写真がデジタルになってから、撮った後の加工がとても簡単になりました。
昔は撮る前に全てやっておかなければならなかった特殊な効果などが、撮った後から非常に細かく設定できるようになりました。
また、アナログ時代であれば、色味の変更やボカシを入れるといった特殊効果が、フィルム上に記録されてしまうため、後から「やっぱりやめた」ということができませんでしたが、デジタルであれば効果の適用・非適用が自由自在です。
そんなわけで、撮影自体よりも、むしろ「撮影後」の処理のほうに熱心な方も多いことでしょう。
また、後処理専門の「レタッチャー」という職種も存在します。
商業写真では特に、画像処理(レタッチ)は年々そのウエイトを増してきていますし、デジタル技術の向上にともなって、レタッチはますます複雑かつ専門化されてきています。
ブツ撮りの分野ではすでに「撮らない」、つまり、コンピュータ上で全ての画像を完結させる(=CG)ことも行われています。
しかし、写真はいつもそんなにバリバリのレタッチを施さなくても、ごく簡単な処理でグッと見栄えが良くなるのもまた事実です。
今回はそんな、難しいテクニック不要な、「カンタンに」写真の見栄えを良くするコツをひとつ、ご紹介しましょう。
目次
ビネット効果
そのコツとは、いわゆる「ビネット効果」と呼ばれるものです。
写真の四隅が暗く落ち込んでいる写真をよく見かけることがあると思いますが、アレです。
最近では画像編集アプリなんかでも、手軽にこの効果をつけることができますね。
↓↓↓
クオリティの高さで有名な写真SNS、「500px」でも、ビネットの入っている写真のほうが多いくらいです。
確認してみてください。↓
それではビネットがなぜ効果的かというところを、
- トンネル効果
- 格調高さの表現
- ノスタルジックな表現
の3点から説明したいと思います。
トンネル効果
「トンネル効果」はその名の通り、トンネルの出口の明るい部分に自然と注目が集まってしまうという効果です。
写真の場合は、周りを暗く落とすことによって、自然と中央に視線を集めることができます。
特に中央付近に主要な被写体が集まっている場合は、より効果的でしょう。まあ写真で主要な被写体が隅っこにある場合も少ないと思いますが。
またこの効果は、建築における店舗設計にも効果的に使われています。
暗いエントランスの奥に、ぽっかりと浮かぶ店内の明りに、ついつい引き込まれてしまった経験は、どなたにもおありなのではないでしょうか。
格調高さの表現
それからビネットによって、写真に何か重みのようなものが加わり、自然と「アート風」な「ちょっと良さげ感」が加わります。
ウェディング写真の場合
ジェフ・アスコーという、セレブからもご指名を受ける世界的に有名なウェディング写真家がいますが、彼の写真にはだいたいこの「ビネット効果」が付けられています。
それによって、アートな雰囲気、格調高さのようなものが演出されています。
ウェディングという非日常な出来事を、画像処理によって、より「格調高い出来事」「アートな空間」へと変換しているのです。
営業写真館のポートレートの場合
また、格調高い写真の代名詞ともいえる、営業写真館の写真でも、ビネット効果は多用されています。
写真は今回のテーマとは全く関係ありませんが、イギリスの俳優オーランド・ブルームです。
営業写真館のポートレートとは、だいたいこんな感じです。
もともとのイケメンが、写真によってさらにイケてる度が増していますね。↑↑↑
イケてる度アップの理由は主に、陰影の強いライティングとビネット効果によるものです。
特徴として下がガッツリ落ちていますね。(下が暗い)
写真館の写真は、レンズの前に「ビネッター」と呼ばれる光を遮るギザギザの板を入れることがあり、それによってあえて下をガッツリ落としています。
みなさんもレンズフードが画角に入ってしまい、画面の隅になんか黒いボケが入っちゃったって経験、ありませんか?
