ピーター・リク氏に学ぶ「写真を高く売る方法」

ピーター・リク氏に学ぶ「写真を高く売る方法」

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ファントム

前回アート写真について記事にしましたが、高く売れた写真を調べる中で、面白い現象を発見しました。

参考:アートと呼ばれる写真と、そうでない写真は一体何が違うのか?

現在、世界で最も高く売れた写真は、ピーター・リク氏の「ファントム」という作品で、約7億7千万円だそうです。(上記のモノクロ写真)

最も高く売れた写真は、「アート」ではなく写真でした。

(アートと写真の違いについては、前回の記事参照)

前回、アートは高くて全くワケがわからんぜ、という話をしましたが、実は最も高いのは、アートではなく「写真」です。

前回のアート写真の記事の中で、最も高額な写真を上から順に解説しようと思ったら、最も高額な写真はアートではなく「写真」だったので、あえてそれを外して、2位と3位の写真を解説した次第です。

なんとなくイメージで、「高額」=「アート」という勝手な印象がありましたが、そうではありませんでした

リク氏の写真は、いわゆる「コンテンポラリーアート」ではなく、「風景写真」あるいは「ネイチャーフォト」とでも言うべきものです。

要はインスタやフリッカーなどに日々アップされる、「上手い・キレイ・スゴい」写真の親玉みたいなもんです。

ですからその写真は、コンテンポラリーアートのように「よくわかんね~」というものではなく、もうパッと見で「すげ~!」っていうような写真ばかりです。

エターナル・ムード

ディバインライト

スカーレット・ムード

しかしこの手の写真は、インスタグラムやフリッカーなどでいくらでも見かけそうな写真なわけですから、要はこの写真の価格の根拠は売り方に尽きます。

つまり、普段我々が撮っているような写真でも、突き詰めれば、価格において「アート」を上回ることができるという画期的な例です。

写真を高く売るためには、何も「コンテンポラリーアート」のような難しげなことをしなくてもいいのです。(まあこれはこれで相当難しいでしょうが…)

その販売手法とはいかなるものか!?

今回は、リク氏のケースを参考に、写真をいかに「高く売るか」について検討してみましょう。

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写真に限らず自由に書いています。思ったこと、考えたこと、感じたこと。写真はほとんどフィルムとライカと50mmです。ブログのほうではもちょっと専門的なことを書いています。→

目次

「写真を売る」ということ

彼の売り方は独特です。

テレビ番組に出たり、タイムズスクエアの大画面で宣伝したりしています。

また、メディアに出る際は、カウボーイハットにむき出しの腕という演出も欠かしません。

ピーター・リク

参考:7億7千万円。世界一高値のついたオーストラリアの写真家、ピーター・リクの写真 「ファントム」(外部サイト)

プロモーションビデオみたいな動画も、多数公開されています。

これらは、言ってみればPR活動とでも言うべきものです。企業の広報宣伝のようなものです。

写真そのものとは、もはや無関係です。要は売り込みです。

すでに彼は、カメラマンではなくビジネスマンです。

写真を売る=「ビジネス」

写真は「価格」が付いて売買される時点で、もはや商品です。

八百屋における、にんじんやごぼうと同列です。

「商品」となった時点で、それが「アート」であろうが「写真」であろうが関係ありません。

あとはどうやって売るかです。

彼の活動は、気持ちいいくらいに売り込みに徹しています。

動画の最後には、セールスマンの募集もしています。

彼の活動は、まごうことなきビジネスです。

たまたま取り扱う商品が「写真」であった、くらいのもんです。

「写真を売る」とは、つまりそういうことですね。

写真における商品開発

上記を鑑みると、彼が売っているのは「写真」そのものというよりも、彼のキャラクターや演出を含めたもっと総合的なものと言うことができます。

それはそうです。

彼の写真は確かに素晴らしいですが、同じような写真はインスタやフリッカーなどのネット上に多数存在します。

その中で彼の写真だけが飛びぬけて高く売れるのには、何かしら理由があるはずです。

その理由が、写真だけではない「総合的なもの」というわけです。

写真にいかに価値を付随させるか

これが、写真を高く売るための重要なポイント、と言えるでしょう。

だれに売るか?

