わった」ってなった後に、まだしつこくハサミを入れるアレです。
しかしこの場合も、その発想はあくまで「マイナス」を「0」にすることです。
穴を埋めてフラットにすることであり、決してフラットな地面を「盛る」のではありません。
今回はまず、鼻筋とその奥の頬の明るさが近くて境界があいまいだったので、鼻のトップにシャドーを入れて鼻筋をはっきりさせ、ほうれい線の影も薄くしました。
それから左右のキャッチライト(黒目の中の白い点)の大きさの不均等を是正し、また、左右の白目の白さ加減を若干揃えました。
この場合も、「完全に一致」させるのではなく、あくまで「近づける」です。何度も言いますが、被写体の「同一性保持の法則」ですね。
最後に、向かって右の眉の下のガックリと段差があるところを、少しなだらかにしました。
あくまで「補う」という発想です。
レタッチの本来の意義
「たったこれだけ?」と思われたかもしれませんが、たったこれだけです。
「お肌は?まったくいじらないの?」とも思われたかもしれませんが、その通りです。
一般的に「レタッチ=お肌をつるつるにすること」、みたいなイメージがありますが、今回はそれだけがレタッチじゃないという意味も込めて、そのままです。まあもともとキレイですし。
さて、この二つの画像を見比べた印象はいかがでしょうか。
レタッチ後の画像のほうが、むしろ「本来の姿」という印象ではないですか?
ちょっとホコリをかぶっていた元画像のホコリを払って、元の姿に戻した、という印象ではないですか?
そうです、最初にも言いましたが「やらないレタッチ」とは、本来のその人に戻す作業です。
決して美男美女に仕上げるでもなく、つるピカたまご肌にするでもなく、本来の姿に戻すことが、「やらないレタッチ」の真骨頂です。
実際、レタッチをやりすぎて生気を失った顔を見ると、消してしまったシワや影やアンバランスが、いかにその人らしさに貢献していたかがわかります。
パッと見、欠点と見えたそれらは、実はその人をその人たらしめる重要な要素だったのです。
そういう意味では、むしろ何も手を加えないほうが本来的な意味で「美しい」場合もあります。
そうです、究極の「やらないレタッチ」は、文字通り「何もやらない」です。
何もやらなくていいなら、それがベストです。しかし、必要があるならそこだけ手にを加える。
つまりこのレタッチのポイントは、「どこが必要か」を見極めること、つまり、「やらなすぎ」と「やりすぎ」の間のピークを見極める、ということになりますね。
まとめ
さあ今回の「やらないレタッチ」講座。いかがでしたでしょうか。
ぐりんぐりんにいじり倒すのはそれはそれで楽しいことではありますが、「何がやりたかったんだっけ?」ってなることも少なくありません。
そんなときにこの「やらないレタッチ」は「やらない前提」から入るので、効果的です。
そして最初に言った「顔はほんの微妙な変更が大きく印象を左右するとてもデリケートな部分」について、例えば今回のようなレタッチを「服」でやった場合を想像してみてください。
「顔」と同じほどに写真の印象が変わるでしょうか?
…変わりませんよね。
いかに「顔」がデリケートな部分であるかが想像できます。「取扱注意」「fragile」です。
そんな意味でも顔のレタッチには、最小の手数で最大の効果を生む「やらないレタッチ」が効果的なのです。
レタッチは「人助け業」
さてこのレタッチの真骨頂は、「その人を“本来の”その人にすること」です。
現実の生活の中ではアホ毛も出るしお肌も荒れる。充血もするし鼻毛が飛び出すこともあるでしょう。
しかし、「本来の」その人は現実の目に見えているその人よりも、もっと素敵なはずです。
それを教えてあげるのがレタッチ作業。
つまりあなたは、彼や彼女を「現実」という名の桎梏から救い出す「ヒーロー」なのです。(笑)