「ビネッター」はあれと同じ仕組みで、お弁当のおかずの仕切りに使う「バラン」のようなギザギザの板をレンズ直前にセットして、あえて写真の下のほうをぼんやりとカットしているのです。
それによって、人物の体が写真の下端で「スパン」と切れてしまうのを避け、また、浮かび上がるようなイメージと格調高さを演出しています。
さらに言えば、人物の背後からバック(背景)にも光を当てて、グラデーションを演出しています。
背景も人物の周りだけ明るくて、周辺が暗く落ちていますね。
このように「ビネットonビネット」とビネット効果を重ねてくるのは、写真館の写真が「格調高さ」や「品格」のようなものを求めているからに他なりません。
ビネットは、「アート風」な「格調高い」表現にも、その効果を発揮するわけです。
ノスタルジックな表現
あと、写真加工アプリ等で、「トイカメラ風」とすると、だいたいこのビネット効果ももれなく付いてきますね。
「トイカメラ」というのは、そのまんま訳せば「おもちゃカメラ」です。「ホルガ」などが有名ですね。
カメラというよりもむしろ「おもちゃ」なので、その写りももちろんチープなのですが、その独特のチープさがまた、根強いファンを生む要因にもなっています。
このトイカメラ、レンズもプラスチック製だったりして、なかなかチープなのですが、その結果周辺減光が甚だしく、それが「トイカメラ風」の写真の特徴にもなっています。
どこかノスタルジックで懐かしいような写真、そんな雰囲気を演出する効果の一つとしても、ビネット効果は生かされています。
写真レンズと周辺減光
ちなみにこの「ビネット効果」、写真レンズの特性として勝手に撮れてしまうこともあります。
前述のトイカメラの例もそうですが、この周辺減光は、なにもトイカメラだけではなく、普通の高価な一眼レフの交換レンズでも発生します。
特にF値の明るい大口径レンズを絞り開放付近で使えば、自然とそうなります。
また、望遠レンズよりも、広角レンズでこの特徴は顕著です。
これは、光がレンズに入射する角度が大きいほど光量が低下する「コサイン4乗則」とよばれる原因と、単純に端のほうから入ってくる光が鏡筒にケラレるという原因がありますが、要は写真レンズとしては物理的に避けられない現象です。
しかし、その「自然ビネット効果」が、写真に一種の「良さげ感」をもたらしているのもまた事実 です。
大口径レンズをお持ちの方は、積極的に絞り開放付近で撮ってみるのも面白いでしょう。
ちなみに絞り開放というのは最も収差が出やすく、それはすなわち、最もレンズのキャラクターが出るということです。
「レンズ沼」という言葉があって、買っても買ってもレンズが欲しくなる、まさに底なし沼の様相を呈するのは、この開放付近の描写にそれぞれ個性があって、どんどんほかのレンズを試してみたくなるからです。
何はともあれ、周辺減光に限らず、レンズのキャラクターを生かすという意味で、開放付近での撮影は面白いものです。
沼にはまらない程度に楽しんでみるのもいいでしょう。
写真と加工の程度
さて、写真に一種の「味」を加えるこの「ビネット効果」。
最近ではカメラ内に「ピクチャースタイル」のような、写真の見え方を設定する項目もありますし、画像編集アプリで「トイカメラ風」や「フィルム風」「ジオラマ風」などの効果を手軽に適用できるようにもなっています。
画像加工はもはや専門家だけのものではなく、だれもが気軽に試せる時代です。
もちろん画像加工自体、面白いものですが、あまりにもいじりすぎると、写真本来の良さを生かせない場合もあります。
「いじる」ことが目的となってしまい、写真の本来の良さを見せることから、かけ離れてしまうのです。
そんなときにこのビネット効果は、写真本来の内容を損なうことなく、ごく簡単に、写真の「格」をアップする手段として最適です。
だれでもバリバリいじれてしまう時代に、あえてビネット程度の軽い処理で写真本来の良さを生かすのも、なかなかオツなもんです。