次に、「誰に売るか」ですね。

誰に売るかよって、写真にどういう価値を付随させればいいのかも、おのずと見えてきます。

リク氏の顧客は、プレジデントからハリウッドセレブ、スポーツ選手まで幅広いですが、要はお金持ちです。

お金をたくさん持っている人に売れば、高く売れる。なるほど当然の理屈であります。

そうなると考えるべきは、お金持ちに売れる写真です。

写真の内容もさることながら、そこに付随する演出、仕掛け、プロモーションなど、全ての総合力をそこに集約する必要があります。

では、お金持ちに売れる写真って、どんな写真でしょう?

それは、お金持ちがどんなものを買っているかを見ればわかります。

高級車、高級ホテル、高級ブランド…。

つまり高級品です。

つまり、構築するべき写真は高級な(あるいは高級そうな)写真です。

どう売るか?

確かにリク氏の実店舗を見ると、なんともモダンで高級そうな店構えではありませんか。

(いくつかの動画に実店舗の映像がありました)

そして写真自体も、なるほどお金持ちの豪邸を飾るにふさわしいビッグサイズであり、その内容も圧倒的な自然風景といったものが多く、強力なプレゼンス力を誇っています。

そして、オサレなロゴマークは、なんだかブランド品のような雰囲気を醸し出しています。

写真を含めて、取り巻く全てが、お金持ちのための「高級ブランド」感満々です。

カウボーイスタイルとアメリカ人

そして本人のビジュアル。

彼はオーストラリア人ですが、ビジネスの主な舞台は「アメリカ」です。

アメリカ人が最も好む、アメリカン・スピリットの代名詞である「カウボーイ」的なビジュアルは、彼の写真の「力強い自然」のイメージと相まって、強固なアピール力を発揮しています。

ピーター・リク

顧客であるアメリカ人が最も好みそうな写真を、最も好みそうな演出で見せる、というわけです。

マルボロの広告と一緒ですね。

マルボロ・マン

マルボロと言えば、前回の記事の表紙は、リチャード・プリンスの「Untitled (cowboy)」という作品ですが、これはマルボロの広告を複写したもので、写真作品で始めて1億円を超えた作品としても有名です。

リチャード・プリンス

マルボロが広告にカウボーイの写真を使っているのは、まさにそれが「売れる」ということを知っての演出です。

そしてこのリチャード・プリンスの作品は、その「アメリカ的ビジュアル」をアプロプリエーション(流用)という手法によって「作品化」しているわけですが、それが可能なのは、この「アメリカ的」がすでに当たり前の「前提」として世の中で機能しており、それをうまく利用しているからです。

その「前提」をビジネスに利用し、うまくアメリカ人にアピールしているのが、ピーター・リク氏というわけです。

価格設定

次にその価格設定。

お金持ちは、我々庶民のように、高いものをいかに安く買うかには興味がありません。(おそらく)

むしろ、「いかに高く買うか」のほうが、その価値を実感しやすく、満足度も上がるものです。(たぶん)

ですから、ベラボーな価格設定は、その価値をむしろ上げるものであり、買い手は我々庶民ではなくお金持ちなわけですから、高くても満足できれば買うわけです。

つまり、

高級で、アメリカ的で、お金持ちの購買心をくすぐる価格設定。

このように、トータルで地場であるアメリカのお金持ち向けに特化された写真は、なるほど7億でも売れるわけです。

「アート」と「写真商品」の違い

さてここで、「写真作品」の経済的価値について、ひとつ言及しておかなければならないことがあります。

それは、「アート(コンテンポラリーアート)」だと、買った後に値段が上がることが期待できますが、「写真商品」の場合はそれが期待できない、という点です。

アートの市場は、「プライマリー」と「セカンダリー」に大別され、最初に作家の手からお客の手に渡る段階を「プライマリー」、お客の手から次のお客の手に渡る段階を「セカンダリー」と言います。

サザビーズやクリスティーズなどのオークションは「セカンダリーマーケット」です。

前回の、3億だの何だのと言う価格も、すべてセカンダリー価格です。

ですから、「3億」という金額は、作者の懐に入っているわけではないのです、実際。

そして、作家に人気が出ると、需要が供給を上回り、プライマリーで5万円だったものが、セカンダリーで500万円になったりすることもあります。

このあたりはアート作品が「投機的」に扱われる理由でもありますね。

アートの価格は、ギャラリーやマーケットが認めた作品ならば、プライマリーで買って上がりこそすれ極端な下落は少ないはずです。

「アート」の価値は、価格が下がらない、むしろ大化けする可能性もある、という特徴があるのです。

ですから、「資産」として取り扱われたり、投機的な目的で売買されたりもするわけですね。

まあ一種の「株券」みたいなもんですね。

それに対して、「商品としての写真」だと、二次販売は文字通り「中古」です。

カメラや古本などの「中古品」と同じ扱いです。

言うまでもなく、基本的に中古価格は新品価格より下です。

ここが「商品」と「アート」の違いです

まあ正直、リク作品のセカンダリー価格については知りませんし、作品のエディションについてもどういう扱いなのかは知りませんが、やっていることはアートの範疇ではなく、ビジネスの範疇なので、上記のような可能性も十分考えられます。

そう考えると、やるならやっぱりアートで勝負だ!と思ってしまうかもしれませんが、作家の実入りはあくまでプライマリーの価格です。

セカンダリーの実入りは、それを売ったお客さんのものです。

ですから、「実入り」だけを考えるなら、それがアートであるか商品であるかはあんまり関係ないとも言えるわけです。

むしろこの点は買い手にとって重要な意味を持ちます。

素晴らしいアート作品を手に入れた!と思ったら、セカンダリーでは二束三文だったり。

もし、「経済的価値」という点でアート作品を購入するなら、それが「アート」か「商品」かは、しっかり見極める必要があります。

そういう意味で、経済的価値が目的の顧客は、アート市場から買いたがり、その結果アート市場は安定した需要が発生し、マーケットが安定する。

逆に「一発勝負」の「商品」として写真を売る市場は、そうしたバックボーンに乏しいので、「売り方」にかなりの創造力とエネルギーを強いられる。(まあそこが「ビジネス」たるゆえんではありますが)

そんな中で一人気炎を吐くリク氏は異端中の異端であり、破格中の破格なわけであります。

ピーター・リク氏に学ぶ、写真を高く売るためのエッセンス

なにはともあれ、リク氏のケースは、実に含蓄に富んでいます。

彼はアメリカでアメリカ人に向けたビジネスをやっているわけですから、これをそのまま日本にもってくるのは正直無理があります。

しかし、彼の手法から学べることはたくさんあります。

価値を付随させる

まず、写真の価値は、「写真そのもの」だけではなく、「付随させる」ことが可能

これはもう、カメラマンとしての能力の範疇を超えているので、有能なビジネスマンや広報宣伝のプロフェッショナルと組む、という手段が考えられますね。

一人では無理なことも、多人数で組めば可能なこともあるでしょう。

「三人寄れば文殊の知恵」であり、「三本の矢の教え」であります。

ターゲットを絞る

そして、「誰に売るか」という「ターゲットを絞る」

高く売りたい場合は「お金持ち」ですね。

しかし、お金を持っているのは個人だけとは限りません。

「企業」「団体」なんてことも考えられます。

そして、高くなくてもいいなら、「お金持ち」でなくてもいいでしょう。

なんにしても、顧客を明確に想定して、その人に向けた写真とそれに付随する世界観を構築する、ということが肝要です。

必要であればリク氏のようなコスプレも辞さない覚悟が必要でしょう。

ピーター・リク

価格設定を最適化する

あとは、その顧客に見合った、「最適な価格設定」です。

ターゲットによっては、「高いほど逆に売れる」ということもあるでしょう。

安ければ買ってくれるというわけではありません。スーパーの叩き売りではないので。

むしろその写真に「価値」を感じさせなければいけないわけですが、「高額」であることが、その価値の一端を担うということもあるのです。

我々庶民の感覚でプライシングしてはいけません。

なにしろ7億でも売れるという実例がありますので。

写真を売る上で最も根本的なこと

さて、いろいろとテクニカルな面は見てきました。

しかし、それらを上回る、最も根本的なこと。

それは、そもそも写真を売ろうとしているかどうかです。

インスタやフリッカーにも、リク氏と同じような写真は多数存在しますが、彼らとリク氏の決定的な違いは、そもそも「写真を売ろうとしているかどうか」です。

写真自体のポテンシャルは、同程度あるはずです。

しかし、それらのカメラマンは、そもそも自分の写真を売ろうとしていないのです。ましてや億単位でなんて。

リク氏は違いました。

初めは数ドルで売り始めたかもしれませんが、コツコツと積み重ね、ついには7億円という年末ジャンボ並みの金額をたたき出したのです。

年末ジャンボは当選確率にして2000万分の1ですが、リク氏のようにうまくやり遂げる人の確率もそんなもんではないでしょうか?

世の中にカメラマンが2000万人いても、その中でうまくやり遂げるのは1人くらいなもんです。

その最初の分岐点。それが、始めるか始めないか

いつ始めるの?

もう言うまでもありませんね。

7億という結果は原因なくして成り立たない

まあハッキリ言ってリク氏のケースはブッ飛びもいいところですね。

誰にでもできることではありません。

しかし、今では超ブッ飛びに見える氏も、スタートラインは我々と同じでした。

人生のある時点で写真を売り始め、コツコツと積み重ね、そして今の7億がある。

リク氏の結果だけを見てはいけません。

見るべきはそのスタートなのです。スタートしたからこそ、今があるのです。

もやは7億は忘れましょう。

これはお金だけの話ではありません。

あなたは何を始めますか?そしていつ始めますか?

7億という数字に、世間は色めき立ち、その結果のみについてあーだこーだ言いますが、それを生んだ原因のほうに目をやると、何十年か前に小さな一歩を踏み出したこと、そこに行きつくのです。

その一歩はあまりにも小さすぎて、簡単に引き延ばしにもできるし、忘れてしまうことも簡単です。

難しいのは7億ではなく、その小さな一歩を踏み出すこと、そしてそれを継続しつづけること。

リク氏から引き出せる含蓄の最大のもの、それは7億という結果ではなく、それを生むに至ったごくシンプルな原因です。

まとめ

もはや写真の話じゃないし、そして売る話でもないし。

なんて脱線はいつものことなので、大目に見てやってください。

しかし、ピーター・リク氏のケースは、ほとんど「異端」といっていいほど特殊なケースですが、現実に彼は実現しています

そして日本においても、日本版ピーター・リクが全く不可能とは言い切れません。

2000万分の1にチャレンジするのなら、年末ジャンボより、日本版ピーター・リクです。

宝くじは1回当たったらおしまいですが、ビジネスは利益を生み続けるシステムです。

筆者としては、この記事を読まれた方の中から、日本版ピーター・リクが出現することを切に願うものであります。

そしてこの記事がきっかけとなり、莫大な成功を収めることができたなら、当ブログへのお礼の寄付は、もちろん受け取るにやぶさかではありません。(笑)

ほんの1割、いや0.01割程度で結構です。

そういう意味も含めて、ぜひ立ち上がれ日本のカメラマンよ!(笑)

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